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14.遠征地到着

 

 その後も順調に進んで行き、あと数日でパルバット山脈のある南地区に着こうとしている時だった。

 

 

「あ! あれ! あれは魔物では!?」

 

 

 私はそうイアン殿下に尋ねた。 

 

 イアン殿下との相乗りの馬車で、ちょうど山道を越えている最中に、何やらゼリー状の丸い物体をチラホラ見つけたのだ。

 

 それは前世で言うところのスライムに似ていて……。

 

 

「あぁ、スライムだね」

 

 

 あ、こっちでもスライムなのか。

 

 

「放っておいて大丈夫なのですか?」

 

 私がそう尋ねると、イアン殿下は頷く。 

 

「こちらから攻撃しない限り、滅多な事では襲ってこないから、大丈夫だと思う。

 稀に、スライムを気にせずに傍で昼寝をしていた者が居て、急にスライムが顔に吸い付いてきて離れず、窒息死したという話は聞いた事があるけど」

 

 

 それ、大丈夫なやつなの!?

 

 

「結界内は魔物はいないと思っていましたから、びっくりしました。

 わたくし、魔物は初めて見るので」

 

 そう言った私に、イアン殿下は頷いて答える。

 

「王都やその周辺は、人口が多いため、より強力な結界を張っているけど、限界があるんだ。

 一応は王国内全部を結界で守っているけど、王都から離れるほど強い魔物を弾く事に限定した結界になる。

 だから、国境に近づくほど弱い魔物は結界を抜けて来て、そこで生息してしまうんだ。

 その中でも、人間に危害を加えるものは辺境伯家や、冒険者達が魔物討伐をして守ってくれている」

 

 

 なるほど。

 そういう事か。

 

 うちの領地は、王都寄りだから今まで魔物を見た事がなかったのね。

 

 

「ありがとうございます。とても勉強になりますわ」

 

 

 私はニッコリと笑ってお礼を言う。

 

 これから先、どんな魔物がいるのか分からないけど、スライムくらいなら狩ってみたいと、うずうずしてしまった。

 

 

「ちなみに、スライムを狩るのは難しいですか?」

 

 

 私の質問に、イアン殿下は怪訝な顔をする。

 

「いや? 中級魔法なら一撃で仕留められるが……何故そんな事を?」

 

「え……いや、これから魔物討伐に向かうのならば、少しくらいはわたくしもお役に立てるよう、練習がしたいなぁ……なんて」

 

 語尾が徐々に小さくなってしまう。

 

 だって、イアン殿下の顔が徐々に険しくなるから。

 

 

「君はそんな事しなくていい。

 今回の魔物討伐は思っているより危険なものだ。遊び感覚で魔物を狩るのとは訳が違う。

 本来なら君やエリザベス嬢は来るべきではなかった案件だ。

 今更言っても仕方ないが、せめて君たちは着いたら安全な所で待機していてくれ」

 

 

 厳しい表情でそう言ったイアン殿下に、何も言えない。

 確かにスライムを見て、前世の血が騒いで遊び感覚になってしまったけど、これは現実だ。

 

 浮き足立っている場合ではなかったのに、つい調子に乗ってしまった。

 

 

「申し訳ございませんでした」

 

 

 謝りながら落ち込んでしまった私を見て、イアン殿下の表情が少し和らぐ。

 

 

「いや、私もキツく言ってしまった。

 君はここに巻き込まれた形で無理やり連れて来られただけなのに、我々の役に立とうと思ってくれた。

 それなのに、責めるように言ってしまって、すまない」

 

 

「いえ! わたくしが甘かったのです! 申し訳ございませんでした。

 せめて、殿下がわたくしを気にせずにお役目を果たせるよう、大人しく待機しておりますわ」

 

 

 イアン殿下の言葉を受けて、慌てて改めて謝罪した。

 

 

 イアン殿下が私の返答を聞いて、 

「殿下だなんて……名前呼び……」

 と、ブツブツと小声で言っている事には気づかなかった。 

 

 

 

 それからも順調に進み、ようやくパルバット山脈のある南地区に着いた。

 そして、この辺りを領地とするサルサローテ辺境伯家に向かう。

 

 サルサローテ辺境伯家には、すでに前触れを出していた為、歓迎ムードで迎えられた。

 

 

「王太子殿下並びに、第二王子殿下におかれましては、遠路はるばるお越しくださいましたこと、とても感謝致しております。

 当家の当主はまだ起き上がれない状態ですので、失礼ながらわたくし、ミーナ・サルサローテがご挨拶させていただきます事を、お許しくださいませ」 

 

 

 サルサローテ辺境伯夫人の言葉を受け、王太子殿下が笑顔で答える。

 

「構わないよ。辺境伯の具合は如何か?」

 

 

「はい、意識は戻っておりますので、会話は出来るかと。

 失礼でなければ、どうか部屋にてお会い下されば、夫も安心致しましょう。

 殿下方が来られるまでと、辺境伯家の騎士達や、周辺の冒険者達で何とか被害を防いでいたのですが、騎士達も疲弊してきておりますので、皆、不安な毎日を送っていたのです」

 

 

 辺境伯夫人は、王太子殿下とイアン殿下に現場の状態を説明した。

 

 

「そうだな。まずは辺境伯に会って、状況を確かめよう」

 

 

 王太子殿下の言葉に、イアン殿下も頷く。

 

 

「では、わたくしが夫の部屋にご案内致します。

 お連れのお嬢様方もお疲れのことでございましょう。

 サロンでお茶の用意をしておりますので、どうぞ身体を休めて下さいまし。

 サロンへは、息子のバロンに案内させますので」

 

 

 辺境伯夫人の言葉に、後ろに控えていた嫡男のバロン辺境伯子息が挨拶をした。

 

 

「サルサローテ辺境伯の息子、バロン・サルサローテです。

 私がご案内致しますので、どうぞこちらへ」

 

 

 バロン辺境伯子息は確かまだ10歳。

 でも、とても大人びていて、すでに次期辺境伯という片鱗を見せている。

 

 

「エリザベス・リンクザルドですわ。

 よろしくお願いしますわね」

 

 

「エレノア・ファクソンでございます。

 此方に滞在する間、お世話になります。

 よろしくお願い致します」

 

 

 エリザベス様に続き、私も挨拶をする。

 

 そして、私とエリザベス様はサロンへ、イアン殿下と王太子殿下は辺境伯の自室へと、それぞれ別れて案内をしてもらった。




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