「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
屋根裏部屋の彼女
「本当に屋根裏部屋で良いのかい?」
「ありがとうございます。居候させてもらえるだけで十分です!」
両親の反対を押し切り、夢を追いかけて上京してきた俺。
バイト先の店長に頼み込んで屋根裏部屋を格安で使わせてもらえることになった。
金もない、伝手もない俺にとって、雨風がしのげるだけでもありがたい。
屋根裏部屋に入ってみると、思っていたほど悪くない。
窓はないけれど、最低限の明かりは付いているし、掃除してあるので埃っぽくもない。もちろん立って歩けるほどの高さはないし、冷暖房だって付いていないけど、なぜかめっちゃ薄着の美女がいるし。
「あの……もしかして部屋間違えちゃいました?」
『ふーん、君、私が見えるんだね』
話を聞いてみると、彼女はいわゆる座敷童らしい。
「あの……座敷童って和服なんじゃ?」
ゆるいTシャツにデニムの短パン。どう見ても座敷要素ゼロだ。
『あはは、いつの時代の話よ? 今は令和よ』
妖怪にも時代の移り変わりはあるらしい。
「あの……童って子どもじゃないんですか?」
『私だって成長するのよ? 何年生きてると思っているのよ』
たしかに何百年も生きていれば大きくもなるのかもしれない。
「今日からお世話になります」
『うん、よろしくね、青年』
こうして座敷童姉さんとの共同生活が始まった。
あっという間に一年が過ぎたころ。
「信じられない……俺が合格するなんて」
『何言ってんのよ。私が付いているんだから当然。とはいえ、貴方の実力があってこそだけどね』
夢が叶うのは嬉しい。でも、寮に入ったら、ここを出なくてはならない。
「座敷童姉さん……俺、やっぱりここに残るよ」
『は? 何言ってんのよ、夢を叶えるために一生懸命頑張ってきたんじゃない』
「離れたくないんだ。俺、座敷童姉さんのこと……」
『駄目よ。貴方はここを出て夢を叶えるの。私たち座敷童はね。力を与えた人間が夢を諦めたら消えてしまうのよ……』
逆に言えば、俺が夢を諦めなければ座敷童姉さんが消えることはないってことだよな。
「わかりました。必ず夢を叶えてまたここへ戻って……」
『何言ってるの? 私も一緒に行くわよ。どんなところか楽しみね』
「あの……座敷童姉さんってここから離れられないんじゃ?」
『あのねえ……そんなわけないでしょうが。この家、まだ築十五年よ?』
「じゃ、じゃあ……?」
『一生付きまとってあげるから安心しなさい、青年』
「はいっ!! またお世話になります」