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18.久々の逢瀬

 

 夜になったからと、魔物が結界を破って入って来ない訳では無い。

 

 なので、交代制で討伐隊が現場を見張りながら討伐を行なっており、夕食を食べたらまた討伐に向かうグループもいるようだ。 

 

 せめて私に出来る事はと、次の日からも私は料理を担当しながら、ギアス様とお互いの知識を共有した。

 私は水魔法から氷へと変換する方法を教え、ギアス様には、スライムを保冷剤として使用する方法を一緒に考えてもらっていた。

 

 ゼノ・ギアス南支部団長という呼び名は長いので、ギアス様とお呼びさせて頂く事を許可してもらい、ギアス様も、私の事をエレノア嬢呼びとなった。  

 

 エリザベス様は、相変わらずその後もイアン様に付きまとい、先日とうとうイアン様を怒らせていた。

 

  

 

 そんな感じで、砦に来てから早くも1ヶ月が経とうとしている。 

 

 

 

 ここに来てからびっくりしたのだが、砦の周りは、夜だというのに灯を絶やす事が無いため、いつも視界が明るい。

 

 少し夜は怖かったが、この明るさなら安心とばかりに砦のバルコニーに出てみた。

 

 

「夜は静かなのね……」

 

 

 もっと激しく夜も魔物が出て、討伐も大変なのかと思いきや、結界区域辺りもそんなに騒がしくない。

 

 夜に外を眺めるなんてあまりした事がないので、ついそのまま、辺りの景色に見入ってしまった。

 

 

「何をしている?」 

 

 

 その声に振り向くと、いつの間にか後ろにイアン殿下が立っていた。

 

 

「イアン殿下」

 

 

 そういえば、こちらに来てからあまりちゃんとした会話をしていなかった。

 

 イアン殿下は、討伐隊の隊長として忙しくしており、ただ見学しにきたようなものの私にはとても近寄りがたかった。

 

 何も考えずにイアン殿下に突進していくエリザベス様には、呆れを通り越して尊敬すら感じた程だ。

 

 それに、こっそりスライムの研究をしている事がバレたらまた怒られると思い、あえて近寄らないようにしていたところもある。

 

 だから、今の状況は完全な不意打ちであり、心臓に悪い状況だ。

 

 

「も、申し訳ございません。すぐに退席致します」

 

 

 

 私は慌ててこの場から立ち去ろうとした。

 

 でも、イアン殿下の横を横切る時、私の腕を掴み、イアン殿下が私を引き留めた。

 

 

「え?」

 

 

 びっくりして、イアン殿下の顔を見上げると、

「あ、すまない。痛かっただろうか?」

 と、慌てて私の腕を離し、バツの悪そうな表情でイアン殿下が私に聞いてくる。

 

 

「あ、いえ。大丈夫です」 

 

 

「そうか……」 

 

 

「……」 

 

 

 そのまま黙り込んだイアン殿下に、どう対応していいか分からない。

 

 基本、婚約してからの3年間、ほとんど関わること無く、つい最近ようやく知り合いになった程度の仲だ。

 だから、イアン殿下が何を考えているのか、想像もつかない。

 

 しかもここに来てから特に険しい表情をしているイアン殿下に、苦手意識が芽生え、余計にあまり近づかないようにしていたから。 

  

 

「あ、あの?」 

 

 思い切って話しかけると、イアン殿下はハッとした顔で私を見た。

 

 

「ああ、すまない。

 そんなに慌てて戻らなくてもいい。別に責めているわけではないのだ。

 ただ、眠れないのかと気になったから声を掛けただけで……」 

 

 

「あ、そうなのですね。

 ええ、今日はあまり眠くなかったので、少し夜風に当たろうかと思って。

 それに、夜の討伐状況も気になったので……」

 

 

 

 私の答えに、殿下が頷く。

 

 

「そうか。

 で、どうだ? 夜の討伐状況を見た感想は?」

 

 

「そうですね。ここからはよく見えるはずなのに、あまりに静かでびっくりしました」

 

 

 ここに来た時の感想をそのまま伝える。

 本当に魔物討伐をしているのか、不思議なくらい静かだから。

 

 

 

「そうだな。最近は魔物の数が減ってきているのもある。だから夜行性の魔物も今では数匹入ってくる程度だ。

 山脈内で何が起こっているのかまだ分からないが、氾濫がおさまってきているのだろうな」 

 

 

「まぁ! そうなのですね! 良かったですわ!」 

 

 

 日に日に疲弊していく討伐隊の人達を見るのは、私も辛かったのだ。

 もちろん、負傷した人の手当てなども手伝ってはいたが、日毎に増える負傷者を見て、不安は拭えなかったから、そのイアン殿下の言葉はとても嬉しかった。

 

 

「近い内に、パルバット山脈に生息する魔物達の動きをゼノ・ギアス南支部団長から報告が上がってくるはずだ。

 それによっては王都に戻る目処も立つだろう」

 

 

 そう説明をしてくれた後、イアン殿下は私をジッと見た。

 

「どうされました?」 

 

 私がそう問うと、

「いや……君は思ったより強いなと。

 こんな辺境地に、いつ戻れるとも分からない状況の中でも、生き生きとして暮らしているから」

 と、イアン殿下は答える。

 

 

 あら。見られていたのかしら?

 スライムの研究はギアス様との秘密だし、あの研究は夢が広がるから、楽しくて仕方ないんだけど、討伐隊の人達に悪いから、楽しい気持ちはあまり出さないようにしてたんだけど。

 

 

「そ、そうですね。

 自分でもびっくりしています。

 案外、どんな環境下でもすぐに順応するのかも知れません」

 

 

 貴族令嬢にあるまじき順応性だ。

 

 

「ふっ。君にはいつも驚かされる。

 さぁ、そろそろ部屋に戻った方がいい。

 夜ももう遅いからね」 

 

 

「はい。

 おやすみなさいませ。イアン殿下」 

 

 

 私はカーテシーをしてから改めて退出しようとしたが、再度イアン殿下に呼び止められた。

 

 

「呼び方」 

 

 

「え?」 

 

 

「殿下はいらないと言ったはずだが?」 

 

 

 ああ、そうだった。

 何だか距離を感じてたから、名前呼びはしにくかったのよね……

 

 

「イアン様。

 改めて、おやすみなさいませ」

 

 

 私がそう言うと、イアン様はとても嬉しそうな表情で

「ああ、おやすみ。いい夢を」

 と、言った。

 

 

 だから。

 その笑顔は反則だって!! 

 

 

 まぁ、そんな感じで砦で過ごしていたが、イアン様が言っていた通り、最近、魔物が入り込んでくる数が減ってきたのと、その魔物も凶暴性のあるものが減ってきたという事で、今後の対応策を話し合う事になった。

 


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― 新着の感想 ―
は...???作者様は何一つ悪くないし、完璧な人間なんて面白みもないけど、色んなキャラクターいるよねって思いますが.... 人に謝ることもせず、3年間の仕打ちを無かったことのように忘れて話しかけてくる…
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