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29.企業秘密

「ギアス様、またいらしたのですか? 魔術師団本部の方は大丈夫なのですか?」

 

 

 ファクソン商会の店の奥にある商品開発部で、次に出す商品を試作している私は、部屋に入ってきたギアス様を見て、呆れてそう言った。 

 

 

「君の考え方を聞いていると、全く新しい魔道具や魔法が思い浮かぶから、団長も容認してくれていますよ?」

  

 にこやかにギアス様はそう返答し、私の手元を覗き込む。

 

 ここ商品開発部では、信頼のおける商会の研究員数名が働いており、彼らの前では私の氷魔法を解禁している。 

 そして、スライムゼリーを使った大型の冷凍室を作り、その中を凍らせて商品を冷凍保存したりしているのだ。

 今はかき氷用の角氷を多量に作っていた。

 

 

「相変わらず、貴女の魔法は無駄が無いですね。水から氷に変化させる道程は分かりましたが、そんなに素早くそれだけの量を簡単に凍らせる魔法が使えるのは貴女くらいのものですよ。

 私はまだ、手のひらサイズの水を氷に変化させるのに、30分以上はかかりますからね。

 しかも、貴女の作る氷はなかなか溶けない。何が違うのか、とても興味深いですよ」

 

 

 ギアス様はそう言って、私の氷魔法をじっくりと見ていた。

 

 

「で、他にはどんな魔法が使えるんです?」

 

「え?」

 

 

 ふいにそう聞かれて、私はびっくりする。

 

 

「いえ、貴女を見ていると、何故か他の魔法も難なく使えそうな気がするんですよね」

 

 

 変わらずにこやかにそう言うギアス様に、私もにっこりと微笑む。

 

 

「いやだわ、ギアス様。人の属性って決まってますでしょ? 私は水属性だから、水を使った魔法しか使えませんわ」

 

 

「またまた。そんな事言ってる割に、今度は別の依頼を私にしてきたくせに。

 あの薬は何処で入手してきたのです?」

 

 

「企業秘密ですわよ?」 

 

 

 ギアス様との攻防を繰り広げながら、私は笑顔で答える。

 

 言えるわけない。

 

 相変わらず、魔法の練習をしていた時に、お腹が痛くなって、薬が欲しいと思った時に偶然に出来た産物だった。 

 

 出来た水薬を飲んでみると、すぐに腹痛が治ったので、その効能にびっくりしたのだが、流石にその内容物が何かなど、全く分からない。

 

 

 なので今回、その成分の分析をギアス様に依頼したのだが、これがまたギアス様のアンテナに引っかかってしまったという。

 

 

「それで成分は分かりそうですの?」

 

 

「解析が難しいですね。あの薬は水自体に何か影響があるのかも。本当に何処であんな凄い効き目のある水薬を手に入れたのやら」

 

 

 よく前世の異世界アニメや小説の中で、聖女が怪我人を魔法で治しているが、私にはそんな力はない。

 この偶然出来た水薬は、水に関連したものだからこそ出来たのだと思う。

 

 水属性に関連するチートが、ここにきて進化したのだろうか?

 

 分析して中身の成分さえ分かったら、商会でも扱おうかと思ったのに。

 

 

 考え込む私を見て、ギアス様がクスッと笑う。

 

「まぁ、いいですよ。楽しませてもらっているから。

 ある程度の解析は出来ました。いくつかの分からない成分はありますが、分かった部分でも鎮痛効果の十分な薬が作れると思います」

 

 

「本当ですか!? ありがとうございます、ギアス様!」 

 

 

 嬉しくなってギアス様に心からお礼を言った。

 ギアス様の話だと、私の出す水が効能を増加していることになる。

 この国の薬は、私からすると昔の日本のような印象だ。庶民は手に入りにくく、また効能も弱い。

 という事は、今ある薬に私の出す水を混ぜれば効能が増す?


 ならば、かき氷などに使う水は、自分では出さずに飲み水を氷に変えた方がいいのかも知れない。

 いや、でもなぁ。飲み水にもお金がかかるし、自分で出した水を氷にした方が安上がりなんだけど……。

 

 そんな事を考えながら、ギアス様と薬について話し合っていると、店の方から商会の使用人が声を掛けてきた。

 

 

「お嬢様、第二王子殿下がお越しになっておられます」

 

 

「そう、分かったわ。応接間にお通ししておいてくれる?」

 

 

「かしこまりました」

 

 

 そう言って、使用人が出ていった。

 

 

「なら、私も挨拶に行かないとね」

 

「え!?」

 

 

 当然のようにそう言うギアス様に、びっくりする。

 

 

「私が来ているのに、挨拶をしない方がおかしいでしょう?」

 

 

「……そうですわね。では、参りましょうか」

 

 

 

 私達は片付けもそこそこに、応接間に向かった。

 

 

 

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