絶望的逃走
彼は半獣の起源について教えてくれた。
彼の話を要約すると半獣は1000年以上前、人間と戦争を繰り広げた獣、『黒獣』と人との間に生まれたのが始まりだ。
半獣は人間と黒獣、二つの姿を持ち戦争を止めるための架け橋となる存在だった。
しかし半獣は精神が著しく不安定になる時がありその際半獣に対して友好的であった人間も、次第に半獣を恐れ忌み嫌うようになってしまったと……
『そうだったんですか……黒獣はどうなったのですか。』
『人間との争いに負けて今はもう……。』
サクラの父親はこの状況を憂いているそうだ、無理もない。
『僕に何かできることは』
『……』
人の子である僕が彼らの助けになるのは難しいのかもしれない。
怒りがこみ上げる。
話を聞く限りでは半獣は両種族の間を取り持とうとしていただけなのにっ!!
村人の一人が走ってきた。
『おい!すぐ近くまで騎士団の連中が来ているぞ!!!』
『!!!!』
見てみると森の外は火の海になっていた。父さん……
村人たちは次々と動物のような姿になり走り出していく。
動物のようだが理知的な目が人間を感じさせた。
他の人たちを見るとセルドがいた。彼はちゃんと豚みたいだ。
『その姿じゃ移動はきついんじゃないか?豚だろ?』
『失礼だな!猪だよ!またド突かれてーのか!』
二度とごめんだ。あの時は本当に死んでしまうかと思った。
そんな僕たちを見てサクラが
『もう!そんなこと言っている場合じゃないって!もうすぐそこまで来てるのよ!』
村人達とともに洞窟を出た。洞窟を出るともうすぐ目の前に騎士団の姿があった。
『いたぞー!!ここに半獣の群れだ!!』
『やばっ!エル君、行くよ!乗って!!』
サクラは狼の姿になり走り出す。風を切るような速度なのに彼女の背中にはとても安心感があった。
『サクラこれからどこに?』
『あはは!どこに行くんだろうね』
逃げる場所なんてない。危機的状況だが不思議と絶望はなかった。あるのは高揚感。サクラと共に危機を乗り越えよう。きっと僕らなら大丈夫だ。
***
逃げている時にほかの村民とは分かれてしまった。
逃げた先には広場があった。枯果てた噴水に畑、どうやらここは廃村のようだ……
『ここは一体?』
『古い廃村みたいだね、どこかに一度身を隠そう。』
サクラはかなり疲れているみたいだ。無理もない。
『サクラ!そこに大きな小屋があるよ!ここで一度休もう』
サクラは疲れた表情で言った。
『エル君?私ねエル君に謝りたいんだ。…色々』
『そんなこといいよ!それより早く小屋に入ろう。』
『う、うん』
小屋に向かう。あとで彼女に今までの感謝を伝えよう。
彼女の背を追って小屋に向かった、その時、
『……っ、う……』
サクラの胸は裂き切れていた。口からは血が噴き出す。誰だ。
振り返るとそこには驚く父の姿があった。
『エル…なのか?』
『父さん!!何やってるんだ!!』
『お前こそこんなところで…なぜ半獣と!』
明らかに動揺した父を見るのはこの時が初だった。しかし、父の質問に答えられるほど冷静ではいられなかった。
『とにかくだ!ここはもう戦場だ!!今すぐ街に帰れ!今すぐだ!!』
父は騎乗し遠くへ向かった。もう声は届かない。なぜだ…なぜこんなことに……。
森は燃え上がっている。湿度が濃く、生温い。
雨が降ってきた……