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君に送る青春

県立沢潮高等学校の百度目の春。高校二年生の柚上玲野のクラスに博士から送られてきたのは、アンドロイドの転校生。

彼女達は彼女の人生を変える一生に一度の青春を送ることになるーーー


創立100周年を迎えた県立沢潮高等学校の校舎に春がやって来るーーー


玄関前に立ち、張り切って挨拶をしている教頭に同じ熱量で挨拶を返す生徒はいない。

それでも笑顔をキープしながら、無視する生徒、笑顔で返す生徒に一喜一憂している。

新しいことを取り入れるのが大好きな校長に振り回され、教頭はいつも忙しなく動いている。


元号が変わった年に今の校長になってから、自由な校風へと変貌した沢潮高校は、その校風に染まった愛校心強い生徒たちと反抗心の強い生徒に二分されるようになった。

もうすぐ着任して五年目を迎える校長は前者の生徒と楽しく会話をする一方で、この学校に尽くして十八年の教頭は後者の生徒の対応に日々追われている。

光も影も強い学校である。



すっかり慣れた「和永」という元号も四年目になり、今年も同じ景色を見ながら、けだるそうに重い足をあげ、階段を登り、彼女は高二の春を迎える。


彼女は教室に入り、一番廊下に近い一番後ろの席に座る。

二年五組の生徒たちは各々指定された席を埋めていく。

強気に大きな声で会話をする、顔見知りがクラスにいた生徒、全く知り合いがおらず絶望しつつ、同じ仲間と目が合うことを期待してあたりを見渡す生徒。

その期待を打ち砕くチャイムと同時に、担任教師が教室に入って来た。


日比仲先生は、生徒の中でハズレではないが、アタリとも言われない平凡な国語先生である。

教育に対する情熱はとうの昔に無くしたようで、疲れた顔をしているが、まだ三十代前半。

一重瞼とうっすらあるクマを覆い隠す黒縁眼鏡と、手入れの行き届いた長めの黒髪をポニーテールより低めに束ねている。

身長はそんなに高くないが、高校時代はバレー部だったらしい。

先生は、小さくため息をつき、少し口角をあげて作り笑顔で話し始めた。


「この学校に転校生がやって来ます。」


過半数がはじめましての教室で、わざわざ言わなくても良いのではと皆が思ったが、開いたままの教室の扉から、彼は一歩ずつ丁寧に歩いて教卓の横に止まった。

彼が緊張している様子は微塵もなく、寧ろそれを見守る生徒達の方が緊張していた。

そんな空気を察知することなく彼は自己紹介をする。


「はじめまして、僕は、鷹瀬颯真、です。よろしく、お願いします。」


話し方に少しの違和感を覚える生徒達。

彼女だけは、聞き覚えのあるその名前の方が気になっていた。


先生は彼がアンドロイドであると説明した。

生徒たちは驚きザワついた。

人間と区別がつかないほどの見た目だからだ。

AIの進歩により、人間の代わりにコンピュータと対面してサービスを受ける時代にロボットは珍しくない。

サービス業のほとんどはロボットであるし、学校にも掃除ロボットがいる。

介護ロボットは顧客の要望で人間に近づけた見た目で作られることもたまにある。


しかし、高校生にとってここまで人間に近づけて作られたアンドロイドは珍しいもので、初めて生で見るのが今日である生徒ばかりであった。



先生は、説明を続けた。

彼はアメリカの大学にいる博士の命をうけてここにやってきた。

博士は有名な教授に認められるほどの天才で、中学の時に渡米してから、研究ばかりで、学生時代まともに青春を送れなかった。

だから、代わりに青春を送ってもらうために、自分そっくりのアンドロイドを作り、送ってきたという。

博士の祖父が校長の知り合いで話を持ちかけられ、

「面白そう!」と二つ返事で受け入れたらしい。

話し終えると、先生は大きめのため息をついた。


生徒達の頭の中はそれぞれ賛否両論分かれていた。

今時人間の形にわざわざ似せるアンドロイドを、もの珍しくジロジロと観察し、周りの反応を見て様子をうかがう生徒、怖がり、自分の学生生活の心配をする生徒、興味津々で早く話しかけたいと考えている生徒など、皆が目の前にいるアンドロイドのことでいっぱいになっている中、彼女の頭の中は幼少期へ巻き戻っていた。

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