表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/42

35.意味深な言動

 私は今、ファクソン商会の中の商品開発部に来ていた。

 あの謁見での出来事の後、わが商会が取り扱う保冷商品に関して、安全性を認めたとの公式発表が王家から成された事で、また売れ行きが戻ってきたのだ。

 冷菓もまた順調に売れ行きを伸ばし、一時的に悪化した経営もまた上昇し始めた。



「お嬢様、第二王子殿下と魔術師団副団長様がお越しになっています」


「え? また?」


 メイドのマリンからの報告を受け、ついそう言ってしまう。

 あの謁見の時から、この二人は何かとここにやって来るのだ。


 魔術師団の特別団員として任命を受けたが、魔術師団に毎日赴く事はなく、必要に応じて、団長からの呼び出しが掛かった時に出向いたら良いとの事だった。

 なので、いつも通り商会にて、氷魔法で冷菓を作ったり、角氷などを作ったりしていたのだが……。


 何故かこの二人は示し合わせたように、二人連なって連日のようにやってくる。



 来たものは仕方ないので、部屋に入ってもらい二人を出迎える。


「ようこそお越し頂きました。イアン様とギアス様におかれましては、お忙しい中、本日はどのようなご用件でございましょう?」


 ほぼ連日同じ挨拶だが、毎日来るなという意味も込めてあるので仕方ない。


「今日も来ちゃったぁ! だって、私は魔術師団副団長として、氷魔法の伝道師であるエレノア嬢を守らないといけないからね」


 にこやかにそう答えるギアス様に対して、イアン様がムキになる。


「何を言っている! 私が! 私の婚約者を守るようにと兄上から言われているのだ! 

 ここは私がいるから、ギアス殿は不要だ!

 それに、人の婚約者の名前を気安く呼ばないでもらおうか!」


 イアン様は最早、あの遠征での崇高な鬼神の面影など微塵もない。


 思えばこの二人も、だいぶん馴れ合ってきているなぁ。

 二人とも、息がぴったりよ?


 そんな事を思いながら、お茶の準備をマリンに頼む。

 マリンは私がほとんどここで過ごしているから、屋敷から一緒にここに来て、私の世話をしてくれていた。


「マリン、いつもありがとう」


 突然の訪問にも関わらず、マリンはきちんと対応してくれる。


「いえ、もうすぐ来られるかと思って、準備しておりましたから」


 だよね~。

 全く二人とも、本分を忘れてはいないだろうか?


 お茶の準備が整ったので、いつものように3人でお茶を飲む。

 すると、徐にギアス様が私とイアン様を見比べ、首を傾げた。


「なんだ?」


 不機嫌にギアス様に問いかけるイアン様に対して、ギアス様は遠慮なく問う。


「いえ、お二方は婚約して三年経っているのですよね?

 いつ結婚なさるのかなぁと思いまして」


 その質問に、私とイアン様は同時にむせ返る。


「な、なにを突然⁉︎」


 イアン様が慌てて口元を拭きながら、反応した。

 

「う~ん、二人が結婚するイメージが湧かないんですよね。

 もし、婚約解消とかされるなら、私がエレノア嬢の次の婚約者に立候補しちゃおうかな~って考えてまして」


「「はぁ~~⁉︎」」


 ギアス様の言葉に、私とイアン様が同時に叫ぶ。

 

「えっ⁉︎ ギアス様って、結婚してなかったの⁉︎」


 てっきりすでに結婚しているものだと思い込んでいた私は、思わず素で聞き返してしまった。


「やだなぁ、私に妻がいるように見える?

 私は今まで研究一筋で、結婚とかまるで興味なかったから、婚約者もいないよ?

 ちなみに私はまだ27歳だから、エレノア嬢とは釣り合うよね?」


 そうにこやかに言ってくるギアス様に、色んな意味でびっくりする。

 今まで結婚に興味なかった人が、私とは考えられるの⁉︎ そんな目で見られていたなんて思いもしなかった!

 それにそういえば、まだ27歳だったわ!

 魔術師団の副団長になるくらいだから、てっきり30代後半だと思い込んでいて忘れてた……。


 あまりの事に言葉が出てこない私を隠すように、イアン様が私の前に出てギアス様に怒り出した。


「ふざけるな! 私達は婚約解消などしない!

 兄上より先に結婚するのは憚られるから、時期を考えているだけだ!」


 そう叫ぶイアン様にもびっくりした。


「えっ⁉︎ そうなのですか⁉︎」


 思わずそう叫んだ私を見て、ギアス様がニヤリとする。


「なんだ、全然二人とも疎通が取れてないじゃないか。

 イアン様、結婚は二人で行なうものですよ?

 片方の意見だけで決めると、この先不幸な結婚生活が待ち受けているかも知れない。

 エレノア嬢、この際よく考えてみて?」


 笑みを崩さず、余裕のある態度でそう言うギアス様に、少し違和感を感じながらも、

「当家から断れる立場ではありませんので」

と答える。


 その私の言葉に、ショックを受けた様子のイアン様は、

「今日はこれで失礼する……」

とだけ言って、フラフラと帰っていった。


 その様子を見ながら、ギアス様はクスクスと笑い始める。


「いや~、イアン殿下、いいね! あんなに面白いキャラだとは思わなかったよ!

 凄くからかい甲斐があるね!」


 そう言って、笑い続けている。


「ギアス様、もしかしてイアン様をからかっただけですか?

 王族であるイアン様に対してそんな事すれば、不敬罪に問われても知りませんよ?」


 先程感じた違和感の意味が分かり、ホッとしながらも、私自身も揶揄われた事に少しムッとしてそう言った。


「大丈夫だよ。実は団長からイアン殿下をけしかけるように頼まれたんだ。

 イアン殿下は、素直じゃないヘタレだからね?」


 団長という事は、サイラス大公様か。

 イアン殿下が素直じゃないヘタレって、どういう意味?


 首を傾げる私を見て、ギアス様はクスッと笑った。


「君もまた素直じゃないのかな? その上とても鈍感だ」


 はぁ~っ⁉︎

 いきなり喧嘩売ってきたのか⁉︎


 私はイラッとした表情を隠しもせずに、ギアス様を見ると、ギアス様はやはり余裕のある笑みを浮かべていた。


「あぁ、私にとってはとても分かりやすくて良いんだけどな……」


 少し寂しそうな表情をしながらそう言うギアス様に、

「今日のギアス様は少し変ですよ」

と返す。


「そうだね。じゃ、私も今日はこの辺で失礼するよ」


 そう言ってギアス様は立ち上がり、部屋のドア前まで行くと振り返ってこちらを見る。


「じゃ、またね」


 そう言ったギアス様は、いつもの元気なギアス様で、私は安堵しながら送り出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 24話にて「しかも、年齢は27歳と意外と若かったのには驚いたものだ。」と書かれていたのに、ここにきて「それになにより、まだ27歳だったなんて!」と年齢を初めて知ったように書かれていたの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ