零.やくそく
『「泡沫少女」
著:INORI
零.やくそく
夢だ。
直感的に、そう理解する。
だって、あまりにも脈絡が無い。
つい先程までは、中学の時の同級生とバスケットボールに興じていたはずだ。自分も相手も、一回もシュートが入らない、かなり不毛な試合をしていたと、確かに思う。
それがなぜ寝室で、透明な自分と向き合っているのか。
そんな事を気にするでもなく気にしていると、目の前の自分が喋る。
「わかったよ」
…何を?
「きっとうまくできるから」
だから、何を?
問いかけようにも、夢の中では自分の喉が見つからない。体を自由に動かせない。
向かい合う自分は、覚悟を決めたような、それでいて私を肯定するかのような、優しい眼をしている。
真っ白な、平たい仮面を両手で抱え、微笑んでいる。
そんな彼女の息遣いに、私は根の無い罪悪感を持つ。
泣きたい気持ちになってくる。
「いってらっしゃい、楽しんできてね」
そう言って手を振ってくれた彼女は、いつの間にかいなくなっていた。
…まぁ、いいか。
どれだけ意味深であったとしても、どれだけ焦燥を掻き立てられたとしても、結局は夢で、等しく朝日が焼き払うものだ。
そんな、慣れた諦観を抱えつつ、私はテニスの試合に戻っていった。