桜咲き乱れ、空に舞い落ちる
『……クラ!……サクラ!』
(エル君の声が聞こえる、優しくて甘い。そんな声。……)
***
私はサクラ。サクラ・ロゼ・クロリス……私には夢がある。それは、、、純白のドレスで身を包み、愛する人と一生愛し合うことを誓う儀式。つまりは結婚。愛する人と身体が朽ち果てるまで永遠の時間を共に過ごす。そんな美しい愛の約束が私の夢だった。
『サクラちゃん!今日は何して遊びましょー?』
お母さんの笑った顔。朧気だけど、確かな記憶。私はお母さんの笑った顔が大好きだった。
『おかあさん。サクラね、おままごとー……』
『うん!いいね!おままごと!じゃあ結婚式なんてどうかな』
『けっこんしき?』
『そう!結婚式!結婚てゆうのはね、一番大好きな人と一生一緒にいられますよーに!って二人で未来を願う儀式なんだよ。』
『けっ…こん!私もする、けっこん!』
『サクラにはまだ早いかな?っまずは、一番大好きな人を見つけないとね!』
***
『けっ……こ…ん。け…こん。』
『…っサクラ!サクラ!』
サクラはゆっくりと目を開け暖かな手で僕の頬に触れた。
『エル、君?……無事でよかったー。』
『こんな時まで…なんで、なんで!』
サクラの気遣いが辛い。彼女の優しさが僕の心を締め付ける。
『エル君、すーきー。』
『僕もだよ!!だから生きて!サクラ!』
雨が傷に。血がにじむ…乱れ咲く桜のように。
『私ね…お嫁さんになりたかったんだ。でも、こんなになっちゃもう』
頬に涙が流れ落ちる。雨粒とともに。
『しよう!結婚!だからっ…生きてっ!』
『嬉しいよ。エル君…。』
雨が激しく降り注ぐ。
『私が人間だったら…ずっと隣にいられたのかな…』
『サクラがだれであっても!どんな姿をしていても!ずっと隣にいるよ!』
ハッと目を見開き、安心したような顔をした。
『そろそろだね。またね、エル…君……』
サクラは体温を失う。視界が暗くなっていく。音も光も、何も入ってこない。
『うぁああああああああ!』
絶望を叫ぶ。視界は歪み切った。
もう何も見えない…
***
どれだけ時間が経っただろう。涙も声も枯れ果てた。森は燃え尽き、空は晴れ渡った。…行こうサクラ。
ここは僕たちが出会った場所。
青く生い茂る草原と桜の木々。横たわると彼女の声が聞こえてくる。
『あの、大丈夫?』
頬を撫でるぬるま湯のような、耳の奥に響き渡る柔く、暖かい声だった。
『エル君!…エール君!…ふふっ、エル君』
彼女が僕の真っ白な世界に愛という名の絵具を垂らしてくれた。優しい色…
透明だった毎日が愛を帯び、中身のない言葉に恋が詰まった。
サクラのくれた世界は僕にとって幸せでは足りない程の…
心は苦しい。だが空はこんなにも青い…
舞い散る桜吹雪に彼女の存在を感じた。
しかし彼女はもういない。何を願っても、、、
…視界が紅く染まる
許さない。世界を、王国を、父親を…
『剣帝、、カルヴァリオ...!』
あいつがあの時、あそこに居なければっ!サクラが死ぬ事は無かった。俺にもっと力があればっ…!
サクラの居ない世界にもう固執するものはない。
ならもう、いっそ…
僕は誓った。この空に、この桜に、
『壊してやる..!この国の全てを!』
これは僕が…俺がこの国を、父を、全てを潰す物語。
その、序章に過ぎない
***
桜の花は全て、舞い散った。