黒き獣
エルは何かを失ってしまった…
しかしその眼の火が消えることはないだろう。
王国を打ち滅ぼすその日まで…
拠点にて…
『おうエル!半獣を見つけたんだって~?やるじゃねーかー!』
セルドはひどく酔っぱらっている。酒癖もかなり悪い。
『酒くせえな。浮かれるにはまだ早いぞ。』
『まあそういうなって!飲んで飲んで!!』
『俺はいい、少し部屋で休む。子供たちを頼んだ。』
自室のベッドに横たわる。
頭の中で声が聞こえる。
『エル君、今日もお疲れ様!けがはない?』
『サクラか。大丈夫だよ。』
『それにしても驚いたよね!私たち以外の半獣が居たなんてさ。』
『あぁ。これでやっと計画を進められる』
『ふーん。』
彼女は姿を消した。
5年前からだ。彼女を目の前で亡くしたあの日から、彼女の姿が時折現れるようになった。
今日はかなり疲れてるみたいだ。まだ何か聞こえる。
『エルー!エルー!いるんでしょ!入れてくれない?』
ミラだ。大方晩飯の差し入れだろう。
『腹減ってないからいらねーよ。』
『あっそう。』
寂しそうな声で答えた。
悪いが今は一人にしてほしい。
バンッ!!ドアを蹴り飛ばして入ってきた。
『あんたね!その態度いい加減にしなさいよ!』
『いきなりだな。何が言いたい。』
『その態度よ!!』
彼女はこちらに向かって走り出し、目の前に立った。
『まずは食べなさい!』
『俺はいいよ。いらなっ!!ふっ!』
『どう?おいしいでしょ!ミラ特製ハンバーグは』
無理やり口にねじ込んできた。強引な女だ。
だが、確かにうまかった。
『ありがとう。うまかったよ。』
『当然でしょ!…ふふっ!よかった!』
頬を赤らめてそう言った。
彼女の強引さには参る。…でも少し元気が出た。
『半獣…いたね。これで近づけたのかな。……西の黒獣に。』
西の黒獣。近年、この国で噂されている黒獣の生き残り。
その身に纏う漆黒は見た者の光を奪い、異様に伸びた鉤爪は音もなくすべてを切り裂く……
流石に脚色はありそうだ。
しかし本当にいるとなれば、王国転覆のために共に戦ってほしい。
……なんだ?視線を感じる。こちらをまじまじと見ている。
『どうした。』
『いやいやなんでも!なんかすっごく真剣な表情してたからさー!』
『そうか……お前はもう寝ろ。明日は早いからな』
『そう?じゃ、エルもお休み!』
彼女は背を向けて歩き出した。
『ミラ!……ありがとな。』
『うん!』
今日はもう寝よう。明日も朝は早いんだ。
休めるときに休んでおこう……
同時刻、宝賊団アジト……
組員たちが話し合っている。
『あいつら中々帰ってこねーな』
『半獣がいるってガセだったんじゃねーか?』
奥から大男が歩いてくる。
『いや、情報に間違いはないはずだ。』
『隊長!』
大男は考え込む。
(ここまで帰ってこないとは。殺り損ねたか、あるいは……)
『よし。』
『隊長?』
『俺たち星の隊は帰還する!』
『隊長!なに言ってるんですか!あいつらは?置いてくんですか!?』
『あぁ…嫌な予感がする。ついてこい!』
隊員たちは困惑している。
『来い!早く!』
『はい…』
星の隊は馬に乗り本拠地へ向かう。
道の途中…
道に誰かいる。
『おい!邪魔だぞ、そこどけ!』
『……』
『あ?耳ついてねーのかてめえ!』
隊員達は近づく。
『あ?あいついきなり消えたぞ?というより何も』
『おい!みんなどこ行った!』
『お前たち!返事をしろ!』
隊員たちは慌てふためく。
直後…
バシュッ!!バシュバシュッ!!!
……。…。……。
ゴロンッ
地面には隊員たちの首が転がっていた。
その眼と耳を切り裂かれて…。