夜の密談
パチッパチッ…木の燃える音が聞こえる……どこだ…ここ……
目の前には夜の闇を照らす焚き火があった。体を見ると大量に包帯が巻かれていた。誰かが手当てしてくれたみたいだ。体の傷跡を確認していると、奥から誰かきた。
『やっと目を覚ましたんだね!中々起きないから心配したよ!』
彼女だった。焚火に照らされる彼女の白い肌はまるで溶けかけている白雪のようだった。彼女に見惚れていると、
『何ボーっとしてるの?もしかして記憶喪失?』
冗談交じりで彼女は言った。彼女の声は日に照らされた川のようにみずみずしく綺麗だった。
『だ、大丈夫です。それより、先ほどは助けていただきありがとうございました。どうお礼すれば、』
『いいよいいよ!困った時はお互い様でしょ?それよりほんとに無事でよかったよ!』
優しい。優しすぎて心配になる。
『ため口でいいよ!私はサクラ!サクラ・ロゼ・クロリス!呼び捨てで構わないから!』
サクラ…いい名前だ、彼女の持つ桜色の髪にぴったりの名前だと思った。
『君の名前は?』
興味深そうな顔で僕を見つめてきた。宝石のようなキラキラした目がとても綺麗だった。火照った顔で僕は答えた。
『……僕はエル。エル・ルシアス。よろしく。』
気恥ずかしさを隠すように答えた。
『エル!いい名前だねっ!よろしく!エル君!』
その一言に、少し照れくさくなって目をそらした。
「あっ、そうだ!」
サクラが手を叩く。
『あ、あー!スープ作ってたんだ!よかったら食べてよ!出来立てなんだ!』
スープの中にはトマトやキャベツ、玉ねぎなど野菜がたっぷり入っている。おいしそうだ。
『ありがとう。いただきます。』
サクラがよそってくれたスープを一口……涙が溢れ出る
『ちょっと!そんなに口に合わなかった?』
彼女は不安な表情を浮かべている。僕は笑顔で答えた。
『すごくおいしいよ!』
食後・・・
『ご馳走さまでした。おかげで足先までぽかぽかだよ。』
『よかった!今日はもう遅いし、私の家泊まりなよ!』
サクラは僕の手を引っ張る。彼女に連れられるまま、彼女の住む村に案内された。
『こんなところに村があったなんて』
土地勘はある方だったが村の存在を知ったのはこのときが初めてだった。村に着くなり彼女の家に案内された。
『おじゃましまーす』
彼女の家に足を踏み入れた。桜のような桃のような、そんな甘い香りが体中を包んだ。すると家の中からドタドタッとこちらに向かってくる音がした。
『誰だテメェ!俺のサクラに手ぇだしたらタダじゃすまねぇぞ!』
俺のサクラ?初恋が早くも砕け散る気がした。
『お父さん!お客さんに対して何言ってるの!!』
彼女は頬を膨らませ怒っている。
父親は正座させられた。
『あははーサクラのお父様でしたか!』
安堵感もあり、軽く話してしまった。
『サクラ?』
僕を睨みつけた。被せるように彼女は言った
『私が呼び捨てでいいって言ったの。というか父さんは自分の部屋にいて!』
『シクシク…昔はあんなに可愛かったのに…トホホ』
『どうせ私は可愛くないですー!ほらエル君、行くよ!』
彼女の部屋に案内された。真っ白なベッド、整頓された本棚、汚れ一つない壁紙、はっきり言って完璧だった。
『先にお風呂入ってきなよ』
お言葉に甘えてお風呂をいただくことにした。とても広い。木造でとても綺麗だ。特に湯舟が大きい。視界が湯気で包まれて前が見えないほどだ。手探りで歩いていると何かにぶつかった。
『おっ?』
『あっ…』
視界が良くなると湯気の中から筋肉ダルマが出てきた。
僕は悲鳴をあげた。
『キャーーーーーーー!!!!!』
***
落ち着いた。彼女の父親が話を切り出した。
『確か、エル…と言ったか…娘とはどういう関係なんだ。』
ことの経緯を説明した。
『その三人組の暴漢はこの村の悪ガキだろうな』
なんと僕を半殺しにした彼らはこの村で生活しているみたいだ。
『悪ガキというにはゴリゴリすぎましたけどね。』
そう言うと彼は無言になった。何か地雷を踏んでしまったのだろうか。
『それは置いといて、娘のことをどう思ってるんだ。』
『えっ?あっあの、えっと!』
急な質問に思考が止まった。頭の中を整理して答えた。
『すごく感謝しています。なんてお礼を言ったらいいか。』
僕の答えを聞いて彼はまじめな顔でこう言った。
『そうか、ならあいつを、サクラを助けてやってくれないか。』
『それはいったいどういう』
彼は何も答えずその場を後にした。
***
部屋に戻ると布団が敷かれていた。
『お風呂ありがとう。すごく良かったよ。』
『ほんと!よかった!じゃ、私も入ってくるから部屋でゆっくりしてて!』
そう言うと彼女は行ってしまった。サクラへの感謝で胸がいっぱいになった。布団にくるまりながら彼女のことを考えていると、さっきの言葉が頭に浮かんだ。
『あいつを、サクラを助けてやってくれないか。』
あれはいったいどういう意味なんだろう。そんなことを考えているうちに次第に眠ってしまった
***
『お風呂あがったよー!ってあれ、もう寝ちゃったかー。……ふふっ!寝顔かわい!』