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37.婚約解消


「え? ファクソン伯爵令嬢との婚約を解消したい?」


 陛下が驚きながら、私に聞き返してきた。


「はい。元々この婚約話は、王妃より強引に決められたもの。しかし、今や王妃は静養中の身にて、私の婚約話に興味などない事でしょう。

 なので、これを機にこの話は解消して頂きたいのです」


 私は陛下にそう伝えた。

 王妃が繋いだ縁は切っておく。

 そして今度は、自分の想いで縁を繋ぎたいと考えたのだ。


「イアンはファクソン伯爵令嬢を気に入っているように見えたが、違ったのか?

 本当に婚約解消していいのか?」


 陛下は、不思議そうに首を傾げながら、そう言ってくる。


「はい」


「そうか、分かった。ファクソン伯爵家には私から伝えておこう。

 て、イアンよ。次の婚約者はどうするのだ?    

 居ないままではあるまいな?」


 第二王子の立場として、年齢的にもこのまま婚約者なしというわけにはいかないだろう。


「陛下。それに関してですが、お願いがあります」


 私は陛下に、自分の思いを告げた。



 ****



「え!? 婚約解消!?」


 ここは、ファクソン伯爵家の家族で過ごす団欒の部屋。

 今日は商会には行かず、家でゆっくり過ごしていた私に、父が血相を変えて入って来て、開口一番、

「婚約解消だそうだ!」

と叫んだのである。


「そうだ! 婚約解消だ! 最近、エレノアと仲良くしてると思っていたのに、まさかの婚約解消とは!」


 青白い顔でそう叫ぶ父に、母もビックリする。

「エ、エレノア? 大丈夫? ほ、ほら良かったじゃない! これで王族のイザコザから解放されるわね?」


「そ、そうだな! やっと解放されるんだ。

この3年間、我慢した甲斐があったな?」


 父母がそばで、私を慰めようと必死で言葉を紡ぐが、呆然として言葉が耳に残らない。


 え? どういう事?

 イアン様との婚約が無くなった?

 

 まさかの展開についていけない。

 つい、先日まで毎日のように商会に来ていたイアン様が、ここ数日来なくなったので、不思議には思っていた。

 何だかそれが物足りなくなって、商会に行く気になれず、今日は家でゴロゴロ過ごしていたというのに……。


 呆然としたまま、実感が湧かない。

 イアン様、何故前もって教えてくれなかったんだろう?

 そういえば、最後に会った日は、急にフラフラとなりながら帰っていってなかったっけ?


 色々思い浮かべてみるが、分からないままだ。

 でも、そうよ。これで王族と関わらなくてすむ。私には分不相応だったのよ。


「お父様、お母様。わたくしは大丈夫ですので、そんなにお気に病む事はなさらないで下さいませ」


 とりあえず、父母に安心してもらうように笑顔でそう言うが、何故か心の奥にチクリとした痛みのようなものを感じた。



 イアン殿下と私の婚約解消の話は、瞬く間に社交界を駆け巡っていった。

 誰もが「やっぱり」といった感じで、イアン様の次の婚約者は誰になるのか、話は盛り上がっていく。

 未婚の令嬢達はもちろん、自分の娘を売り込もうと名のある貴族達が、こぞって名乗りをあげ始めた。



 ****



「ちょっと! どういう事ですの!?」


 何故か屋敷にエリザベス様がやって来て、いきなり私にそう言ってくる。


「落ち着いて下さい、エリザベス様。

いきなりそんな事言われましても……」


「何、悠長に構えてるの!? 本当にイアン殿下と婚約解消していいの!?」


 エリザベス様とは、あの遠征の時以来、何故か時々お茶をする仲になっていた。

 エリザベス様は、遠征の時にダミアン王太子殿下の事を意識し始め、ついには王妃様にはっきりと自分の気持ちを伝え、決別した事で、完全に見直したそうだ。

 それからは、王太子殿下といい関係性を築きつつあると聞いている。

 だから、イアン様の事はキッパリと諦め、私を応援すると先日言われたばかりだ。

 いや、応援って別に……とは思ったが、悪い気はしなかったんだけど……。


「知りませんよ。わたくしは何も聞かされないまま、突然婚約解消を言い渡されたほうなので」


 モヤモヤした気持ちを何とか抑えながら、そう返答する。


「あら、そうなの? でも変ね? イアン殿下はあなたの事、絶対気に入っていると思ったのに……」


 不思議そうにそう話すエリザベス様を見ながら、胸のモヤモヤが苛立ちに変わる。


 ええ! 私もそう感じていたわよっ! だからちゃんと向き合う事にしたのに、まさかの手のひら返しって、どうなの⁉︎

 これだから権力者は信用ならないのよ!


「とにかく、もう手続きも終わりましたし、わたくしはもうイアン殿下の婚約者では無くなりましたわ。

 エリザベス様のお力になれず、申し訳ありません」


 将来、このままイアン様と結婚したら、エリザベス様とも親戚になるんだなぁって、漠然と考えていた自分が恥ずかしいわ。

 あ、なんかイアン様の事を考えたら、腹が立ってきた。

 何なの?

 3年間放置したくせに、急に人を惑わせ、更にはこの勝手な婚約解消という仕打ちはっ!

 


 そうしてエリザベス様が帰った後も、私はずっと苛立ちが続いていた。



明日より毎日一話ずつの投稿になります。

最終話は8/19の予定です。

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