5年後
5年の月日を得て、彼は王国を瓦解させるためのレジスタンスを結成した。
絶望と恨みに満ちた5年前。
俺は国への反逆を誓った。舞い落ちるサクラに……
『集合!!この地域の周辺に半獣の住処があるという情報がきた。何かあればすぐ報告してくれ!』
……ここは俺が結成したレジスタンス、『狼影』の活動拠点だ。
結成メンバーはサクラの父親のブロスさん、セルド一味、その他村人、そしてミラだ。
彼女は俺が王国を出ると聞いた時、俺のもとにきて一緒にこの組織を結成してくれた。
この国は、俺がもともと住んでいたフリード王国から西に位置する国、キエン共和国。
絶対君主制のフリード王国とは違い、国民総出で政治を行う共和制が採用されている国だ。
エルフ、ドワーフなどの亜人種が多く生活していて他国に比べ比較的半獣への迫害も少ない。
『エル。もう3日も何も食べていないじゃない。』
『仕方ないさ、もうすぐなんだ。あと少しではじめての、村人以外の半獣と接触できるんだ。』
ここ一週間、この町では半獣の目撃情報でもちきりだった。
この国でも半獣の存在は大変珍しいものだったからだ。
バンッ!!拠点のドアが開かれた。
『おいっ!こいつを手当てしてくれ!!』
ブロスさんが子供を抱えてひどく慌てている。
この子は…
『すぐに手当てしましょう!!』
危険な状況だ…一刻を争う。出血が酷く傷も深い……
できる限りの処置はした。後は待つことしかできない……
『…………はっ。……』
子は目を覚ました。
本当に良かった。これで話を聞ける。
『大変だったな、突然で悪いが話を聞かせてくれ。』
この子は恐らく半獣だ。獣のような耳、口内には牙。間違いないだろう。
『君はなんで身体中傷だらけだったんだ?』
『僕、川の周りで友達と遊んでて、そしたら宝賊が!』
まだ落ち着けていないみたいだ。
宝賊とは主に宝石を盗むことを生業とする盗賊団の名だ。
彼らにとって半獣は絶好の獲物。
半獣の持つ目は激しいきらめきと発光することから『生きた宝石』とも呼ばれている。
その眼球一つで金貨20枚以上の価値がある。
これは上級職の人間が1年働いても足りない金額だ。
『その友達は今どうしているんだ。』
『みんなが戦って僕を逃がしてくれたんだ!みんなを助けて!』
『エル君!すぐに行こう!』
『ええ。行きましょう。君は?』
『僕は…』
俺はこの顔を知っている。
無力で何もできずただ絶望するしかなかったあの時の俺にそっくりだ。
『僕は、僕もみんなを助けたい!!手伝わせてください!』
俺とは違うみたいだ。
すぐに3人で拠点を出て川に向かった。
『痛めつけるのはそんぐらいにして、ブツを回収しろ。』
『わかったよ。悪いな…もらうぜその目』
宝賊に囲まれた子供は今にも殺されてしまいそうだ。
『ブロスさんは子供たちを、俺は』
剣先が桜色に輝く。これは俺が身につけた剣技『桜花』。
舞い散る桜のようにその命を斬る。
『露斬り』
彼らの体は内側から裂ける。
痛みに耐えきれぬ叫びが夜の空に響き渡る。
当然の結果だ。
子供たちはその光景を呆然と見ていた。
『間に合ってよかったよ。じゃあ拠点に帰ろうか。』
『エル君!ダメだこんなやり方!』
『何か問題が?』
『賊から情報を引き出せば同胞も見つけやすくなる可能性もあったろ!』
『子供たちから聞き出せばいいじゃないですか。それに彼らは口を割りませんよ。』
彼らに情はない。
情けをかける必要もない。
人の罪が消えることはないのだから…