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官庁街にて ②

 ミズナはエアカーの行く先をじっと見つめる。総統の居るビルはそんなに遠くはないはずだ。テツが顔をゆがめながら体を起こし、立ち上がった。ミズナと一緒にエアカーを目で追う。エアカーは日の光が陰りはじめているなか、あっという間に小さくなっていき、あるビルの屋上に着地した。

 ミズナは走ってエレベーターに向かう。テツも後につづく。ふたりは言葉も交わさず、一階に着いた。そのまま出ようとするミズナにテツはいった。

「部屋に戻れ。もうじき労働者たちが来るぞ」

「いやよ。偉そうな口きかないで。あんたこそ、隠れていたらどう?」

 テツはムッとして、ミズナを睨んだ。ミズナもテツの顔を睨み返す。

「ダイズを助けないと。それにお前も守らないとな」

「よけいなお世話よ!」

 そういうと、ミズナは外へ飛び出した。テツもエアカーが着地したビル目指して走り出す。外には管理者たちが右往左往していた。遠くの方から人々の声が聞こえてくる。ミズナは声のする方に目をやった。声はあちこちから聞こえてくる。官庁街のまわりにじわじわと包囲網が張られているようだ。ミズナは逃げまどっている管理者を捕まえ、総統のいるビルを聞き出そうとした。だがその男は知らなかった。テツの恰好を見て、叫び出す女もいた。


 テツは逃げるように走った。ミズナは追いつくのに必死だ。時々、テツは心配げに後ろを振り返る。ミズナはそれが癪に障った。追放者に助けられるなんてごめんだ。

 どのビルにエアカーが着地したのか、下からは確かめられなかった。ふたりは目の前のビルに入った。管理者がひとり、ロビーのデスクの後ろでぼんやりしている。ロビーにあるテレスクリーンには総統の顔が映し出されていた。

「労働者諸君! 君たちは追放者に扇動されているのだ。彼らは君たちに、何ももたらしはしない。それぞれの持ち場に戻るのだ。そうすれば今日のことは罪に問わないでおこう。追放者のいうことは信じるな。ドームの存続と安定を願うなら戻りたまえ!」

 同じ言葉が何度も何度も繰り返し、テレスクリーンから流れている。

「ここは総統のいるビルか?」

 テツが語気を荒げて聞いた。男は顔色を変え、何度も首を横に振った。

「指導者からのメッセージはあったの?」

 ミズナが聞いた。

「『バリケードを作り、官庁街を労働者たちから守れ』だとさ。だれがそんなことするか!あっちは大勢なんだぞ。かなうわけないだろうが。『労働者たちに手を貸した者は処罰される。それを忘れるな。』とも言ってた。へん! 偉そうな口きいてやがる」

 男はそういうとへたりこんだ。 


「屋上に上がりたいの。案内して!」

 ミズナが男をゆすっていった。テツは男を立たせた。男はフラフラしながらエレベーターの前まで行き、認証センサーに手をかざした。

 三人はエレベーターに乗り込み、屋上に向かった。屋上に立つと、エアカーが何台も止まっているビルがすぐ先に見えた。急いで降りる。

 男を残し、テツとミズナは目当てのビルに入った。そこにはだれもいなかった。エレベーターを前にして、ふたりはそれ以上進むことができなかった。

 どうやってもエレベーターのドアは開かなかったのだ。ここにやってくる前に気づくべきだった。初歩的な間違いを犯してしまったとミズナは悔やんだ。

「ほかに上に行く方法はないのか!」

 テツが必死の形相で聞く。だがミズナは肩を落とし、返事もしなかった。テツはエレベーターを叩いた。場所がわかったというのに! ダイズが危険な目に合ってるかもしれないのに! テツは諦めきれなかった。


 ミズナはそんなテツをじっと見つめる。ダイズを助けるといったこの少年の言葉が心に引っかかる。ミズナはエレベーターの前に座り込んだ。このビルの管理者を探すのは到底無理だ。上にあがりたいのはミズナも同じだったが、テツの願いが叶うのをみたくないとも思った。テツの存在がなぜだか心を苛立たせる。 

 テツはダイズの名前を叫びながら、ミズナの横に崩れるように座った。ミズナは知らん顔をしていた。

 やがてテツはシャツで顔を拭い、いった。

「その恰好じゃあぶない。もうじき労働者たちが来る」

 テツは着ていたシャツを脱ぎ、渡す。ミズナはテツから目を背け、しばらく躊躇っていたが、仕方なく上からはおった。

 ふたりは黙ってそのまま居続けた。やがて人々の声が近くで聞こえるようになってきた。ミズナは体がガタガタと震えだした。

「お前は指導者候補生じゃない。労働者なんだ」

 テツが呟く。ミズナは答えなかった。

「大丈夫だ。俺たちは一番にここに着いた。ここが総統のいるビルだって、教えてやるんだ。それからそっとお前のビルに戻る。いいな」

 ミズナは首を横に振る。テツはミズナが何を考えているのか、理解できないでいた。

「エレベーターを叩く真似をするんだ。おれがしゃべるから、お前はなるべく黙っている方がいい」

 ビルのすぐ外で人々が叫んでいる声がした。


「ドームに変革を! 労働者に自由を! 人々に真実を!」

 口々に叫ぶ声が重なり、波のように押し寄せてくる。テツは強張った体を奮い立たせて叫んだ。

「ここだ! 総統のいるビルはここだぞ!」

入り口に、捕えられた指導者や管理者たちをひきつれた労働者たちが現れた。

「間違いはないのか。なんでわかるんだ?」

 ひとりの男がテツに声をかける。同時に労働者たちがなだれ込んできた。

 テツがはっきりと答えた。 

「屋上にエアカーが止まったのを見たんだ。たくさんのエアカーが集まっている。でもこのエレベーターが動かないから上へあがれない。ここの管理者を探さないと!」

 一階のロビーはまたたく間に人々で溢れかえった。だれもテレスクリーンなど見てはいなかった。何人かがテレスクリーンに向かって椅子を投げつけた。テレスクリーンに亀裂が入り、ばらばらと砕け床に落ちていく。

「このビルの管理者はだれだ! 探せ!」

 次々と声が後ろにこだまのように伝えられる。テツはゆっくりとミズナを連れて、エレベーターの前から離れて行った。

 とその時「おい! どこへ行くんだ! テツ! よくやったじゃないか」と声がして、人々の間からにやりと笑いながら姿を現したのは、チタンだった。

 チタンはテツが上着を着ていないのを見ると、すぐ横のうつむいている少女に目をうつした。そして少女の上着の襟に手をかけ、引っ張った。中からもう一枚の上着が見える。

 テツはチタンの腕を強く握った。眉間にしわを寄せ、じっと睨む。何もいわないでくれと、テツは目で訴えた。

 そんなテツの表情を小ばかにしたように、チタンは鼻で笑っていった。

「諸君! 指導者候補生のおでましだ!」

 


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