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ナイト・ヴィジョンズ  作者: 揺流華-SaiON
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初任務

〈第四話〉初任務


パーティが始まり各々食べたいものを取り、各自食べ始めた。隣には唯越さんと三露さんが座っている。

(唯越さんって左利きなんだ。よかったぁ、左端に座れなかったから心配だったんだよね。しかもお酒飲んでるじゃん。もしかして見た目の割に若いのかな、イメージよりもアクティブすぎるんだけど)

唯越:「流影君、そんなに見ても未成年には飲ませられないよ。若いんだからいっぱい食べなさい」

そう言って僕の皿に食べ物を適当によそった。

(あ、この人酔ってるわ。怖いなぁ、)

 大人たちのお酒の匂いに僕と三露さんはすっかりやられていた。龍岡さんは飲んでおらず、食事と会話を楽しんでいる。アルコールの香りでこちらも酔っているような気がして、箸がすすんだ。



~~~



デザートも食べ終え、若者三人で片付け始めた。大人達はゾンビのような歩き方で自室へと戻っていった。鋳箱さんはあまり飲んでいなかったのか僕たちと一緒に片付けをしてくれた。

鋳箱:「すみません、私が皆さんを家まで送ると言ったのにお酒を飲んでしまいました。12時くらいになっていまいますがその時間なら車を出せます。それまでは自由に過ごしてください。もちろん泊まっても大丈夫です。トイレの奥がお風呂ですので、よければ使ってください。私はここにいるのでもし地下室へ行きたかったら声をかけてください」

龍岡:「はい、分かりました。鋳箱さんも休んでくださいね」

三露:「そうですよ、ゆっくりしてください」

鋳箱:「ありがとうございます。ですが緊急時のために一人はいないといけないので」

流影:「大変ですね‥」

 片付けを終えた僕たちは一度自室に戻った。飾り気のない自室ではすることがなかったので、僕は葉蘇さんからもらった封筒をベッドに寝転びながら見た。『流影䙥獅 貴公はオールラウンダーが適性である。』と書かれた紙が一番上にきていて、後ろに4,5枚続いていた。『あなたは基本的な戦闘には十分な能力を持っており、難しい状況でも柔軟な対応力と思考力、行動力により打開する力を有しています。また近、中、遠の装備を高いレベルで使い分けることができ、それらを最大限活かすだけで無く、独自の組み合わせでより戦闘を優位に運ぶことができるでしょう。よってオールラウンダーが適性と分析されます。以下、オールラウンダー用の資料を読み任務に励んでください。』一枚目にはとことん僕を褒める内容が書かれていて、逆に少し疑いたくもなるくらいだった。二、三枚目には現在オールラウンダーの人の装備や戦闘記録が見れるようになっていた。JSAOスマホでQRコードを読み取れば動画も見れるらしい。自分の戦闘検査の動画もあったが、恥ずかしくて見なかった。後はスマホの使い方や地下室でできること、最後には個人情報や給料に関するものだった。

 資料を読み終えて暇だったのでリビングに行くと鋳箱さんがお茶を飲んでいた。

流影:「鋳箱さん大丈夫ですか?」

鋳箱:「ええ、大丈夫ですよ、お酒自体はほとんど飲んでいないので。飲酒運転で捕まったりしたらまずいので時間をもらっています。すみません、最低限は飲まないといけないと思っていたのですが、やっぱり飲まなければ良かったと思っています」

流影:「いえ、付き合いっていうものがあるのは分かってます」

鋳箱:「葉蘇さんはこれから仲間になるとおっしゃっていましたが、それは同時に今はほぼ赤の他人みたいな関係って考えられますよね」

流影:「確かにそうですね。でも僕は今日とても楽しかったです。いっぱいご飯を食べて、皆さんといっぱい話せていっぱい笑えて、顔が筋肉痛になりそうです。‥この場所をアルバイト先ととらえるか、新しい家族と暮らす場所ととらえるか、どう考えれば良いか分かりませんが、僕が活躍できる場所だとは思いました」

鋳箱:「少しでも居心地が良いと思えるように私も頑張ります。流影さんのようにオールラウンダーという役職はなかなかいないので私達も戦いやすくなると思います。ほんとに心強いです」

流影:「ありがとうございます。ちなみに鋳箱さんは?」

鋳箱:「私は遠距離担当で、役職で言うとスナイパーです。アクティブに動き回って戦うのはできないです。基本的には後ろで援護をしています」

流影:「なるほど、良いですね。いつか一緒に戦いたいです」

鋳箱:「明日、葉蘇さんから連絡があると思いますが、流影さんにも任務のお願いが入ると思います。今のうちに戦闘体をカスタマイズしますか?」

流影:「はい、そうします」

鋳箱さんと地下室へ行き、パソコンの使い方を教わった。戦闘体のカスタマイズは髪、目、ホルダーの色を変えることができ、視覚補強という見た目は裸眼でも視力強制ができたり、自分専用オーダーメイドの武器も作れるようになったりするらしい。もちろん隊服の男性用、女性用の着せ替えもできる。『戦闘体レベル』というものがあることも教わった。

鋳箱:「戦闘体レベルが上がれば戦闘体そのものの耐久力が上がり、装備の切り替えの微妙なタイムラグを抑えることができるようになります。まぁ目に見えて変わる程ではないのであまり気にされなくても大丈夫です。JSAO隊員としての経験値を分かりやすくした、ぐらいですので」

流影:「なるほど、緒賀さんが言ってたようにほんとにゲームの世界みたいです」

鋳箱:「今はまだ大丈夫ですが、これらのせいでJSAOから犯罪者が出なければいいのですが‥。私はリビングに戻ります。訓練室も使って大丈夫ですので」

流影:「はい、ありがとうございます」

鋳箱さんが部屋を出た後、僕はカスタマイズを始めた。髪と目はターコイズブルーにし、眼鏡をとり視覚補強を入れた。支部に余っている武器なら装備枠に入れても良いと言うことなので、装備も入れ替えた。内部装備にステルスパーカー(隠密用装備)を加え、攻撃用装備をKブーツと花爪とスパローにし、防御用装備は特に変えずテクトを付けた。すごく無難な装備だが、攻撃用装備の余りが樹角とアサルトライフルしかなく、防御用装備の畳盤というものが分からなかったので、こうするしかなかった。訓練室を使って仮想タイラントと何戦かしたが、隊服はそのままの方が動きやすかったので変えなかった。

(女装癖があるとか思われたくないけど、長ズボンってあんまり好きじゃないんだよなぁ)

「皆にこの姿で戦ってるとなんか言われそうだけど、戦闘のことを考えるとこの方が良いんだよなぁ。戦闘体レベルが上がれば隊服もアレンジできれば良いのに」

オールラウンダーとして様々な役割をすることになると思うが、武器タネのホルダーには空きをつくっておきたかった。必要になれば皆から借りればいいと思っていたからだ。

 部屋に戻ってもすること無いし、リビングに行っても気まずいだけだったので僕は鋳箱さんが呼びに来るまでずっとパソコンをいじったり、訓練室で模擬戦をしたりして時間を潰した。オールラウンダーとして立ち位置のために近距離武器から遠距離武器まで支部内にある全ての武器を試した。何戦かして感じたが、やっぱり基本装備は変えなくていいみたいだ。

 結局三人とも家に帰ることとなり鋳箱さんに運転してもらい帰宅した。道順的に一番最初に僕が降りた。

流影:「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」

鋳箱:「明日から任務があると思うので、早く寝てゆっくり休んでください」

龍岡:「流影君、おやすみ」

三露:「流影さん、おやすみなさい」

流影:「おやすみなさい、皆さんも気をつけて帰ってください」

遠ざかっていく車に小さく手を振りながら、さっきの何気ない挨拶の余韻を感じていた。




○○○

困ったことがあれば相談し合える、自分の素直な言葉を受け取ってもらえる、そんな存在でも小さなズレから言い争いになり、言ってはいけないことを言うことだってあった。所謂反抗期の時期だった。兄を恨み、姉を憎しみ、両親を呪ったこともあった。たった一度だけだったが、家族の心に大きな傷を負わせる言葉を乱暴に言い放った。その時は最悪の弟であり、最悪の息子だと自分でも分かっていた。それでも家族は僕に、「おはよう」と優しく朝の光を与えてくれ、「行ってらっしゃい」と笑顔で送り出してくれ、「お帰り」と家に迎え入れてくれ、「おやすみ」と静かな夜を与えてくれ、「ありがとう」と今の自分に言ってくれた。そんなことがあった一年後ぐらいに聞いたことがある、どうしてあの時でもあんなに優しく声をかけてくれたのかと。すると両親は笑顔で答えてくれた。「‥いつ死ぬかは誰にも分からない。あなたがどんなに私達を嫌いになっても、私達はあなたを愛し続ける‥‥。」少し照れた後、両親は続けた。「これで三人とも同じ質問をしたわね。㬡(れいと)(みお)も笑っちゃうだろうなぁ」

○○○




 翌日、九時に起きた僕はいつも通り朝の支度をした。JSAOスマホには連絡は来ていなかった。何か来るまでは本を読んでいようと思い、手に取った瞬間スマホが鳴った。生活用のスマホの音とは違いシンブルな単音が部屋に響いた。葉蘇さんから届いた個人チャットには、一二時から一七時までの五時間、コイド化生命体からの防衛及び撃退、消滅せよ、という任務のお知らせだった。初めての任務ということで、葉蘇さんと鋳箱さんが付き添いで任務のあれこれを教えてくれるらしい。遂に来た本番の連絡に心臓の鼓動が早まるのを感じた。

(今こんなに緊張してどうする。大丈夫だ、僕ならできる)

そう言い聞かせ水を一杯飲んだ。

任務までの時間は気を紛らわせるためにトイレ、お風呂の掃除や大学の書類の整理、いらなそうなものを捨てるなどした。一一時頃に昼食の準備をし、一一時半に第8支部へ出発した。

 一二時少し前に着いてリビングへ行くと蘭護さんと三露さんが昼ご飯を食べるところだった。

蘭護:「あら、こんにちは流影君。今日初出勤だって?あんまり緊張しないようにね」

三露:「そうなんですか、頑張ってください。葉蘇さんと鋳箱さんが付き添いですし、何か出ても大丈夫ですよ」

流影:「ありがとうございます。頑張ります。三露さんのときも葉蘇さんと鋳箱さんが?」

三露:「はい。タイラントが一体出現しましたが、私でも倒せたので、流影さんなら心配ないと思いますよ」

流影:「二人が見てる前で戦うんですか?」

三露:「そうです。まぁ私はガンナーなので狙って撃ってたら倒せてたみたいな感じでしたけど」

流影:「なるほど。‥てか三露さんってガンナーなんですね」

三露:「正確にはライトガンナーって役職らしいです。確かに私にはあった戦い方ですし、あの戦闘検査の結果も信用できるような気がします」

流影:「そうですね、いつか一緒に戦いたいですね」

三露:「ですね」

数分後地下室から葉蘇さんが上がってきて、鋳箱さんも自室から来て、二人に連れられ僕は初めての任務を開始した。鋳箱さんが車を運転している中、葉蘇さんが任務について話してくれた。

葉蘇:「今日は初めてだから支部から車で町を回るけど、本来は任務開始にちゃんとJSAOスマホを持っていてくれればどこにいてもいい。と言っても任務時間中は指定範囲、まぁここでいうと瑠虹市にいないといけないから気をつけて。緊急なことが無い限りはパトロールみたいに市内を散歩するのが普通かな。というかそれぐらいしかやることがないかな。今日は一六時に支部に帰ってやることがあるからそのつもりで。アルバイトでいうとシフトのことを決めないといけないからね。あとは‥‥なんかあるかな」

鋳箱:「通常は同じ任務時間に二人体制になっています。JSAO本部が二人で対処できないほどのコイド化生命体の反応を検知したときや、任務中の二人がオーバードーズ(戦闘体の破壊)、スレイアウト(緊急帰還装置)を使用したときは同支部の全員にJSAOスマホを通じてアラートが発せられます」

葉蘇:「そういうわけで、あくまで任務中はパトロールって意味が強いかな。二人ともおちるよりかは早めにヘルプをしてくれた方がありがたいな。僕も上から怒られちゃうし。まぁでもこっちに来てからは無いし、皆強いからあんまり心配ないけどね!」

任務に関してあらかた分かった後、鋳箱さんはコンビニの駐車場に車を止めた。

鋳箱:「では、流影さんはここから東に行ってください。ここら辺は余り来たことがないでしょう?ただの散歩でも楽しいと思いますよ。あと、好きなタイミングで北上してください。ただ瑠虹市からは出ないでください。三時半くらいに流影さんを拾って支部へ帰ります」

葉蘇:「パトロール及び町と市民の防衛ってことを忘れずに」

流影:「はい、分かりました!」

車から降りた僕は、指示通り東へと歩を進めた。

 全く知らない場所ではあったが、建物はいつも見ているものとほぼ変わらない。学校や会社、コンビニやレストラン、そして畑や水田、後ろにたたずむ山々はどの方角を見ても必ず画角に入ってくる。

流影:「さすが田舎だなぁ、富士山も大きくて綺麗に見えるし、夜になったら星も綺麗に見えるかな」

三十分くらい経ったときから、任務中ということも気にならなくなり、ゆっくりのんびり瑠虹市を散歩するようになっていた。一時間が経ったときにはもう指定範囲の東側ギリギリまできていて、僕は北上を始めた。その時だった、コイド化生命体の発生を知らせるアラートが鳴った。どこか浮かれていた僕の気持ちは、現実に引き戻され身体に緊張が走った。

葉蘇:「流影君、仕事だ。現場に向かってくれ。知っていると思うけど、コイド化生命体の反応はスマホでも確認できるが、戦闘体のときは脳内でレーダーを意識すれば視界にその反応がポイントされる。幸い君が一番近いし、頼むよ」

流影:「了解です」

 一つ深呼吸をした後、スマホのレーダーで示された方へ走り出し、人気の無い場所に入り僕は初めての仕事を開始した。

流影:「戦闘体、起動!」

戦闘体に換装し基礎能力が向上したことにより、走るスピードやジャンプ力が上がりすぐに現場に着くことができた。人々による悲鳴が近くなるにつれて僕は緊張で呼吸がしづらくなっていた。予想していた通り既に大きな人的被害が発生していた。大通りから一本外れた場所だが、近くにはアパートやお店があり人が多く入り乱れていた。であろう、場所だったはずだ。

現場では三体のタイラントが近くにいる人間を殺していて、周囲に転がる死体は血と殴り跡で見分けがつかないくらいになっていた。日本だとは思えないくらいの殺戮の現場となっていた。

想像もしていなかった状況に理解が追いつかず棒立ちとなっていた僕は、葉蘇さんの声で気を戻した。

葉蘇:「流影!流影!!状況を説明しろ!!」

流影:「は、はい、え、えっと人が、死んで、タイラントが殺して、血が、ああ」

葉蘇:「流影!市民を守れ!お前の仕事だ!!戦え!!」

一人また一人と目の前で市民が殺されるのを見るしかできなかった。気持ちはすぐにでも戦いたいのに身体が全く動かない。一体のタイラントが近づいて来るのにそれでも僕は何もできなかった。

(動け!動け!あんなけ練習しただろ!動け!!)

テクトと叫んだつもりだったが、口が半開きになるだけで一切の言葉は出ずに強烈な拳を腹にくらった。

流影:「いってぇなぁ!   …これでやっと目が覚めた。ありがとよクソデカブツがよ!」

右手に花爪、左手にスパローを展開し立ち上がった。すぐさま花爪で切りつけ、力の限り振りきった。すぐ横で叫ぶ女性がうるさかった。僕は自分のやるべきことを思い出した。

(今俺がやるべきなのは市民を守ること、戦うのはその後だ)

離れた場所で暴れている二体のタイラントの注意を引くためにハンドガンを撃ちながら近づいていった。俺に腹ぱんしてきたやつも後ろについてきている。近くまでいったらスパローをしまい花爪を両手で持ち、一番背の低いタイラント切りつけた。ちょうど硬化している場所ではじかれたが、注意は引けた。

(あと、一匹。頼むから俺に夢中になっていてくれよ)

三体目のタイラントが小学生の男の子につかみかかろうと両腕を近づけたとき、ぎりぎりテクトの遠隔シールド圏内で守ることができた。攻撃を防がれたタイラントはこちらを向き俺と目が合った。両腕から棘のようなものが出ているそいつは間違いなく一番強い殺気を放っていた。後ろからは二体の通常タイラントが近づいてきて、目の前には初めて目にする異常な個体のタイラント。不思議と悪い未来を想像できなかった。最悪のケースである、タイラントたちが無差別に市民を虐殺するのを避けることができた。それに、数分もすれば支部長達が援護に来てくれる。そう、俺はここで三体を相手すればいいだけ。模擬戦では三体なんて準備運動ぐらいの感覚で戦ってきた。俺は一度、後ろから来る二体に一瞥し正面の敵を向き合った。未知の敵には慎重に、相手の出方を良く観察すること。ゲームでは忘れてはいけない理だ。

 重い足音とともにそのグロテスクな腕を振り上げて迫ってくる。

(テクトが割られるぐらいの攻撃力がありそうだな。動きも遅いしよけれるだろう)

右に避けた俺は人間の心臓部に当たる場所を突いた。しかし、表皮は壁のように硬く俺の花爪は傷を付けることすらできなかった。

(まぁまぁ、今のは踏み込みも甘かったし、こんなもんだよね)

そのまま後ろに下がり距離をとった。視界に三体とも入ったところで耳に手を当てた。

流影:「支部長。三体とも僕に引きつけられました。あとどれくらいで着きますか?」

葉蘇:「さすがだ、今着いたよ」

その言葉とともに腕棘タイラントの後ろにいた通常タイラントは、鋳箱さんのスナイプと葉蘇さんの花爪によりコアを破壊されて消滅した。そして残った腕棘には葉蘇さんのアサルトが浴びせられた。

戦場は三人で一体のタイラントを囲むような図になった。

葉蘇:「あの腕ずいぶん物騒だし、堅いねぇ」

鋳箱:「流影さんお待たせしてすみません。葉蘇さんが敵の情報を引き出してくれます。私達はカバーです。」

僕が返事をする前に葉蘇さんは走り出してして、鋳箱さんはスナイパーを構えていた。葉蘇さんは花爪を両手に展開して流れるように攻撃を重ねていた。両手に武器を展開することは装備枠を二つ使うため基本的に防御手段が無くなる。それを分かっているから攻撃量でヤツを圧倒している。僕は花爪をしまい葉蘇さんへのテクトの準備をした。

 僕は何もせず葉蘇さんと両腕に棘のついたタイラントとの戦闘を見ていた。二つの花爪を器用に使い、攻撃と防御、受け流しや突きなど花爪のお手本を見ているようだった。そして一連の流れの後

「扇薙花爪!」

飛ばされた二つの斬撃により、棘のついた腕が一つ地面に落とされていた。

葉蘇:「はぁ、はぁ。やっと一本落とせた。流影君、何も言わずに悪かったね。はぁ、はぁ、あれはコイド化変異体と呼ばれる個体だ。通常と異なる見た目や能力を持つものをそう呼称する」

鋳箱:「初めて見る個体ですよね」

葉蘇:「ああ、体表もかなり硬いし、なによりあの腕だな。巨大化したり、伸縮したりといろんな個体がいるもんだ。これは報告書がはかどるな」

鋳箱:「これからどうしますか?」

葉蘇:「できるだけ敵の能力を見たいが、町に被害が出すぎる。まず、あの腕の攻撃はプロテクトじゃないと防げないくらい強力だ。それに」

葉蘇さんの言葉をボキュンという音が遮った。

葉蘇:「こういうことがある!」

切り落とされた腕は消滅していたが、ヤツは葉蘇さんの花爪による攻撃をを二つの腕で受け止めていた。何事も無かったかのように棘のついた腕は復活していたのだ。

葉蘇:「早急に仕留める、鋳箱はいつも通りに。流影はオールラウンダーとして役割を果たせ!」

「「了解!」」

支部長による命令が下された後、鋳箱さんは改めてスコープを覗き直した。

(オールラウンダーとして俺がやるべきこと‥‥。葉蘇さんとの共闘なのか、援護なのか、それとも市民の防衛なのか。‥どうすればいい。葉蘇さんと共闘なんてしたことないから絶対に足手まといになる。かといって葉蘇さんだけにあいつを負わせるわけにはいかない。鋳箱さんはいつも通りってことは、やっぱり隙をついて狙撃で仕留めるってことだろう。じゃあ)

膝立ち状態から立ち上がって、俺はスパローを展開した。ガンナーとして二人が動きやすいように援護することを選んだ。二人の邪魔にならないように、そしてある程度ヘイトを稼げるように俺は、距離を保ちながらヤツの左腕のみを狙ってハンドガンを撃ち続けた。その間葉蘇さんは俺のやりたいことが分かったのか、戦っている最中に小さな休憩を挟むようになった。休憩している間は俺や鋳箱さんが弾で攻めていく。何度か繰り返していくうちに敵の体の再生が止まり、腕や身体には傷が重なるようになった。

(もうそろそろコイツも終わりだな、こういう場合ってコアを破壊した人が総取りなのかな。もし俺が仕留めれたらボーナスとかも期待できるんじゃ)

5度目くらいの小休憩に通話が入った。

鋳箱:「そろそろトドメを指しますか?」

葉蘇:「そうだね、僕も引き上げたいな。 はぁ、はぁ、次僕が両腕を飛ばしたら、鋳箱が仕留めてくれ。いくぞ!」

両手で銃を持って射撃していた俺は、葉蘇さんの走り出しに合わせてそれを武器タネに戻し腰のホルダーにしまった。遠隔シールドをするために少し近づいて、物陰から戦闘の様子に注視した。通話でも分かったが葉蘇さんは息が上がっていて、動きも少し鈍くなっている。俺が生き残っても今のヤツには勝てない。葉蘇さんが生きている内にコイツを倒さないといけない。俺はボーナスを諦めて防御に徹した。


 葉蘇の持つ花爪が桃色から煌々とした紅に染まったとき、戦闘体エネルギーの消費は加速する。葉蘇自身もヤツとの戦闘により、傷ついた戦闘体から液体化したエネルギーが漏出しスレイアウト寸前であった。


葉蘇:「部下の前なんでねぇ。きっちり仕事はするさ。扇薙、花爪!!」

二つの紅い刀から放たれた真っ赤な斬撃はコイド化変異体の両腕を切り落とした。その瞬間、がら空きにになった心臓部に鋳箱による狙撃が打ち抜かれた。パキンッと音を立てコアは破壊され、コイド化変異体は光の塵となり消滅した。

 戦闘後の市民や町のことは、警察や数人の自衛隊の方々が担当するらしく僕たちは変異体の消滅後逃げるようにその場をあとにし、第8支部へと帰った。

葉蘇:「ふぅやっと落ち着ける。とりあえずは戦闘体の回復もあるし流影君もここでゆっくりしてな」

鋳箱:「時間的にも蘭護さんと三露さんに交代ですので、落ち着くまではここにいた方がいいと思います。あ、戦闘体の回復の仕方は聞きましたか?」

流影:「いえ、まだです」

鋳箱:「では付いてきてください」

鋳箱さんは葉蘇さんのスマホを受け取り部屋を出た。僕は鋳箱さんの後を追った。部屋を出る直前後ろをちらっと振り返ると、葉蘇さんは自分の鞄をあさっていた。きっとJSAOに関することだろう。報告書がなんとかって言ってたし。

 鋳箱:「個人カプセルの横に付いているスマホホルダーに差し込んでください。色が赤くなったら回復が開始します。音も鳴るので分かりやすいと思います」

流影:「そうですね」

鋳箱:「流影さん、大丈夫ですか?」

流影:「え、あ、何がですか?」

鋳箱:「初めての任務であのような光景を目にするのは誰であっても精神的なショックを受けます。一応言っておくと、文字通りあれは変異体です。通常個体とは異なるので、任務がいつもあんな感じではないので」

流影:「はい、分かってます。今はまだ、ただ、実感がありません」

鋳箱:「私や葉蘇さんはほぼ毎日ここで仕事をしています。何か、できることがあれば気にせず私達大人を頼ってください」

流影:「はい、ありがとう、ございます」

僕は何も考えずに第八支部を出て町を歩き帰宅した。道中はいつもと何も変わらない風景が広がっていて、さっき起きたことなんて無かったかのように日常が進んでいた。瑠虹市東北部で起きた事件の波紋はまだここには拡がっていなかった。


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