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34.王家の事情

 

 ギルティ王国は、長年隣国からの支援を受けて、徐々に安定した国となってきた国だった。

 だから、隣国には頭が上がらず、今の国王陛下が王太子時代に、隣国からの姫君との婚約話が上がった時は、断る事など出来ない状況だった。

 それが例え問題行動の多い姫君だと分かっていても……。


 実際、やってきた隣国の姫君は、大層我儘で、人の言う事など聞かず、傍若無人な振る舞いを行う人だった。


 ギルティ王国の王太子は、王子時代からの婚約者がいたが、仕方なくその婚約者を側妃としてそばに置く事にした。


 それが現在の陛下であり、ダミアン王太子の母上である王妃であり、イアン様の母上の側妃だ。


 陛下のお心は王子時代からの婚約者であった側妃にあったが、隣国との関係上、王妃を蔑ろには出来ない。

 王妃は隣国から厄介者として追いやられてきた姫君ではあるが、それでも隣国との繋がりはあり、この国での発言力は絶大なものであった。


 その為、今まで苦汁を飲まされてきた陛下であったが、今回、ダミアンが王妃に楯突いた事で、王妃の力を削ぐ算段がついたのだ。


「ダミアン、ご苦労であった」


 謁見室から出て、陛下の執務室にて今は、陛下とダミアン王太子の2人のみがそこに居る。


「お前が勇気を出して王妃に言ってくれた事で、お前に対する皆の認識が随分と変わった。これにより、お前がこれからもしっかりと王太子として、ゆくゆくは国王として国を盛り立ててくれれば、王妃を立てずとも隣国への面目は立つ」


 そう言った陛下の言葉に、ダミアンは何とも言えない表情になる。


 東の避暑地は、いわば廃妃された人が行くような場所だ。

 長年に渡り、陛下やダミアンは王妃に重圧を強いられてきた。

 しかもダミアンを立太子したが、そのダミアン自身が王妃の言いなりとなり、国を任せるには不安しかない状態だった。その為万が一、第二王子のイアンの方を立太子させるとなると、隣国からの干渉が入ることは容易に想像がつく。

 その時に、王妃に口添えを頼まなくてはならない事も念頭にあった為、いつまでも王妃に強く出られない状態だったのだ。


 しかし、今回の件でダミアンがしっかりしてくれれば、隣国からの干渉は免れる。

 隣国は、王妃の息子が王国を継ぐ事を望んでおり、王妃自体の干渉はしないと以前から言われていたのだ。


「父上。今回、私が勇気を出して母上に思いをぶつける事が出来たのは、イアンのおかげなのです。

 いつも過小評価しかしない私を奮い立たせてくれ、遠征の時にも私をずっと立てながら支えてくれました。

 今回も、母上がまた人を陥れようとしている事に気付いて悩んでいた私に寄り添い、このままでいいのか、これからも言いなりの人生を送るつもりなのかと、私の心を奮い立たせてくれたのです。

 だから、私を信じてくれたイアンの為にも、私は勇気を振り絞って、思いを母上にぶつける事が出来たのです」


 いつもオドオドした態度で、言葉も吃りがちだった王太子の姿はもう何処にもない。


 はっきりとした口調でそう話すダミアンに、陛下は頷いた。


「イアンもまた変わったようだな。

 以前は王妃の手前、お前にあまり関わらないようにしていたし、自分の婚約者への関心もなく、ただ、王族の身分を放棄してここから逃げ出す事しか考えてなかった。

 しかし、最近のイアンは人への関心を持つようになり、お前や婚約者との関係性も良いものとなっている。

 それぞれ問題の多い息子達の成長を見る事が出来て、嬉しく思うぞ」


 陛下はそう言って、ダミアンの頭をガシガシと強く撫でた。


「ちょっ⁉︎ やめてください父上! もう子供ではありませんよ⁉︎」


 口では嫌そうにそう言うダミアンであるが、嬉しそうな表情をしている。


「これでようやく、王妃の干渉を受けなくてもすむ。ダミアン、イアンと二人で力を合わせて、これからも頼んだぞ。お前達兄弟でこの国を盛り立ててくれる事が父の願いだ」


「はい、父上」


 陛下にそう言われて、ダミアンはしっかりと返答をした。



 ****



「陛下! あんまりですわ! このわたくしに東の避暑地の別宮に行けですって⁉︎

 そんな事を隣国に伝わったら、タダではすみませんわよ!」


 陛下の執務室よりダミアンが退室した後、すぐさま王妃が陛下に訴えにやって来た。

 そして、すぐに隣国を盾に脅してくる。


「……隣国への連絡は先程終えたばかりだ。

 元々隣国へは、君に対する対応で相談していた。

 今回の件だけではない。

 君はこちらの国に来てから、どれだけの事をやってきた?

 長年に渡り、側妃を害そうとしたり、幼い頃はイアンをも害そうしたではないか。

 イアンが大きくなり、力をつけ始めると直接イアンを攻撃しない代わりに、周りを傷つけていたね?

 イアンの婚約者に対してもそうだ。

 勝手にイアンの婚約者を決めたにも関わらず、その婚約者に対しての嫌がらせはもちろん、今回の件では、その婚約者ごと潰そうとした。

 でも、私が一番腹立たしいのは、自分の息子であるダミアンでさえ力でねじ伏せていた事だ。

 ダミアンが今まであんなに卑屈になっていたのは、君のせいだよ。

 君への処置は、今回の件がきっかけになったに過ぎない。

 元々隣国と何度も話し合い、ダミアンがゆくゆくは国王になれば君への対処には干渉しないと確約をもらっていたんだ。

 君の祖国も、君への対応にはどうやら辟易していたようだね」

 

 陛下が王妃にそう告げる。

 

「何を言っているのです! 証拠はあるのですか⁉︎ 変な言いがかりはやめて頂きたいですわね!」


 そう言う王妃を一瞥した後、陛下は徐に書類の山を指差す。


「あの書類の山は、君が長年に渡り行ってきた悪行の証拠が記されたものだ。

 ダミアンがしっかりとし、国を任せられる器になったと感じた時に使おうと、今まで全ての証拠を集めて保管してきたのだ」


 陛下がそう言うと、王妃は悔しそうな顔をし、すぐさま魔法を使って、その書類の山を燃やそうとした。

 王妃は火属性で火魔法の使い手でもあったのだ。


「え? 燃えない⁉︎」


 しかし、王妃が燃やそうと火を放つがすぐに火は消えてしまい、全く書類を燃やす事が出来なかった。


「そういう行動を取ることも想定内だ。

 この部屋では魔法は使えないぞ。君の行動を予測して、魔術師団に今まで研究してもらって、魔法遮断装置を部屋に取り付けてもらっていたからね」


「なっ⁉︎」


 驚く王妃は、なりふり構わず火魔法を放とうとするが、全く発動しない。


「あぁ、それと」


 その王妃を見据えながら、陛下は次の句を放つ。


「君には長年に渡り、魔力を弱小化するように薬を飲んでもらっていた。

 常に君のご機嫌を伺い、君を怒らせないようにしてきたから、以前のようにすぐさま火魔法を放って、そこらへんを火の海にする事もなくなったから、君は自分の魔力が落ちてきている事に気付かなかっただろう。

 今後もどんどん君の魔力は落ちる予定だ。

 この薬に関しては、隣国の協力もあったのだよ。

 君は隣国にいた時から、気に入らない事があればすぐさま周りを火の海に変えていたらしいからね?

 この国を火の海にする事は、さすがに申し訳ないと隣国の国王であらせられる、君の父上から打診があり、隣国から提供された魔力弱小化の薬を、我が国の魔術師団で更に開発を進めて、効力を二倍にする事に成功した。

 君はもう、昔のように周りを火の海に変える力は無くなっているはずだよ?」


 そう言って陛下は王妃に背を向ける。


「だれか! 王妃を自室に連れて行くように!

 そして王妃を別宮に移すまで、部屋から出すな!」


 陛下がそう命令すると、すぐさま衛兵たちが王妃を執務室から連れ出そうとする。

 

「ふざけないで! 勝手に魔力を奪うなど許されない行為よ!」


 そう叫びながら王妃は、必死で抵抗して火魔法を放とうとするが、何度やっても全く発動しない事に動揺していた。


「伊達に君と長年連れ添ったわけではないよ。君の行動は把握済みだと言っただろう?

 君の行動範囲には魔力遮断器が設置されている。

 君がこれから別宮に行く過程の道のりや馬車にも。もちろん別宮にもね。

 あぁ、その装置もいつまで必要になるかな?

 君の魔力が尽きるのは時間の問題だからね」


 執務室から連れ出されていく王妃に向けて、陛下は静かにそう告げた後、心の中で付け足す。




(人は皆、生命を維持する為に、どんなに微弱でも魔力を持っている。

 しかし、あの薬を飲み続けて魔力が完全に尽きたら……。

 君はもう、ここに戻る事はないだろうな)


 陛下は王妃が出ていった扉を見ながら、今までの事を振り返り、ようやく肩の荷が下りたように感じていた。



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