だいすきゆうびん
何かやだれかへの「だいすき」があふれると、「だいすきのゆうびんやさん」がやってきます。
ぽぽちゃんは、公園でママと遊んでいました。
走って行って、シーソーの片側に座ると、反対がわを指さして
「ママ、むこうがわ座って!」
と言ったので、ママが反対に座って、ぎっこん、ばったん、シーソーで遊びました。
「たのしーい、シーソーだいすき!」
「シーソーだいすきかあ、良かったねえ」
「うん、ママもだいすきー!」
「ふふー、ありがとう。ママもだいすきー」
ふたりがにこにこ笑いあったそのとき。
ちりんちりん
どこからか、ベルの音がしました。
ん?ん?とぽぽちゃんとママがあたりを見回していると、空から赤い自転車がすいすいとおりて来たではありませんか。
「その『だいすき』くださいな!」
「「えっ?」」
ぽぽちゃんとママはびっくりしてシーソーから降りました。
赤い自転車は、公園までおりてくると、キキーとブレーキをかけて止まりました。そして、こん色の帽子をかぶって、こん色のつめえりのふくを着て、大きな白いバッグを肩から提げた人が、自転車をおりました。
こん色の帽子のまん中に、透明なハートがついています。
「ゆうびんやさん?」
くびをかしげたぽぽちゃんを、ママはそうっと抱き上げました。
「はじめまして『だいすきゆうびん』の配達人です。あなたがたのだいすきパワーが見えたのでやってまいりました。よろしければ、いただいてもよろしいでしょうか?」
「いただくって、どうするんですか?」
ママは、ぽぽちゃんをぎゅっとしてききました。
「いたかったら、やだ」
ぽぽちゃんも言いました。
ゆうびんやさんは、いえいえ、と手を顔の前でぶんぶん振って、痛くはありませんよ、と言いました。
「あふれている『だいすき』をいただくだけですので。もらわれる方に、何も影響はありません」
「ほんとう?」
「われわれ『だいすきゆうびん』は、あふれる『だいすき』をお持ちの方から、足りない方へ配達するのが仕事なのです。ぜひ、ご協力ねがえないでしょうか」
「たりない人にあげるの?いいよ!」
ぽぽちゃんが元気に答えると、ママは、ぽんぽんと頭をなでながら
「そうだね……じゃあ、良いですよ。どうぞ」
と言いましたので、ゆうびんやさんは、ぺこりとおじぎをして、
「ありがとうございます」
と言いました。
そして、帽子のハートをさわると、くるり、とひねりました。
すると、ぽぽちゃんとママのまわりに小さな赤いハートがぱぱぱぱぱとたくさん現れて、ゆうびんやさんの帽子に吸い込まれていきました。
すいこまれていくたびに、少しずつ帽子がふくらんでいきます。
「あっ、ハートがあかくなってきた」
「ほんとだー」
ママは、ぽぽちゃんを地面におろすと、ふたりで手をつないで、おたがいの頭の上からハートが出てくるのや、ゆうびんやさんの帽子が変わっていくようすをながめました。
「えへへ、おもしろいね」
「ねえ」
ゆうびんやさんのハートがまっ赤になったころ、ふたりから出てくる小さなハートも止まりました。
「うわあー、ぼうしでっかいねえ」
「その帽子に入れて配達するんですか?」
「これはですね……」
そういうと、ゆうびんやさんはカバンからガラスのびんを取り出しました。四角いびんで、上についているハートを引っぱると、きゅぽん、とフタが開くようになっています。
そうしてフタを開けると、ゆうびんやさんは、再び帽子のハートをくるりと回しました。
すると
そのハートのところから、また小さな赤いハートが飛び出して来たのです。ゆうびんやさんは、慣れた手つきで、それをびんで受け止めました。ザラザラザラザラ、と音がしています。
「それ、なあに」
ぽぽちゃんがきくと、ゆうびんやさんは、ふたつめのびんを取り出して、せーの、でひとつめと入れ替えながら
「これは『だいすきキャンディ』です。キャンディにすると、だいすきを吸収しやすいので」
ぽぽちゃんとママは、ふうん、と、わかったようなわからないような気もちでうなずきました。
ふたつめのびんがいっぱいになったところで、キャンディが出てくるのは止まり、ゆうびんやさんの帽子は元の大きさにもどっていました。ハートも、透明になっていました。
きゅぽん、きゅぽん、とびんにフタをすると、ゆうびんやさんは、それをかばんにいれて、ふたりにぺこりと深いおじぎをしました。
「このたびは、本当にありがとうございました。とてもあまいキャンディをお届けすることが出来そうです」
「うん、たりないひとにとどけてあげてね、キャンディ」
「お役に立てたようで、良かったです」
ぽぽちゃんとママも、ぺこ、とおじぎをしました。
「もし、よろしければ、またいずれ良き『だいすき』があふれたときには、ご協力いただけたら」
「うん、いいよ」
ぽぽちゃんがすぐにうなずくと、ゆうびんやさんは、ふたたび深くおじぎをして、赤い自転車に乗り込みました。
「では、また」
「うん、またねー」
赤い自転車は、来たときとは逆に、空へとかけのぼっていきました。
ちりんちりん
ぽぽちゃんとママは、手を振りながら、それを見送りました。
「ぽぽちゃんの『だいすき』おいしいのかな」
「うん、きっとおいしいんだよ。とってもあまいって言ってたもん」
ふたりは、そんな話をしながら、歩いておうちに帰りました。
空から自転車で降りてくる郵便屋さん、というコンセプトでいろいろ考えていた時に出来たお話。郵便屋さんには、生前、悲しい(戦死の)報せをたくさん届けざるを得ず、だれかの幸せな顔を見たくて邁進している、という裏設定があります。