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第6話 告白

—1—


 体育館の後片付けを済ませた私と美鈴は先輩の出待ちをしていた。

 記念撮影をしたり、寄せ書きを渡したり、在校生は先輩たちに想いを伝えていた。


 ほどなくして郡山先輩が昇降口から出てきた。


「玲奈、行ってきな」


「う、うん」


 美鈴に背中を押されて私は郡山先輩の所へ。


「おう、長窪。今日で勝負も終わりだな」


「そうですね」


 297勝348敗。もう私に勝ち目はない。

 それでも私は諦めない。最後の最後に人生最大の大勝負を仕掛ける。


「郡山先輩、私、先輩のことが好きです」


 先輩と過ごした日々は本当に楽しかった。

 騙し合いを通して先輩の不器用さ、優しさを知れた。

 先輩と一緒にいれば毎日が刺激的で楽しい。いつからか私にとって先輩は無くてはならない存在になっていたのだ。


「先輩と一緒だったらどんなに辛いことでも笑顔で乗り越えられる。そう思ったんです。もしよかったら付き合って下さい」


「ごめん」


 届かなかった。

 当然、こうなる可能性も考えていた。

 でも、いざ面と向かって断られるとキツイな。

 ふぅ、切り替えろ玲奈。今日は先輩の晴れ舞台なんだ。最後は笑顔で見送るって決めたでしょ。


「な、なーんちゃって。ドッキリです。もし、先輩に告白したら先輩はどんな反応をするのかってやつです」


 我ながら苦しい嘘だ。ダメだ。どんな顔をすればいいんだろう。

 気を抜いたら涙が出てきそう。もう嫌だ。全部を投げ出して帰りたい。


「長窪、騙し合いの勝者の特権をここで使ってもいいか?」


「はい」


 先輩のいつにもなく真剣な声に私は頷いた。


「長窪、俺と付き合ってくれないか」


「えっ?」


 聞こえなかったわけじゃない。

 頭の理解が追いつかなくて聞き返してしまった。


「俺と付き合ってくれないか?」


「えっ、でも今ごめんって……」


 『振られてから告白されるまでの最短時間』というギネス記録が仮にあったとしたら更新してしまったのではないだろうか。

 混乱しすぎてそんな意味のわからないことが頭に浮かんだ。


「絶対俺の方から告白するって決めてたからつい反射的に、な」


「な、って言われても。なにそれ」


 一体この人はどこまで不器用なのだろうか。

 もう、私のドキドキを返して欲しい。


「なんだよ。なんで笑ってんだよ」


 緊張が解けたのと、拍子抜けしたのが合わさって笑えてきた。


「いや、なんか先輩らしいなって思って」


「ダメかな?」


「騙し合いの勝者の特権は何でも1つだけ願い事を聞いてもらえるなんですよね? だったら私は断れないじゃないですか?」


「そうだけど、長窪が嫌だったら別に断ってもらってもいいけど」


「えーどうしようかなー。勇気を出して告白したのにあっさり振られた身にもなって欲しいかななんて思ったりもするんですけど」


「……」


 私がいじわるでそんなことを言うと先輩が悲しそうな顔をした。

 そんな捨てられた子犬みたいに悲しい目をしなくても。


「ごめん、でも本気で長窪のことが好きなんだ。これから先もずっと一緒にいたいって心から思ってる」


 気持ちが昂ったのか先輩の声のボリュームが一段と大きくなった。

 その証拠に周りにいた生徒の視線が私たちに集まった。

 みんなが私と先輩を見てる。恥ずかしくて顔が熱い。


 もう今日は感情が次から次へと変化して大渋滞だ。 


「先輩、これからもよろしくお願いします」


 私は先輩に抱きついた。

 大勢に見られているという恥ずかしさはあったけど、ずっとこうしたいと思っていた。

 このタイミングを逃すと次にいつできるか分からないから自分の感情のまま飛びついた。


「よろしくな玲奈」


 先輩は優しく受け止めてくれた。


 試合に負けて勝負に勝つとはこのことを言うのだろう。

 先輩と出会えて本当によかった。

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