6.夢は広がる
「出来た……」
エレノアは今、いつもの裏山に来ていた。
最近はほぼ毎日裏山に来ては、魔法の練習をしていたエレノアだったが、ある日、小さな洞窟を見つけたのだ。
そこは、もうすぐ夏になろうかという時期なのに、ヒンヤリしていてとても涼しい。
屋敷に戻り、両親に聞いたところ、そのような洞窟は知らなかったらしく、使ってもいいかと聞いたところ、調査して危なくないと判断されたなら、エレノアの自由に使っていいと許可が降りた。
……まぁ、何故そんな所に洞窟があるのを見つけたのか聞かれ、こっそり魔法の練習をしに裏山に通っていた事がバレてしまったけど。
しかし3日に1度通っている王子妃教育と、その後のイアン殿下の来ないお茶会のストレス発散だと思われ、すんなり許してもらえた。
前世の記憶を取り戻す前の私は、相当両親に心配を掛けていたらしい。
……確かに前の私は、王宮から帰って来る度に泣いていたからなぁ。
今思えば、何故あんなにも悲観していたのか。なんの行動も取らずに、両親に心配を掛けて、ただ泣いていただけの前の自分を殴ってやりたいわ。
そんな訳で、私は裏山の洞窟に氷室を作った。
氷魔法を駆使して、相当強固な氷室に仕上がったと思う。
うちの領地の特産物は、季節ごとに出来る果物や農作物の中でも、特にオランという柑橘系の果物だ。
前世でいうと、みかんにとても似ている。
しかし、領地には氷室が少なく、時期を外れた多量のオランの保存が難しかった。
季節を外れた他の果物や農作物も、王都に持ち込む前に腐らせてしまう。
特にオランは、例えジャムやジュースに加工しても保存方法の関係で持ち込むことさえ出来ず、領地周辺の町にしか行き届かなかった。
しかし、ここに氷室さえあれば、季節に関係なく色々な物が長期保存出来る。
多量に腐らせたものは、今まで肥料として使用してきたが、これからはもっと別の使い道が出来る。
「夏野菜や果物も、そろそろ送られてくるわね。それらをここに保存すれば、すぐに腐る事も無いわね。
それに、夏に氷は売れるわ! 果物で蜜を作って、かき氷を作ったら絶対に流行る!
貧乏とはおさらばよ!」
かき氷はこの世界にはない。
冷蔵庫のないこの世界には、王都では、金持ちの高位貴族の屋敷が小さな氷室を作っているくらいで、低位貴族や平民などは手が届かない代物だ。
夏はそのくらい貴重な氷。
それを売り物にするには、保存の関係で誰もしていないのだ。
「私の氷魔法で、氷はいくらでも作れるし、両親にも協力してもらって、王都に店を出して貰おう。
そこにも小さな氷室を作れば、店の中でも保存出来るから、この夏一番の名物になるかも!」
早速両親に裏山の氷室を見てもらい、領地から届いた季節の果物や農作物をここに保存して、王都にも店を出そうと提案した。
また、両親や弟だけに私の氷魔法を見せたところ、前代未聞の魔法ゆえ、攫われたり、人体実験にでも使われたら大変だという事で、やはりこの氷魔法は家族以外の誰にも内緒にしようという事になった。
伯爵家所有の裏山の洞窟で、天然の氷室を発見したとの申請を国に提出し、そこから氷が取れるという事にして、伯爵家で裏山の洞窟を厳重に管理する事となった。
これで誰にも疑われる事無く、領地から送られてくる新鮮な野菜や果物を保存出来るし、氷を使った商売も出来る。
あまり大々的に氷を売ると怪しまれるので、家族で何度も話し合い、領地の野菜や果物の他に、領地の果物で作った蜜を掛けたかき氷や、前世でいう冷凍みかんのような、凍らせた果物をデザート代わりに売る店を出す事にした。
こんなに忙しい毎日を送っていても、王子妃教育の為の王宮通いは無くならない。
「はぁ……行きたくないけど、行ってきますわ」
私は肩を落としながら、そう告げて屋敷を出る。
「エレノア……すまないな。不甲斐ない父親で。婚約解消出来ればこんな苦労をかける事もないのに……」
父が悲しそうにそう言ってくるが、王家には逆らえないのは分かっている。
「お父様が気に病む事はありません。分かっておりますわ。
大丈夫です。帰ってきたら、また楽しい事業計画を立てられる事を支えにして、行ってきますわ」
家族に見送られながら、馬車で王宮に向かう。
3日に1度のご奉公だと思って、行くしか選択肢はない。
王宮についた私は、いつものように王子妃教育を受けた後、いつものお茶会の場所に向かった。
今日も30分で切り上げれはいいよねと軽い気持ちでそこに向かってると、いつもの場所にまた誰かが座っている。
「嘘でしょ!?」
そこには、やはり前回同様、イアン殿下が座っていた。