目覚め、そして一歩
〈第二話〉目覚め、そして一歩
窓からさす日の光がまぶしくて僕は目を覚ました。木造建築、いやログハウスのような家の一室だ。新しい木の匂いを感じる。昨日の出来事は間違いなく現実のことであったのだ。横を向くと綺麗な女性が座っていた。
「おはようございます。今は戦闘体ですので自由に動けると思います。あなたの本当の身体は私達が治療しているので安心してください。急なことで混乱していると思いますが、落ち着いてください。」
「は、はぁ。確かに身体は動かしても痛くないです、ね。あの‥ここは‥‥、一体‥」
「ここはJSAO山梨第8支部の一室です。私はここで秘書をしている鋳箱優希です。流影さん、付いてきてもらえますか。先ほどを伝えたように身体は動けるはずなので」
「え、どうして僕の名前を?」体を起こして僕は聞いた。
「そのことについても説明しますのでこちらに」
起き上がると僕は妙な服を着ていることに気が付いた。黒を基調とした、スポーツウェアというものだろうか。下は短パンにインナーが見えている。ところどころに緑色のカット?線?が入っている。個人的にこういうデザインは好きだ。軍服を真っ黒にして四肢に緑色の線を一本のばした感じ。ピタッと張り付く生地ではあるものの伸縮性はとても良い。胸と二の腕と太ももあたりにポッケがあるのも戦闘服感があって良い。などと服全体をまじまじと眺めいていると鋳箱さんの視線を感じた。
「戦闘服ですので動きやすさや機能性を重視したものになっています。立ってもう一度全身を見てください。少し違和感がしませんか?」
「は、はい。‥‥う~ん、特に気になる点はないです。動きやすいし、デザインも好みです。」
「そう‥ですか。良かったです‥。よく似合っていると思いますよ。では行きましょうか。」
鋳箱さんの後を歩きながら家をグルグルと観察した。やはりログハウス調の造りになっていて、とても天井が高く感じた。しかし二階部分は個室が続いており何人かがここで暮らしていることを示していた。一階に降り場所的にこの先はリビングであろう扉の前に来た。話し声が聞こえてくる。急に緊張し始めて喉が渇いた。初めて転校先の自分の教室に入る時と同じくらいだ。
「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。みんな一度見てますから。」
「え、ちょ、どういうこっ」
僕の反応を聞く前に鋳箱さんは部屋に入っていった。なんか引っかかるものがあったけど僕も続いた。数人の大人からの視線を一気に感じた。これが一番嫌いだ。
「優希さん、その子が流影君?やっぱりそっちの隊服の方が似合ってるね。おはよう、僕が支部長の葉蘇春典だ。座って座って」
部屋には葉蘇と名乗る人物に、ダイニングキッチンには女性が何やら作業をしていて、鋳箱さんは彼女の所に向かっていた。テレビ付近にはお爺さまと表わした方が良いような人が、ソファには夫婦にも見える男女がいた。僕は手招きされた方へ歩き出すとさっき閉めた後ろのドアが開いた。
「おはよう流影君。やっぱり君にはその服を着せて良かったよ~」
縦にも横にも体が大きい男性が僕を舐めるように見てきた。苦笑いをしながらその視線に後ずさりすると、ソファに座る女性が立ち上がり、僕の目の前まで来た。
「流影さん、昨夜はありがとうございました。あなたのおかげで町に大きな被害が出ることを防げました。今は混乱することが多いでしょう、本体が完治するまではここでゆっくりしていってね。あ、私は蘭護清香、よろしくね」
「流影、俺からも感謝させてくれ。直感だがお前はこの仕事に向いている。どうだこの支部に入らないか。お前がいると戦闘も楽になる、はずだ。」
「まさくん、そんないきなり言われても困っちゃうでしょ。自己紹介ぐらいしなさい」
「そ、そうだな、すまなかった。俺は高屋雅隆。近接戦闘担当だ」
「まさ、流影君の勧誘は支部長の僕の仕事だよ~。さぁさぁこっちに」
促されるまま僕は支部長の前に座った。鋳箱さんや高屋さん、蘭護さんは各々したいことをしている。多分だけど、僕と支部長の話を漏らすことなく聞いているのだろう。初対面で優しい人ほど気をつけた方がいいと個人的に思っていたため、この人達も敵なのではないかと感じてしまった。少なくとも昨日のことと関係のある人達なのは間違いないだろう。
(勧誘って言ってたな、もし断ったら消されるとかなのかな。本体は彼らの手の中にあるし、ここがどこだかも分からないし。雰囲気は嫌いじゃないけど、どこかビジネススマイル感が否めない)
「では!改めまして僕がJSAO山梨第8支部、支部長の葉蘇春典だ。まずはJSAOの説明からだね。JSAOというのは流影君が昨夜出会ったコイド化生命体というものから日本を守る組織だ。ニュースで言われているコイドの症状と大きく異なっているが、あれが真実だ。コイドにかかった人間は死後あのように怪物となって人間を襲うようになっている。なぜそのような行動をするのかは分かっていないが、中国からきたウイルスであるかぎり中国がそう仕組んだと我々は考えている。そしてこの山梨支部は今年の四月に出来たばっかりの新しいところだ。今では僕を含めて8人が所属している。みんな良く戦ってくれている、けど、皆初めてのことだしやはりまだ一人一人の負担が大きいんだ。それぞれの生活もあるからね。と言うわけで是非この山梨第8支部の加入をお願いしたい。返事はすぐじゃなくてもいいさ、今気になることとか質問はあるかい?できるだけ答えたい」
「‥‥僕は何故‥殺されかけたんですか。何故僕を助けたんですか‥。‥‥死にたかったのに‥」
「君という存在はもう僕たちの仲間だからさ。仲間を助けるのは当然のことだろう?」
「意味が分かりません」
「‥君が家族を失ったときから君はJSAO隊員の一人となった。瑠虹大学に入学したことでたまたま第8支部所属となっただけだ」
「‥‥何故それを‥、あと僕はまだこんな所に入るなんて言ってません」
「ここに所属するJSAO隊員の基本情報くらいは知っていて当然のこと、僕支部長だし」
「助けた理由がそうでも、僕はなんで殺されかけなければならなかったんですか」
「それは分からない、コイドというウイルスの90%は未解明だからね。僕から言えるのは君が偶然そこにいたからってぐらいかな」
「馬鹿にしてるんですか、帰ります」
「本体はまだ完治してないよ。それにその格好を大衆に見せるのはJSAOとしても罰則の対象だ」
「僕はJSAOの隊員ではありません。‥だから組織のルールなんかどうでもいいです」
少しためらったのは彼らに助けてもらわなければ、僕は本当に死んでいたから。死にたいけど死にたくない、未だに僕はその二つに捕らわれている。
「‥家に帰ります」
席を立った僕と同時にお爺さんが立ち上がった。室内の全員が僕ではなくその人を見たことが分かった。ソファに座っていた高屋さんと蘭護さんが驚いた表情をしていたことを確認し、この行動が特異なことだと理解した。棒立ちの僕の正面まで来ると口を開いた。
「ここで得られる経験は必ず君を、君であると証明してくれる。何かに迷っているならここで考えなさい。答えが出るまで、私が守る。」
”復讐する”目の前の人は僕が復讐を決意したときなんと言うのだろう。生死に揺れるその奥でまだ揺れているこの復讐は、僕が生きる理由であり、死にたい理由でもある。
「‥‥答えが出ないから僕は逃げた。どんなに学校で成績が良くても、どんなに勉強ができても今まで答えが出なかった。‥‥もう‥苦しみたくないんです!‥忘れるために僕は平穏を求めた。‥‥それでいいじゃないですか!穏やかな生活が忘れさせてくれると思った‥僕には‥逃げるしかできなかった」
「悩み、考え、戦い続けなければ答えは出ない。今‥‥一歩を踏み出さなければ本当に何もできなくなる。若者が戦うことができる環境を用意する義務が、私にはある。『一緒に』とは言わない、ただここでなら君を守ってくれる人がいる、そう思って欲しい」
「‥‥少し一人になりたいです」
僕には意地を張り、反発することしかできなかった。知らない場所で知らないお爺さんの説教をくらった、それだけでも今の僕の頭のキャパは一杯だった。一瞬の沈黙の後、奥から鋳箱さんがお盆を持って出てきた。
「流影さん、急なことなのに私達に付き合ってもらってすみません。一度先ほどの部屋に戻りましょう。付いてきてください」
「‥‥はい」
部屋を出る際に小さくお辞儀をして、先を行く鋳箱さんの後を追った。
僕たちはさっき通った道をまた歩き、『流影』と書かれた表札が貼られた扉の前に来た。
「流影さん、本体が完治したら呼びにくるのでそれまでここでゆっくりしてください。一応ここは流影さんの個室ですので。ただ、あと三時間くらいはかかってしまいます。すみません」
「‥‥‥いえ、‥僕もすみませんでした」
中に入り、机の上にお茶を置いて鋳箱さんは足早に部屋を出て行った。ガチャンと扉を閉まる音が妙にゆっくりと感じた。
(‥何やってんだ)
人前で声を荒げたことだけでなく、単純に今の状況が分からなかったからこそ思ったことだ。とりあえずベットに入って昨日の夜のことを思い出し現状理解に努めよう。そう思っていたが..
Zzzzz…
コンコンと優しく扉を叩く音で目を覚ました。一瞬、ここはどこだと思ったがすぐに思い出し、二回目のノックで返事をした。
「はい」
「流影さん本体が完治したので連絡しに来ました」
ドアの向こうでは鋳箱さんの声が聞こえた。
「準備ができましたら、リビングに来てください。換装を解いた後家まで車で送ります」
「分かりました」
そう答えた僕はもう覚悟を決めていた。
起き上がり、自分の部屋をあとにしリビングまで歩いた。正直最初に歩いたときよりも緊張していたかもしれない。一度深呼吸をして扉を開けた。
「流影君、換装を解くからついて
立ち上がって向かってくる葉蘇さんを止めるように僕は立ち塞がった。
「‥もし、‥‥あんな怪物たちと戦っていくとしたら見返りがないと、なんていうかやる意味がないような‥」
「やる気になってくれたんだね。もちろん、戦いの報酬はちゃーんと用意しているよ」
僕が部屋に入って一瞬ピリついていた空気も一転して、心をなで下ろすような音が聞こえた。
「詳しく話すから座って」
僕はさっきと同じ椅子に座ったが、心構えは全く違う。
○○○○○
中学三年の冬、高校受験を受けれるような精神状態では無かった。家を失い、家族を失い名実ともに空っぽとなった僕は、ある老夫婦に保護という形で住まわせてもらうこととなった。警察やよく分からない人達から何度も言われたのは、君は命を狙われている、ということ。詳しい説明はされず、質問をしても老夫婦に預けられることや今後の学生生活のことの説明をしてきてはぐらかされた。最悪の現実が処理できないまま身の回りが変わっていき、自然と僕は引きこもるようになっていった。約半年間過ごしたが、二人とは業務連絡程度しか話さなかった。受験に関する書類のことや三者面談など学校関連やお小遣い。周辺地域のこと、二人の過去の話など普通の会話もしたことはある。二人のことが決して嫌いなわけでは無い、僕を引き取ってご飯や寝床を用意してくれただけでも感謝している。ただ、あの時の僕は心を開けなかった、自分が壊れないように殻にこもり丸くなることしかできなかった。
○○○○○
戦うチャンスがあるなら僕には掴む権利があるだろう。復讐なんてあまい、もっともっと残酷に、放火魔の大切なものを片っ端から壊してからが本番だ。絶対に許さない。
「正隊員になれば固定給だけど、うちはまだ支部だから討伐数で給料が出るようになっている。部隊昇格を通れば皆も正隊員になれるんだけどねぇ。ちなみに、僕は支部長だから一部だけ固定給になってるんだ」
「僕たちはアルバイトのような感じというわけですか?」
「そういった方が分かりやすいね。他に何かあるかい?」
「‥‥‥戦闘体について教えてもらえませんか?」
「オーケーだ、JSAOの支部ごとに管理している、コイド化生命体と戦うために作られたスーツのようなものだと思ってもらいたい。戦闘体になるにはこのように専用のスマホを使うんだ。そうすると本体は支部の地下にある個人カプセルに移送される。だからこの体で戦っている以上は本質的に死ぬことはない。少数精鋭で戦っていけるのもこのシステムのおかげというわけだ」
「なるほど、便利ですね。‥‥あと一つ。」
「うん、何かな?」
「なぜ皆さんは僕の名前を知っていたのですか。確かにJSAOという存在やコイドのことについても真実に近い情報を持っていることから、市民の情報にもすぐにアクセス出来ると思いますが‥‥。なぜかしっくりこないんです。すみません、上手く説明できなくて‥」
「そうだね、本当は言うつもりはなかったけど、勘のいい人に下手に嘘をつくのもこれからの信頼に関わるかな。本当のことを言おう。この支部が設立されたときからここに配属する人間はJSAO本部によって決められているんだ。ここにいる全員が最初からここで生きていく運命だということだ。君なら最後まで言わなくても分かるよね。この面子だとまるで‥家族みたいじゃないか‥。だからどっちにしろどこかで君を勧誘していたし、君はここにいた方が良いというわけだ。」
「そういうことだったんですね。腑に落ちました。‥‥分かりました、JSAO山梨第八支部に入ります。ってこんなあっさりでいいんですか?」
立ち上がって深々と頭を下げた僕は少し後悔した。もう少し渋っても良かったんじゃないか。でも僕はただ嬉しかった。自分が必要とされたことが、偽りでもまやかしでもいい、たわいのない会話の出来る家族のような存在ができることに。
「じゃあさっそく戦闘検査にいこうか、っとその前に、ちゃんと全員の自己紹介をしよう。優希と清香と雅隆は大丈夫だね。じゃあ勇斗」
「僕は緒賀勇斗、ガンナーだよ。それより流影君、着てもらいたい服があるから、後で僕の部屋においでよぉ」
「流影さん、絶対に緒賀さんについて行ってはダメですよ。何されるか分かりませんので、それより喉は渇いていませんか?是非どうぞ。私は三露華凜です。高校三年ですので一つ下ですね。私もガンナーです。これからよろしくお願いします」
握手をした僕たちのすぐ横では緒賀さんが食べるんじゃないかってくらい凝視していた。
「流影くん」
座っていたお爺さまが立ち上がって、僕の前まで来て口を開いた。
「私は唯越宗玄。先ほどは説教のようなことを言ってしまい申し訳ない。迷い、考え続けなさい、答えが出るまで私が守る。これからよろしく。」
差し伸べられた手を握るともう片方で僕の手を包みこんだ。長い歴史を感じるその両手はしっかりと暖かかった。
「あと一人葵が残ってるけど、今大学で授業受けてるらしいから後でかな。今二年だから御影君の一つ上の先輩だね。見た目は幼いけど。まぁまぁあんまり言うと怒られるから、ちゃちゃっと戦闘検査終わらせようか」
葉蘇さんはそういって僕を地下の部屋に案内した。
地下室には、近未来で精巧な機械がたくさん置いてあって、左の部屋には人一人だけが入れそうなカプセルが並んでいた。右手にはでっかいモニターが五枚くらいあったり、あれは‥武器なのかな、穏やかじゃなさそうだ。
「さぁ流影君ここに入ってくれ。今から戦闘検査を始める。仮想空間で色んな武器で敵と戦ってもらう。武器や敵の変更はこちらで行うから、君は目の前の敵を倒すことに全力で挑んで欲しい。もちろん現実のものと同じように攻撃してくるけど、痛みは全くないように設定してあるから。あ、でも風圧とかは感じると思う。何かこっちに指示があったら耳に付いてるインカムを使って。と言うわけでいってみよう!」
言われるがままなされるがまま僕はカプセルに入り、仮想空間へと送り出された。目を開けると無機質な実験室のような場所に立っていた。直後、部屋全体から葉蘇さんの声が聞こえた。
「流影君、無事に転送できたようだね。少し体を動かしてくれ、違和感があったり気分が悪かったりしたらバッテンをつくって教えて。このままいけそうならマルをつくって」
僕は歩いて走ってジャンプして、特に変なところが無いことを確認してマルのサインを出した。
「オーケーありがとう。‥では始めよう。まずはクロスレンジ、近接武器から。これはBロックと呼ばれる武器で、ボクサーグローブやナックルダスターのような格闘系武器だ。JSAOでは棘のついたメリケンサック状のものが一般的だからそれを使ってもらう。君が昨夜見たものはタイラントと呼ばれるコイド化生命体だ。昨夜の恨みを晴らすぐらい豪快に倒してやってくれ。それでは‥‥開始!!」
葉蘇さんの合図と共に僕の手にはBロックが現れて、目の前には昨夜を思い出させる怪物が出現した。一瞬の静寂の後、タイラントは僕に向かって突っ込んできた。昨夜の老夫婦よりも動きが機敏で思ったよりも考える時間を与えてもらえない。集中して見ないと避けられない。攻撃の隙に殴ってもなかなかダメージを与えている感触はなく、攻撃は受けないものの攻撃が出来ずに膠着状態が続いた。僕はインカムに手をあて武器の変更をお願いした。
「葉蘇さんすみません、この武器は苦手です。というより近接戦闘は嫌いです。銃や刀とかはありますか?」
「そのようだね僕も声をかけようかと思っていたところだったよ。じゃあミドルレンジにいっちゃおうか。それとも今用意できるものを先に全部紹介しようか?」
「はい、先に全部見たいです。わがままいってすみません」
「とんでもない、気にしないで。じゃあ近接武器の二つ目、Kブーツ。任意のタイミングで高出力短時間のブースト、低出力長時間のアクセルを使い分けられる。試しにどうぞ」
これまたかっこいいブーツを履かせてもらえた。ブーツ自体久しく履いていなかったから単純に嬉しい。ちゃんと性能もみないと
「アクセル!」
そう口にするとかかと部分から大きなエネルギーが噴出したようで、急なことで対処できず身体が仰け反るような形で前に進んだ。立ったまま固まっていたタイラントに直撃した。
「痛‥‥くない、いやびっくりしたけど!」
(この威力で低出力と言われているなら、ブーストなんて使ったらえらいことになりそうだ。)
「次に刀剣武器を3種類、まずは萌牙。ナイフにちかい武器だ。」
(手に持った感じでは包丁にちかいな。コンパクトなのは好みだけど、武器らしさに欠けるような気がする。まぁ使い方によると思うけど)
「2つ目は花爪。片手剣や短剣の類いだね。一番使いやすい武器だと思うよ」
(うん、まさに武器って感じだ。両手剣にしたり、別の武器を反対の手に持ったり、動きやすそうでいいな)
「最期に樹角。大剣や両手剣の類いだ。取り扱いが難しいから、JSAOの中でも使っている人は多くないと思う。」
(確かに難しい武器だ。破壊力は前の二つに比べて段違いに大きいはずだが、僕には重すぎる。)
この後銃型武器を触らせてもらった。ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフルと様々な名前の銃を撃たせてもらい、日本にいることを忘れそうになった。
「さぁ流影君。一通りJSAOの基本的な武器を試してもらったけど、自分に合ったものはあるかい?君はもう普通に戦えるように見えるから、数体のタイラントを相手に連戦してもらおうかな。どうだい?」
「そうですねぇ‥‥左手に花爪、右手にスパロー(ハンドガン)ってのは可能ですか?」
「もちろんだ。面白い組み合わせだね。実践に移るけど何か要望とかあるかな?」
「えっと‥じゃあ、僕が右腕を上げたら装備を樹角とKブーツに変えていただけますか。」
「ほぉう、何かやりたいことがあるんだね。分かったそうしよう。‥じゃあいくよ。頑張って」
葉蘇さんからの通話が切れた直後、頼んだ通り左右の手には武器が現れ、目の前には三体のタイラントが出現した。
僕は握った武器を一度見て、前を向きなおした。合法で銃と刀を持ち、自らの意思で目の前のものを壊そうとしている。こんなことでしか口角が上がらなくなってしまったのは、名も知らぬクソ放火魔のせいだ。