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7.婚約者のいるお茶会

「第二王子殿下にご挨拶申し上げます」

 

 

 私はイアン殿下にカーテシーをしながら挨拶をした。

 

 

「ああ、掛けなさい」

 

 

 イアン殿下が、そう言って席を勧めてくれたので、居心地が悪いなと思いながらも殿下の前に座る。

 

 

 

 座ったタイミングで、王宮侍女が私のお茶を運んでくれた。

 

「ありがとう」 

 

 侍女にお礼を言ってから、一口飲む。

 

 

 あぁー生き返ったわぁ。

 まさか二連チャンで殿下がいると思わないじゃない?

 緊張で一気に喉がカラカラになってたのよね。

 

 

 そんな私をまた殿下はジッと見ている。

 

 

「……何か顔についてます?」

 

 

 あまりにジッと見てくるので、思い切ってイアン殿下に尋ねてみた。

 

 

「目。それと鼻と口」

 

 

「……」

 

 

 どう返事していいのか困る。

 

 

 思わず半目になって、顔が引き攣ったのを見て、イアン殿下は吹き出した。

 

 

「君は反応が一々変わっているな。他の令嬢なら、こういう時は、笑ってくれるんだが」

 

 

「他のご令嬢は、本当に楽しげに笑ってました?

 失笑では?」

 

 

 呆れてそう言ってから、ハッとする。

 

 

 また、前世の記憶に引っ張られて、余計な事を言っちゃった!

 

 怒られる! と思わず身を縮こませてしまったか、殿下はまた面白そうに笑っていた。

 

 

「ハハッなるほど! あれは失笑だったのか!」

 

 そう言って、一人でツボにハマっていた。

 

 

 私の中の第二王子殿下のイメージが、ドンドン崩れていく。

 

 こんな寒いギャグを言うような人だったの!?

 

 ギャグとは一番無縁の人なのかと思っていたのに……。

 

 

 ひとしきり笑っている殿下を眺めながら、運ばれてきたデザートを食べ始める。

 

 あぁ、今日はフレッシュタルトだ。

 色とりどりの果物が使われた一口大の大きさのタルトは、食欲がそそられる。

 

 あっ! この果物、うちの領地で採れた物を使ってくれてる!?

 

 さすが王宮シェフだわ~。気遣いが半端ない!

 

 

 感動して、またしても目の前にイアン殿下が座っている事を忘れそうになる。

 

 ダメダメ。この前のような失態は犯せない。

 

 

 イアン殿下が笑いから落ち着きを戻し始めた頃に、私は取り敢えず謝罪した。

 

 

「申し訳ございません、失笑などと分をわきまえず失礼な事を申しました」

 

 

「いや、思いがけず笑えたからいい。

 それより、王子妃教育の方はどうだ?

 やや手こずっていると聞いたが……」

 

 

 まさか、イアン殿下が私の進捗具合を確かめているなんて思わなかった。

 

 意外な思いを持ちながらも、いい機会だとばかりに授業の様子を伝え、貴方の婚約者は荷が重いから解消して欲しいという思いを匂わせてみた。

  

 

「そうですわね、どんなに頑張っても叱られてばかりで認めて頂けないので、わたくしには荷が重いのではと、常日頃から感じておりますわ」

  

  

 そうなのだ。

 与えられた課題をきちんとこなし、伝えられた内容を復習しながら、もちろん予習も忘れない。

 その姿勢で取り組んでも、どう頑張っても怒られるばかり。

 

 前世の記憶を取り戻すまでは、そんな自分を卑下し、婚約者にも相手にされない自分なんて生きている価値があるのかとさえ思い悩んでいた。

 

 しかし、前世の記憶を取り戻した今なら気付いてしまった。

 

 あれは嫌がらせだ。

 

 多分、王妃様の差し金だろう。

 

 私をとことん落ち込ませて卑下するように、刷り込まれていた。

 

 

 試しに、課題の答えにダメ出しをされた時、先生の答えは何なのか、どちらが正しいのかを他の方に確認してみると伝えると、わかり易く先生は狼狽えたのだ。

 

 

 それにいずれはイアン殿下は臣籍降下するとも聞いているため、ホントの触りの部分のみの教育となっていると、あまり何も教えて貰えず、同じ事を何度もダメ出しされては課題を繰り返すといった授業だった。

  

 

 王妃は自分で私をイアン殿下に宛てがったくせに、なんでこんな地味な嫌がらせをしていたのか……。

 

 

 

 この事は、側妃様を通じて陛下にまで報告をしてもらっている。 

  

 そして、何と今日から新しい先生となっていたのだ。

 

 多分今までの先生は、クビになったのだろう。

 

 

「今日から新しい先生が来たのだろう?

 今までのような事にはならないだろうから、これから色んな授業を受けてくれ」 

 

 

 なんだ。そこまで把握していたのか。

 

 ん? 何時から知っていたんだろ?

 

 

「第二王子殿下は、わたくしの今までの授業内容をご存知だったのですか?」

 

 

 この野郎、私が何度も嫌がらせ授業を受けていた事に気付きながらも、放置していたとしたら許せん!

 

 

 しっかりと殿下を見据えながら、私はそう聞いてみた。

 

 すると、殿下はバツの悪そうな表情をし、目を逸らす。

 

 

「あー、いや……。確かに私は成人したらすぐにでも臣籍降下を望んでいたから、婚約者の君も、そんなに授業を受けてもらう必要はないかと……。

 しかし知識は時に力に変わる。だから、やはり学ぶ事は大切だと思ったのだ」

 

 

 そう言いながら明らかに動揺しているイアン殿下を、胡乱げな目でつい見てしまった。

 

 誰よ、この殿下を冷静沈着、眉目秀麗などと言ったのは!

 明らかに動揺してるじゃない!

 

 まぁ、眉目秀麗ってのは、動揺してる表情も様になってるから当たってるかもだけど。

 

 

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