琥珀とターコイズ
鈴虫の鳴き声が聞こえる。
『寝ちゃってたのか……』
部屋の中は月明かりに照らされていた。
目を開くとそこにはこちらを向き、深い眠りにつく彼女の姿があった。
僕は目を見開いた。なんで布団に!?自分のベッドがあるじゃないか……!!
サクラの唇が目の前にある。こんなに近いところに……
無意識に顔が近づく。ダメだ!こんな不誠実なこと!
彼女はゆっくりと目を開け琥珀のような瞳でこちらを見、赤らんだ顔で言った。
『しちゃう?』
理性が抑えられなくなりそうだ。心を押し殺した。
『だめだよ。そういうことは本当に好きな人とじゃないと。』
『私、エル君とならいいよ?』
照れた顔でそう答えた。かわいい……
彼女は優しい。だからこそ誠実でいたいんだ……
次の朝
……僕たちは部屋の天井を眺めていた。
『服着てないから、少し肌寒いね』
『ああそうだね。サクラ。』
僕たちは互いの肌の温かさを確かめ合った。
二人で窓から差し込む朝日を浴びた。
驚くほど落ち着いている。まるで賢者になったようだ。
サクラの肌はスベスベで少しひんやりしていた。
『じゃいこっか?』
階段を降り、サクラのお父さんに朝の挨拶をしに行った。
『おはようございます!/おはよう!父さん!』
彼は何も言わなかった。もしかして昨晩の聞かれてた?
気まずい……僕らは逃げるように家を出た。
青空の下を歩く。
草原を二人でかけていく。
大樹の下で見つめあっていた。
『もうすぐお別れだね。』
『そんなことないさ。すぐに会いに行くよ。』
『待ってるからね、エル君。』
***
僕は家に帰った。
『ただいまー。』
家には誰もいない。部屋に戻ると机には手紙が置いてあった。
『エルよ。王の命令で2,3日家には帰れない。母さんを頼んだぞ。』
父は王国の騎士である。剣を学ぶものや、その道をゆく者からは剣の皇帝…“剣帝カルヴァリオ”と呼ばれている。
母さんは買い物でも行ってるのかな?
ボヤァッとしながら窓から空を眺めていた。
外からガヤガヤきこえてくる。なんだか騒がしいな。
文句でも言ってやるか。窓を開け
『もうちょっと静かにっ!』
『号外!号外!王直属の騎士団が半獣の住処を見つけたぞー!』
『なんですって!騎士様のおかげでこの街も安泰ねー!』
騒ぎの正体はこれか。確かに朗報だな。しかし、今まで半獣の名は聞いていたが見たことはないな…
『今日はお祭りよー!』
街全体はもう祭りの準備を始めていた。早すぎだろ…
『エルー!準備手伝って!』
幼馴染のミラ。体が締まっていて短髪の活発系女子。いわゆる腐れ縁ってやつだ。彼女の家は一家代々、街の管理を任されており街全体の顔となっている。
『エルー!いないのー??』
『分かった分かった!今いく!』
街を歩く。屋根の上などは既に装飾品で飾られており、みんな活気づいていた。
『昨日家にいなかったでしょ?どこ行ってたの??』
『別にミラには関係ないだろ?』
『心配してたんだよ!』
頬を膨らませている。小動物のようだ。
『ごめんって。祭りのとき何か甘い物でも買ってやるからさ。』
『やったーー!!!』
子供か。祭りの準備も終わり、夜も近づいてきた。
***
祭りの装飾が赤く光っている。多くの店が路上で開かれている。彼女もその水色の目を輝かせて街を見渡している。
『すごいね!エル!』
本当にすごい。鮮やかな街の色に言葉を失った。
『行くよ!』
『えっ』
『もう!甘い物買ってくれるんでしょ?』
彼女は僕の手を引いて走り出す。ある店の前で立ち止まった。ここは果物を飴で包んだ飴菓子の店だ。
彼女は真っ赤なりんご飴を手に取った。
『それがいいのか?』
『うん!!』
二人でりんご飴を食べながら歩いていた。
『おいしいね!』
『そうだな』
祭りにはたくさんの人が集まっている。普段街で見かけない人も多くいた。サクラも来てたりするのかな。
『ああ!!今別の女の子のこと考えてたでしょ!』
『えぇ!?』
『ほんとデリカシーないんだから!』
『誰のことも考えてないよ!』
噓をついた。
『ふーん?ならいいけど』
彼女はそっぽ向いてしまった。
『おい。機嫌直せよ。』
早歩きで前に進む彼女の肩を掴みそう言った。
すると彼女はこちらに振り向いた。
『ッッッ!!』
唇を奪われた。
『ふふ!どうよ私の唇は!』
ミラは照れながら、笑顔でそう言った…
これはまずい。
騒々しいはずの街の賑わいが心臓の音で今は聞こえない。