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第五話 「融合と言う名の再誕」


「はーい。じゃあ最初の皆さんは準備が出来た方から、目の前の隊員に自分の選んだ魔石を渡してくださいねー」


 マツリカさんがそう言うと、最初の10人に選ばれた僕達の前に、覚醒銃を持った隊員が一人ずつ立った。


 いよいよ、本当にやるんだ。胸の奥がざわざわしているのに、どうしてか実感だけが、まだ遠い。

 

 一番左にギルア、その隣に背の高い青年、僕、シイナ君、そして他の受験者達の順で並んでいる。シイナ君の隣の人達はハッキリと見えないけれど、番号が早い人達だったと思う。


「ラッキーですねギルア君、貴方の担当は私ですよー!」


「そうですか」


 マツリカさんはニコニコとギルアを見つめた。彼は興味無さげに魔石を手渡すと、酷く無愛想に返しながらすぐに視線をそらした。


 それにしても、まさかいきなり僕達の番になるなんて。しかもギルアも一緒だ。


「ねぇ。俺達生き残れると思う?」


 突然僕の隣にいた背の高い人物が声をかけてきた。


 彼は優しげな目と、目元にある泣きぼくろが印象的な整った顔立ちの青年だった。


「わからない。僕はまだ撃たれるって実感がわかなくて……もしかしたら死ぬかもって考えれないや」


「確かにね。現実感無いもんなー、これ」


 彼は目の前の隊員が持つ覚醒銃を見つめながら、自分の魔石をそっと差し出す。


 もう渡しちゃうんだ。僕はまだ、渡せずにいるのに。


 その青年は「俺はメイ。生き残ったらよろしくね」と、まるで冗談のように笑った。けれどその笑顔の端に、かすかな諦めの影が見えた気がした。


「あ、あの、手を離してくれませんか? 何この人、力強っ!」


 僕の隣、シイナ君を担当するであろう人物から困惑の声が聞こえ、そちらを見る。


「わぁ。あの子ヤバいね」


 先程の青年も僕の肩越しに覗き込んでくる。シイナ君は隊員に魔石を預けようとしているものの、一向に手を離そうとしていないようだった。ぐぐぐ、と女性隊員が必死にその手を引き剥がそうとしている。


「ちょ、あの、君聞いてますか? 魔石が取れません!」


 シイナ君の顔は無表情のまま、無言でずっと震えてる。もしかして、めちゃくちゃビビってる?


「あの子本当は、試験受けたくないのかな? 震え過ぎて魔蝉みたいになってるよ」


 不思議そうな顔でメイ君が言った。


 確かにシイナ君の震え方は、夏に良くみる魔蝉みたいだ。


「今から僕達撃たれるんですよ。普通に死ぬかもしれないし、そりゃ、皆『ああ』なるでしょう」


「いや、彼だけだけどね? あんなに震えてるの」


 シイナ君の担当の人が、彼の手から無理やり魔石を引き剥がすのを見届けた後、僕も目の前の人物に魔石を渡すことにした。


 瞬間、魔石を受け取ろうとした隊員の動きが何かに気を取られ、僅かに止まる。


 見ると少し離れて僕達を見ていたはずのルーカスさんがこちらに近付いて来たようだった。


 ルーカスさんは僕を見て呟く。


「100%の子。君が“そう”か」


「?」


 “100%”って……どういう意味だ?


 訝しんだ僕はルーカスさんを見る。


 間近で見た彼の瞳の奥には、ただの優男ではなく、隊長の名を持つに相応しい鋭さが見えた。


「そこの君。彼の担当は私が代わろう」


「え? 隊長が、何故わざわざ」


 ルーカスさんは目の前の隊員の肩をポン、と叩いた後隊員の手から覚醒銃を取った。


「彼の選んだ魔石は、私と同じものだからね。気になるんだ」


 そう言うと、僕の手から玉を受け取り、手早く装填しながら続ける。


「実は君が選んだこの魔石は、まだ2つしか手に入っていない貴重なものなんだよ」


 ガチャン、と音がした。完全に準備が整ったようだ。

 

「1つは既に私と融合している。そして残りの1つが『これ』だ」


 ルーカスさんが怪しく微笑んだ。


 隊長レベルの人と同じなんて、しかも2つしか手に入っていない種類なんて……一体どんな魔物なんだろう。想像した僕の喉が、思わずゴクリとなる。


 すると少し離れた所にいたマツリカさんが、大きな声をあげた。


「じゃあ、それぞれ準備が出来たみたいなのでそろそろ始めちゃいますねー! 皆さんの健闘を祈ります」


 そう言うと、それぞれの隊員達が僕達に銃口を構えた。

 

 え、もう? こんないきなり? どうしよう。まだ覚悟が出来てない。


 そんな僕には構わず、ルーカスさんは淡々と続ける。


「この魔石の元になったのは、ピンク色の狼。死神なんて呼ばれてる、魔生物の王だよ」


 ピンク色の狼? 死神に魔生物の王って。


 嘘だろ。


 僕の中で、いつかの記憶が甦る。父さんを殺した、憎き獣の姿が浮かんだ。

 

 待って、それってもしかして。


 いやまさか、そんなわけない。


 だってアイツは、僕が。


「全員、始め!」


「その名をラズリオンと言う」


「ちょ、待っ――」


 待って、と叫ぶ間もなく、一斉にパンと音が弾ける。

 

 僕の胸に鋭い痛みが走った。


 ねえルーカスさん。今、ラズリオンって言ったの?


 そいつは僕が、絶対に倒すと誓った奴だ。


 胸に走る、焼けるような痛みと衝撃。


 痛い。


 苦しい。


 これから僕はどうなるの?


 聞きたいことと、知りたいことが沢山出来てしまった。


 段々と黒に染まっていく視界の端、沈む意識の中で最後に見えたのは、どこか見透かすように微笑む、ルーカスさんの瞳だった。

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