20.久しぶりのお茶会
魔物討伐から戻ってきてから1ヶ月が経った。
今回の魔物の氾濫は、今後も起こりうる現象だと王太子殿下やイアン殿下が陛下に申し出た為、早急に今の結界の見直しや、強化がされる方向で動き出しているようだ。
王宮に行くと、皆が慌ただしく動いていて、忙しそうだった。
私はというと、王都に戻って来てから、暫くはお休みになっていた王子妃教育が本日から始まり、久しぶりに王宮に来ていた。
「本当に忙しそう……。
これは、お茶会どころではないよね」
王子妃教育のあとの恒例のお茶会。
でも、こんなに王宮内は慌ただしそうなんだもの。
きっとイアン様もお忙しいはず。
「直帰するのは流石にマズイかなぁ……。
絶対来ないと思うんだけどな……」
ついつい独り言を言いながら、メイドの後をついてお茶会の場所にいく。
まさか、いないよね?
そう考えながら庭園の四阿に入る。
辺りを見渡すが誰もいなかった。
「やっぱり!」
ついニマニマしてしまう顔を何とか誤魔化しながら、運ばれてきたお茶を飲む。
もう暫く待って、イアン様が来なかったら、そのままデザートを食べて帰ろう!
今日は、サルサローテ辺境伯領に居るギアス様から、スライムを加工して作った保冷剤の元が届く予定となっている。
あそこの領ならスライムは結構生息しているから、資源に困ることもない。
今日も早めに帰って、届いたものを裏山の氷室に持っていかないと。
「すまない、待たせた」
そんな事を考えていたからか、いつの間にか前の席に座っているイアン様に全く気が付かなかった。
「えっ! あ、イアン様、お久しぶりでございます」
私は慌てて挨拶をする。
びっくりした。全く気付かないなんて、失態だわ。
少し落ち込む私を見て、イアン様は微笑んだ。
「あぁ久しぶりだ。こちらに戻って来てから慌ただしくて、会う時間が取れなかった。
戻って来てからはゆっくり休めただろうか? もう、疲れはとれたか?」
「はい。お陰様でゆっくり休む事が出来ました。イアン様は戻って来てからもお忙しそうですが、お身体は大丈夫でしょうか」
久しぶりにイアン様の顔を見たが、何だか少しやつれたような気がする。
やはり遠征から戻ってからも、ゆっくり休む暇などなかったんだろうな。
そう思うと、何だか申し訳なくなる。
私はなんだかんだで、遠征中も楽しんでたし、戻ってきてからもゆっくりしながら、領地繁栄の為の商品開発に勤しんでいたから。
「あぁ、私は大丈夫だ」
イアン様はそう言って、優雅にお茶を飲んだ。
その様子を見ながら、改めて思う。
ギアス様は甘めの美形だったけど、イアン様はストイックな性格が顔に反映されて、冷たい印象を受けるが、またギアス様とは違うタイプの美形男性。
お茶を飲む姿は、とても優雅で洗練されている。
しかし、魔物討伐の際に見た、鬼神のような強さを誇るあの姿もまたイアン様の魅力を引き出していた。
これはエリザベス様がゾッコンになるはずだわ。
こんな完璧美形男が、今は私の婚約者だなんて本当に信じられない。
「どうした?」
ハッ!
うっかり見惚れてしまっていたわ! 危ない危ない!
婚約解消を考えている相手なのに、気を許してはダメよ!
「いえ、イアン様は最近とくにお忙しいので、本日は来られないかと思っていたので……」
私がそう言うと、イアン様はあぁ、と思い出したかのように私を見る。
「そうだ、君に聞きたい事があって、来たのもある」
「? なんでしょう?」
「君のところに、ギアス南支部団長から送られてきた物があるとか?」
ギクッ!
何故それを!?
まさか、ギアス様、内緒だって言ったのに、裏切ったか!?
「砦で手当をしている君たちが、冷やしたタオルの代わりにゼリー状の固形の物を使用していた聞いた。
見たところ、どうもスライムを使用していたようだと。
そして、王都に運ばれてきた荷物を点検する際に、砦に同行していた者がいて、そのゼリー状の物が大量に運ばれてきたと。
それもギアス南支部団長から君宛に」
わちゃ~
王都へ運ばれてくる物って、いちいち点検してるのか……。
私は、そろりとイアン様の顔を見る。
イアン様は、怖いくらいの笑顔だ。
これはヤバイ。
保冷剤を始め、現代の冷え○タやアイス○ン枕などを、スライムゼリーで王都でも作って売り出したいと考えていたけど、やはりスライムを持ち込んだのはマズイのかも……。
いや、でもコアを抜いた死骸だから、害はないんだったよね?
「我が家で新しい物を作って、売り出そうかと思いまして……ほほほ……。
ちなみに、大量の荷物の中身は持ち込み禁止扱いでしょうか?」
「コアを抜いたスライムは、無害と承認されているから大丈夫だろうが、よくあんなものを使って商品化しようなどと思い付いたな。
一体君は砦で何をしてたんだろうな?
じっくり聞いてみたいと思っていたんだ」
凄い笑顔のまま、そう話すイアン様が怖い。
「ほ、ほほ……。そんな大した事は何も……。
ギアス様から色々と教えて頂けたので、それを活かしてみようかと。
幸い、あちらではスライムはいっぱい居るようなので、研究材料として買い取りをして送って頂きましたの。
コアが抜かれたスライムは今までは捨てるしかなかったものがお金になると、あちらでも喜ばれましたし、商品化すれば、今後も定期的に購入すると提携も結ぶつもりでしたので、そうなれば国にも報告するつもりでいましたのよ?」
必死でそう話す私は、早口で一気に説明した。
何故こんなに気持ちが追い詰められているのか分からないけど、とにかくイアン様の圧がすごい。
「その提携はゼノ・ギアス個人と結ぶのか?」
冷たくそう言い放つイアン様に、何も悪い事をしていないのに、後ろめたい気持ちにさせられる。
「い、いえ! ギアス様はサルサローテ辺境伯様に仲介して下さるだけで、実際にはサルサローテ辺境伯様との提携となります!」
そう言い切った私を見て、イアン様は少し表情を和らげ、静かにお茶を飲んだ。