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宇宙船からの眺めとドーム建設まで

  唇をぬぐい、総統が話し出す。

「人類が死に絶えたなら、われらはどうしてここに存在するのか。その理由を今から話そう。二一三七年、世界は混乱の渦の中にあった。政治、経済は破綻し、都市の機能はほとんどマヒしていた。略奪、暴行が蔓延し、善なるものがすべて消えてしまった世界。そのような地球に、もっと厳密にいうなら日本という国があった上空に、宇宙船が出現した。三月三日のことだった。宇宙船は上空に何日かとどまり、その間に一万人という人間をすくい上げていった。十代から三十代までの健康な男女が選ばれたようだった。  

 のちの記録にそう書かれているのだ。人々は逃げまどい、宇宙船を恐れた。だがだれも、何もできなかった。何艘もの宇宙船はそれからも世界各地に現れた。そして人間たちを集めていった。五艘の宇宙船に、合わせて五万人の人間が搭乗したのだ。 


 彼らはニビル星からやってきたといった。当初、人間たちはニビル星人を敵とみなした。なぜ連れて来られたのかまったくわからなかったからだ。奴隷狩りではないかとおびえた者もいたそうだ。だがその誤解はすぐに解けた。宇宙船はニビルには帰らなかったのだ。 

 宇宙船ではそれぞれ役割が決められていった。今のドームの基礎となるものだ。それらはニビル星人の庇護の下、粛々と行われたのだそうだ。その指揮を執ったのが、ネフイリム。彼はわれらの神としてあがめられている。第一代総統はミスター・スズキが任命された。スズキ総統以下五万の人間たちは、はるか上空から地球のすべての文明、生物が滅亡していくさまを見ていたというわけだ。

空には粉塵が舞い、太陽光線はさえぎられ昼間でも薄暗く、植物は枯れていった。温度も氷点下まで下がり、生き物の命は永らえることはなかったようだ。何ヶ月もの間に、緑の地球は灰色の地球へと変わってしまっていった。われらの祖先の嘆きはいかばかりであったか」

 エストラゴン総統は眉間にしわを寄せた。


 今朝見た地球とはまったくかけ離れている。ダイズの衝撃は大きかった。初めて聞く話に耳を澄ます。

 力強い声で総統は語りだした。

「だがネフィリムは、われらの祖先たちに十年後に地球に帰すことを約束した。そしてドームをひとつ建設するということも。ニビル星人は殺戮者ではなかった。われら人間が何世紀もの間行ってきた、領土拡大を目指す帝国主義者でもなかった。彼らは宇宙の守護神だったのだ。ネフィリムはいくつもの星を救ってきた話を聞かせてくれた。それは宇宙の均衡を保つため、ニビル星人に課された任務だったのだ。十年間は忍耐の時間だった。汚染された地球で、ドームの中とはいえ、本当に暮らしていけるのか、安全は保たれていくのか、不安を抱えながら、だが新しい社会を築くためスズキ総統たちはネフィリムの元、議論を戦わせた。過ちを正し、二度と戦争を起こさぬためには何をなすべきか、科学者、政治家、経済学者、哲学者、宗教学者と話し合った。宇宙船にはあらゆる職種の人間たちが集められていた。彼らは人種、民族、宗教もちがった人間たちだった。

 ネフィリムは何も命じなかった。すべてを人間たちに委ね、暮らせる場所だけを提供したのだ。議論は何年にもおよんだ。地球ではドームが着々と完成しつつあった。

 宇宙船での日々は、ミスター・スズキが総統に任命された日から記録が残されている。

 君たちもいつか読んでみてほしい。

 不思議なことに、彼らは船内では空腹をまったく感じなかったらしい。睡眠用カプセルの中で眠っている間、何かが供給されていたのかもしれない。ある科学者がネフィリムに尋ねたが返事はなかった。ドームの建設方法も秘密だった。ただ維持の仕方だけ、詳しく説明を受けた。そのおかげで、今日までドームは完全な形が保たれているのだ。

 外気清浄機を設置しドーム内の空気を新鮮に保ち、地下水をろ過し、飲料水へと変える装置、太陽光と地下熱を電力に変換させる装置、それらすべてを統一管理する仕組みはニビル星人が与えてくれたものだ。いまだにどうやって作られたのかはわからないのだが。

つまり、われわれはこのドームを建設することはできない。その事実を受け入れなくてはならないのだ」


 ドームはいつまでもこのままでありつづける。いや、ありつづけなければならないのだ。そのために、人間の数は決められ、生きる時間も定められ、水も電力も指導者たちの統制下にあるのだ。

 ダイズは自分の両手をじっと見つめた。手はじんわりと汗でぬれていた。

「さて、スズキ総統の下した結論を話そう。まず武器を作らぬこと、生き物を殺さぬこと、戦いを挑まぬこと、そして戦いのもととなるすべてのものを排除すること。それに沿って、法律が次々と作られていった。われわれがエネジンを研究したのも、すべての生き物を殺さぬことを実行するためだ。家族も捨てた。愛と憎しみは背中合わせだ。血のつながりはいさかいの原因ともなる。こうして子どもは母の胎内に宿ることなしに、人工授精、人工胎内を経て、生まれ出ることとなった。だがドーム完成時の指導者たちの血脈は、われわれ指導者の体内に混じりあい受け継がれている。

 諸君は選ばれし者だ。誇りを持って、ドームのために勉強し、力を発揮してもらいたい。われわれだけがドームの維持を任された者なのだ。管理者や労働者はそのための手足といっていい。彼らもわれわれ同様、それぞれの仕事を誇らしく思って従事してくれている。

 二一四七年、ドームは完成した。残念なことにスズキ総統は亡くなっていた。多くの人間たちも地球への帰還を願いながら、宇宙船の中で亡くなっていたのだ。もちろん新しい命が育まれてもいた。宇宙船から直接ドームの入り口へと渡された通路を通って、生き残った人間たちとドームで生まれた、荒廃した地球をしらない人間たちは移動した。人類がドームに移り住んだこの年を、ハリソン総統は創世一年と命名した。 

 ドームの外のようすはうかがわれなかった。ドームにまばゆい太陽の光が届いていることを確かめたハリソン総統は、ドームは人類の新しいふるさとになるだろうと宣言した。 

 ニビル星人の宇宙船はしばらくドームの上空にあったが、やがて、遠ざかって行った。

 ニビル星人がどのような姿をしていたのか聞きたくはないかな。記録によると、肌に毛はなく、なめらかで色白、身長は約二メートル。やはりわれわれと同じように左右対称の形をしており、腕、足は二本、耳は大きくとがっており、目は金、青、緑と変化し猫のようであったとある。猫とは、よく人間が飼っていた動物で、毛でおおわれ、四本足で歩き、暗闇でもキラリと目が光る、しっぽのある小さな動物だったそうだ。ニビル星人の鼻はそれほど高くないが、よく動かしていたと記されてある。手足の指は六本あり、親指と人差し指の間の小さな突起が六本目に当たる。一番大事な指であり、そこから光線が発せられた。その光線はレーザーのようで、金属さえも切ることができた。ネフィリムは即座に地球のどの言語も理解し、話しだしたという。人間よりはるかに優れた能力を持ち、寿命は人間の数百倍もあるが、人間のように喜怒哀楽を表すことはなかったそうだ。常に表情はなく、何を考えているのか理解するのは難しかった。だがスズキ、ハリソン両総統は、彼らへの感謝を忘れずに持ち続けるよう、何度も日誌に書きつづっている。

 諸君、わたしの話はこれで終わりだ。ドームよ、永遠なれ!」


 毎晩くりかえされる言葉が終った瞬間、テレスクリーンからエストラゴン総統の顔が消えた。

 さすがに生徒たちの間からため息がもれた。ミス・ジンジャーはそれを楽しむかのように自信に満ちた顔をしている。聞きたいことが山ほどあった。質問は許されないのだろうか。

「質問がたくさんあることでしょうね。けれどもこれから勉強していくことで、答えはいずれ、必ず見つかるのです。待ちましょう。それでも遅くはありません」

 ミス・ジンジャーは穏やかに、だがその口調には有無をいわさぬ強さがあった。高揚したようすの生徒たちはただ黙って、いうとおりにした。


「シエスタの時間ですよ。カプセルの部屋へ行きなさい」

 午後の授業が始まる前には必ずシエスタがあった。ぞろぞろと生徒たちはカプセル室へと向かった。一番奥にある部屋だ。窓のない薄暗い部屋の中には、十のカプセルがチューブにつながれ置かれてあった。チューブは天井で大きなパイプへと結ばれている。

 ダイズが近づくと透明なカプセルのふたが開いた。ちょうどすっぽり体が入る大きさだ。あおむけに横たわる。やわらかい感触が背中から伝わってくる。ふたは自動的に閉まった。透明なふたを通して、ミス・ジンジャーを見つめる。全員のふたが閉まるのを確認したのだろう。ミス・ジンジャーは無表情なままで部屋を出て行った。

 いつまで目覚めていられるか、ダイズはいつも挑戦してみる。だがものの二分もたたないうちに、深い眠りへと落ちていった。


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