表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

5.沈黙には耐えられません

「その……体調は如何か?」

 

 

 イアン殿下が、こちらを窺うように話しかけてきた。

 きっと、この前の柱にぶつかって気を失った事を言っているんだろう。

 

 

「あ、はい。おかげさまで、すっかり良くなりました」

 

 

「そうか」

 

 

 

 

 し~ん……。

 

 

 

 

 うん、さっさとケーキ食べて、帰っていいよね!?

 

 

 この沈黙は我慢出来ないわ。

 

 

 

 私は徐にケーキを食べ始めた。

 

 

 あぁ、このマカロンボーロもサクッとしてて美味しいわぁ!

 

 あ、この薔薇のクリーム! ちゃんと薔薇エキスが入ってるのか、微かに薔薇の匂いがする!

 さすが王宮のデザートは一味違うわね~。

 

 あら? この紅茶も、薔薇の匂いが?

 

 あらあら、凝ってるわぁ!

 しかも、とても美味しい!

 この紅茶、何処で売ってるのかしら?

 家でも飲みたいわ~。

 

 

 

「……そんなに美味いのか?」

 

 

 

 ハッ!

 

 

 

 

 イアン殿下の声に、ハッとして勢いよく顔を上げる。

 

 そうだった。目の前にイアン殿下が居たんだった。

 

 ついケーキに夢中になって、忘れてたわ。

 

 

 

「あ、このケーキ、とても美味しいですわ。

 流石は王宮のケーキですわね?」

 

 今更だが、微笑みながら上品そうに話す。

 

 

「そうか、それは良かった」 

 

 

 イアン殿下はそう言って、自分もケーキを食べ始めた。

 

 

「……甘い」

 

 

 ケーキを一口食べたイアン殿下が、一言そう話す。

 

 

 当たり前でしょ。ケーキなんだから、しょっぱかったり、辛かったりしたら大変だわよ。

 

 つい冷めた目をしながら、そう考えてしまうのは許して欲しい。

 

 本当に、今更何しに来たんだ? この王子は。

 特に話すわけでもなく、楽しそうでもない。

 

 う~ん、もしや、今までお茶会をすっぽかしすぎて、王妃様か側妃様から何か言われたのかしら?

 別に、今となっては気にしないのに。

 早く帰れる分、魔法の練習が出来るし、今後も来なくていいんだけどな。

 

 

 そのように思いながらイアン殿下を見ていたら、イアン殿下がまたこちらをジッと見てきた。

 

 

「今までお茶会に来なくて申し訳なかった。

 その都度、2時間程待たせていたなんて知らなかったのだ。

 今後はなるべく来るようにする。来れない時は予め伝えるようにしよう」

 

 イアン殿下はそう言って立ち上がった。

 

 

「申し訳ない。これからまた政務に戻らなくてはならない。これからもあまり時間は取れないが、時間が許す限りは来るようにするので、それで許して欲しい」

 

 イアン殿下は私を見ながらそう話す。

 

 

「はぁ……」

 

「では、失礼する」

 

 

 呆けている私の返事を受けて、イアン殿下はそのままこの場を後にした。

 

 

「なんだったの……?」

 

 

 全くもって何がしたいのか分からない。

 

 元々イアン殿下とはほぼ面識がなく、婚約者とは名ばかりなので、為人は分からなかったけど、噂に聞く限りでは、自他共に厳しく硬派なイメージだ。

 

 もしかしたら、人と会話するのが苦手なのかな?

 だったら、無理して来なくてもいいんだけどな……。

 

 

 何故来たのか分からないまま、エレノアは王宮を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「おや、今日は珍しくお茶会に行かれたと思ったら、もう戻られるのですか?」

 

 

 少し離れた所で待機していたオーウェンがイアンに話しかける。

 

 

「うるさい。今から執務室に戻るぞ」

 

 

 イアンは煩そうな顔をしてそう言いながら、オーウェンを見た。

 

 

「どういう風の吹き回しです? あんなにすっぽかしていたお茶会に行くなんて。

 期待させる方が酷なんでしょう?」

 

 

 オーウェンは気にせずイアンにそう言った。

 

 

 

「……2時間」

 

 

「はい?」

 

 

「いつも私がすっぽかしていたお茶会に、彼女は2時間待っていたから……」

 

 

 イアンは罪悪感から、つい話してしまった。

 

 

「あぁ……前の時にメイドが言ってましたね」

 

 

 オーウェンは、遠慮なくイアンにそう言い返す。 

 

「……」 

 

 

 無言になってしまったイアンに、オーウェンは溜め息を零す。

 

 

「はぁ……。しかも婚約してから3年間も……。お気の毒に……」

 

 

 

 オーウェンの言葉に、更なる罪悪感が押し寄せる。

 

 

 婚約してからもう3年間も経っていたのか。

 

 婚約した事を今まで頭の隅に追いやり、意識していなかったから気づかなかった。

 

 

「もう少し配慮すべきだったか……」

 

 

 つい独りごちると、オーウェンがその言葉にすぐに反応してきた。

 

 

「私は前からそうお伝えしていたはずですが?」

 

 

「そうだったか?」

 

 

「はい。全く聞いて頂けてなかったようですが」

 

 

 真顔でオーウェンが、そう言ってくるが、全く記憶にない。

 

 多分、完全に聞き流していたんだろう。

 

 

 しかし、今日のお茶会は思ったより悪くなかった。

 

 

 私が知っている令嬢達は、いつも私を獲物を狙うような凄い目で見てくる。

 我先と自分をアピールし、一方的に話しまくる。

 私の顔色を窺い、それでいて、私があまり話さないと泣き出すのだ。

 

 殆どの令嬢はそんな感じで、普通の会話など成り立たない。

 

 

 だけど、彼女はとても自然体だった。

 

 私には目もくれず、ケーキに夢中になって食べていた。

 

 そんな彼女の態度が私にとって、とても新鮮に感じられたのだ。

 

 

「これからは出来るだけお茶会に参加する」

 

 

 イアンがそう告げると、オーウェンは目を丸くしていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ