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21.気になる存在

「イアン殿下、結界の強化の事で、東地区の辺境伯家より連絡があったそうです。先程宰相様より書類を預かりました」

 

 

 お茶会の後、少し離れて私の護衛していたオーウェンが、執務室に戻ってきた所でそう話し掛けてきた。

 

 

「あぁ、分かった」

 

 

 そう返答するが、なかなか仕事が手につかない。

 

 先程のお茶会では、エレノア嬢にギアス南支部団長との関係をもっと聞いておけばよかったと、今更ながらに後悔する。

 

 砦では殆ど話せず、帰りも結局今後の事を兄上と相談する為、エレノア嬢とは別の馬車に乗る事になった。

 

 帰ってきてからも、報告やら結界に関する今後の方針やら色々取り決めがあり、なかなか自分の時間が取れない中、ようやく少しの時間を空けて今回のお茶会に行ったのだ。

 

 それもあっという間に終わり、具体的な話をすることも無く終了してしまった事で、気持ちがなかなか切り替えられない自分に驚いていた。

 

 

「イアン殿下」

 

 ……

 

 

「イアン殿下!」

 

「! どうした!?」

 

「それはこちらのセリフです。全然書類に手をつけず、動作停止状態だったのですよ」

 

 

 あ、そう言えば、返事だけしてまだ書類を受け取っていなかった。

 

 

「悪い。受け取ろう」

 

 オーウェンが書類を手渡しながら、更に聞き捨てならない事を言ってきた。

 

 

「そう言えば、ご存知ですか? 砦で魔物監視をしていた魔術師団のゼノ・ギアス南支部団長が、来月王都に異動になるそうですよ」

 

 

「! 何故だ!?」

 

 私はつい前のめりで、問いかけてしまった。

 

 元々ゼノ・ギアスは今までどんなに王都への異動を命じられても頑なに拒否し、あの砦で一人で魔物の監視をしてきた変わり者だった。

 

 実際出会った時の様相を見ると、その事も頷けたものだ。

 

 その後は身綺麗にし、エレノア嬢と何やら楽しげにしていたみたいだが、一時の関わりと気にしないようにしてきたのに……。

 

 それも王都に帰ってきてからも、何やらやり取りをしていると気付いてから、胸のモヤモヤがどうにも収まらず、今回のお茶会では責めた口調になってしまった。

 

 しかしそれでもまだ心に余裕があるのは、ゼノ・ギアスが遠方にいたからだ。

 

 

「何故かは分かりませんが、急に王都に行くと言い出したそうです。

 変わり者ですが、実力は前から評価されており、今回の砦でも、一人で魔物の動向を探る役割を果たした実力者ですからね。

 王都に来たら、魔術師団本部の総副団長の地位は約束されているそうですよ」

 

 

「そうか……」

 

 

 ゼノ・ギアスが来るのは、もしかしてエレノア嬢に関連が?

 

 

 そう考えてまたもや胸がモヤモヤしていると、見かねたオーウェンがため息を吐いた。

 

 

「イアン殿下。ちゃんと婚約者を捕まえておかないと、とんびに油揚げですよ?」

 

 

「とんびに油揚げ? なんだそれは?」

 

 

「先人の言葉です。言葉的にはよく分からないけど、意味としては自分のものになると思っていたものや、大切にしていたものを不意に横取りされたりすることだそうですよ」

 

 

「先人の言葉? 何を言っているんだか……」

 

 

 そう言うも、先程の言葉が耳に残って離れない。

 

 

 自分のもの? 大切?

 

 それはまさかエレノア嬢の事を言っているのか?

 

 

 いやまて。私はいずれ臣籍降下し、王妃が勝手に決めた婚約は解消するつもりだったはず。

 エレノア嬢とのお茶会が思いの外、楽しくてついこのままでも……とは考えてしまったが、まさかこの私が女性を気にするなど、ましてや大切な存在と思うなど有り得ない事だ。

 

 

 どの面下げてそんな事、考えている?

 私は、エレノア嬢を縛る権利はない。

 むしろ、早く解放してあげなければと思っていたくらいだ。

 

 だけど……この胸のモヤモヤは何だ?

 

 

「殿下。ファクソン伯爵令嬢はとても気さくな方ですからね。結構騎士の間でも人気があるんですよ。

 特に今回の遠征に参加した騎士達は、みんな食事で胃袋を掴まれ、怪我をすれば介抱してもらうなど、何かとお世話になっていましたからね。

 かく言う私もファクソン伯爵令嬢のファンですよ」 

 

 

「!!」

 

 

 あまりの事に、頭が追いつかない。

 

 いつの間にオーウェンまでファンになった?

 

 しかし、そうか!

 今回の遠征で、砦での毎日の食事は、食べたことの無い料理もあり、とても美味しかった。

 

 それに怪我や病気になった者の介抱も率先してやってくれていたんだ。

 

 最初は皆から、お荷物同然に思われていたが、日を追う毎に皆、感謝し、来てもらって良かったという意見も多々あった程だ。

 

 

 

 そう考えると、余計に気持ちが焦ってくる。

 

 何だ? これは。

 

 こんな事は今まで一度もなかったのに。

 

 

 

「殿下。いつもお茶会の時にしかファクソン伯爵令嬢にお会いしていないようですが、たまには会いに行かれてもよろしいのでは?

 それに、婚約されてから一度も贈り物もされておりませんし……

 こんな事では、本当にとんびに油揚げをさらわれますねぇ」

 

 

「オーウェン! お前は一々うるさいぞ。

 仕事の邪魔だ! もう戻れ!」

 

 

 八つ当たり気味にオーウェンにそう命令すると、オーウェンは全くこたえておらず、ニヤニヤしながら

「仰せのままに」

 と言って、執務室から出ていった。




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