24.就任パーティ
王宮に着き、イアン様のエスコートで馬車から降りると、すぐに周りからの視線が集まる。
驚きの視線が殆どだが、やはりイアン様の人気は絶大なもので、すぐに令嬢たちからは射抜くような視線に変わる。
「エレノア嬢、足元に気を付けて」
周りの視線を全く気にしていないようで、平然とした表情のイアン様は流石だ。
でも、普段からパーティやお茶会にもあまり参加していない私は、こういった視線に慣れてないのよ。
必死に周りを気にしないように装いながら、イアン様のエスコートでパーティ会場に向かった。
本日は、魔術師団本部の副団長就任パーティなので、普段よりは令嬢が少ない。
その事にホッとしながら、会場に入った。
王族の人達が会場入りし、王太子殿下の隣りにはエリザベス様もいた。
「さぁ、挨拶に向かおう」
イアン様に言われ、一緒に挨拶をしに行く。
「本日はお招き頂き、誠にありがとう存じます。両陛下におかれましては、此度の遠征に参加させて頂き、貴重な学びの場を与えて頂きましたこと、本当に感謝申し上げます」
そう挨拶をした私に対し、国王陛下はにこやかに返答する。
「おぉ! ファクソン伯爵令嬢! 聞いておるぞ。遠征中では、皆の食事や介抱など、とても献身的に我が軍に尽くしてくれたそうだな。
なかなか出来ない事だ。立派な婚約者でイアンも嬉しいであろう?」
陛下にそう振られたイアン様は、先程まで顔を赤くしていた時とは全く違って、
「ええ。この縁を結んで頂いた王妃様には、とても感謝致しております」
と平然とした態度でそう答えた。
「ファクソン伯爵令嬢は、エリザベスの下でよく働いたそうですわね?
これからも王太子と王太子妃の役に立てるよう、精進なさい」
「は、母上……そのような物言いは……。
ファクソン伯爵令嬢は率先して皆の力に……」
「貴方は黙ってなさい。王太子たる者が、軽々しく婚約者以外の令嬢を庇うものではありませんよ」
王妃の物言いにダミアン王太子殿下が反論してくれようとしたが、王妃にすぐに遮られてしまう。
遠征で見せた気概は見られず、今までのようにオドオドしている王太子殿下を見ると、何だかこちらまで悲しくなってきてしまった。
隣りで座っているエリザベス様も、そんな王太子殿下を複雑そうな表情で見ている。
なんとも言えない雰囲気の中、早々にイアン様と共に挨拶を終えた。
「エレノア嬢、大丈夫か?」
「え?」
「すまない。
遠征では君が率先して色々と手伝ってくれていたのに、いつの間にかリンクザルド公爵令嬢の手柄として伝えられている。
多分王妃の仕業だろう」
なるほど。
そういう事ね。
「別に構いませんわよ?
手柄を得たくてした訳ではありませんし」
そう返答した私に、イアン様は優しく微笑む。
「遠征に行った者は、みんな真実を知っている。だから、王妃がいくら噂を流そうとも気にするな」
「もちろんですわ」
別に王妃にどう思われようと関係ない。
私はもともと利用価値の無い令嬢だから、イアン様の婚約者に選ばれたのだものね。
そして暫くすると、本日の主役であるゼノ・ギアス様が呼ばれ、陛下より魔術師団本部の副団長として正式に任命された。
「我が国の発展の為、そなたの力を存分に発揮してほしい」
ギアス様が跪きながら、陛下のお言葉を受ける。
「御意。
ギルティ王国の為、全力で努めることを誓います」
ギアス様の言葉に会場中、拍手で包まれる。
そして、その後はギアス様の周りに色々な人達が集まり、皆がギアス様とお近付きになりたい様子が窺えた。
ギアス様は甘めの美形だ。
しかも、年齢は27歳と意外と若かったのには驚いたものだ。あの、初対面の容貌はとてもそんな風には見えなかった。
なので、令嬢達はもちろん、ご婦人方も目の色を変えており、ご当主方は将来有望な出世頭を婿にと、令嬢達と共に売り込みに忙しい。
その様子を見ると、何だか少し遠い存在に感じてしまった。
これからはやはり、ギアス様には気安く協力を求める事は出来なさそうね。
残念な気持ちはあるけれど、確かにあれだけの実力を持った人だ。
正当な評価を受けた事に、私まで嬉しくなる。
そういった気持ちで見ていると、不意にギアス様と目が合った。
「エレノア嬢!!」
ギアス様が他の人を置いて、真っ直ぐこちらに向かってくる。
え、いいの!?
まずは王都の主要人物達との交流を図らないとダメなんじゃ?
そう思うが、どんどんこっちに近づいて来て、とうとう目の前までやって来た。
「エレノア嬢!! 久しぶりだね! いや~、君が居た時は毎日が充実して研究が捗っていたのに、君が帰った途端に刺激がなくなっちゃって、楽しくなくなったから王都に来ちゃったよ」
にこにことそう話すギアス様に、周りも何事かとこちらを注目する。
しかし、周りの目など全く気にしないギアス様は、次々とアイデアの話をし始めた。
「君がアイデアをくれた、遠くにいても監視が出来る装置について考えてみたんだ。小さなモニターとなる物をあちこちに設置して、そのモニターから映る画面を1箇所で見る事で、一気に色んな場面が同時に見れるっていう、あれね!
とても画期的だと思うんだけど、それには錬金術師の協力も取り次がないといけないし、ましてその装置を設置するには一度あの危険なパルバット山脈に入らないといけないからね。
そこをどうにかしようと今考えて……」
「ストップ! ストップ! ギアス様! そこまでですわよ?
ここを何処だとお思いですか?」
一方的に話すギアス様の言葉を遮り、特上の笑顔でそう言うと、一気にギアス様は黙り込む。
全く、砦に居た時から度々ギアス様は、新しい事にのめり込んで周りが見えなくなる事があった。
その度に私が制止してたのよね。
最初は遠慮気味に抑えてたんだけど、段々頻度が増してきたので、途中から私も遠慮なく叱ってしまっていた。
それが何故か良かったみたいで、随分と懐かれて仲良くなれたんだっけ。
しかし、王都に来て、更にはこんな主要人物が集まるパーティの中でまで同じような行動を取るとは思わなかった。
TPOを知らない子供か! 全く!
このやり取りを、周りの人達は唖然として見ており、やってしまった感が否めないが、今更どうしようもない。
困ったなぁって思っていると、突然大声で笑い出した人がいた。