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婚約者の弟はちょっと甘すぎスイーツ王子

幼馴染の副団長は ちょっと乱暴 猪突猛進

作者: 瀬嵐しるん

『婚約者の弟はちょっと甘すぎスイーツ王子』に登場した第三王子と騎士団副団長ジャンヌのその後。それぞれ、独立したお話としてお読みいただけます。

「私が、ですか?」

「お前が一番暇だからな。しっかりもてなしてくれ」

王太子である兄の第二王子に言い渡された。


来月、我が国を親善訪問する東の国の皇女の案内役を頼まれた。

あまり気が進まない。

なぜなら、皇女は独身。第三王子である私も独身。

王族が案内の先頭に立つ、ということは当然、見合いの意味を含む。

まだ少女といえる皇女。

年の差があるので大丈夫だとは思うが、万一ということもある。

どちらかというと女性に好かれる外見の私だ。


王宮の廊下を歩いていると、見知った顔が近づいてきた。

騎士団副団長のジャンヌだ。

「よっ! 不景気な顔してるじゃないか?」

「お前、侯爵令嬢のくせに、その言葉遣いはなんだ?」

「幼馴染だろう、許せ。そんなことより、この前の見合いの話を聞け!」

「また、果敢な挑戦者が現れたのか?」

「果敢なものか! ただの卑怯者だ」


ジャンヌは侯爵家の一人娘。

女侯爵になることもできるし、婿を迎えて侯爵に据えてもいい。

万一の時は、親戚筋から養子として迎え入れる男子の目星もついている。


だが、まあ悪い言い方だが貴族の女性としては適齢期をやや過ぎた。

騎士団の仕事に打ち込み過ぎているせいでもある。

そこで、ろくでもない奴が申し込んでくる見合い話がけっこうあるらしい。


行き遅れの年増女を適当にあしらって、侯爵家を利用しようとするやつらがいるのだ。


「見合いの席で、絶対に私が縁談を受けると思い込んでいるんだ」

「ふざけてるな」

「そうだろう! 話にならないから、剣勝負で一本取ったら受けてもいいと言ってやった」


ジャンヌは女性ながら、騎士団屈指の剣の使い手だ。


「相手は諦めたか?」

「いや、そんなこともあろうかと予め準備していたらしい。

流れ者の剣士を5人も雇っていた」

「確かに卑怯だ」

「まあ、私も本人と勝負するとは限定しなかったし、面白そうだったから、そのまま戦うことにした」


結局、レストランの中庭で勝負し、あっという間に勝ったらしい。

鎖鎌遣いが一人いて、レストラン自慢の植木を傷つけてしまったのだそうだ。

全員が伸びていたのでジャンヌが代わりに謝ると、支配人は

『ジャンヌ様がならず者を倒した記念樹として保存いたします!』

と感涙したという。


ならず者の親玉と認定された某伯爵は庭木の弁償として、かなりな額を請求された上、出入り禁止になった。


「もう少し、手ごたえがあればなあ」

「危ない真似は止めておけ」

「心配してくれてありがとう、パトリック」と笑った顔は優し気で、化粧っ気のかけらもないのに綺麗だった。



幸いにしてジャンヌの(相手にとって)危険な見合いが再び持ち込まれないうちに、皇女が訪問してくる日がやってきた。


ミウラン皇女殿下は小柄で可憐な美少女だった。

この国では珍しい黒髪と民族衣装がエキゾチックな魅力を醸し出している。


だが私から「案内役を務めさせていただきますので、よろしくお願いします」

と挨拶しても、どことなく上の空だ。


彼女の視線を追ってみれば、私の弟である公爵のエミールにたどり着く。

これは、どうも早々に振られたらしい。

王家の籍から抜けている彼を、その場では紹介しなかった。



その日のディナーで改めてエミールを紹介した。

隣にいるグレースを彼の妻です、と言えば皇女は目に見えて落胆している。

けしてモテたいわけではなかったが、少しだけ複雑な気持ちだった。


翌日からは2日間の日程で、我が国の観光名所を中心に案内した。

予備日としていた1日は、皇女の希望でドレスメーカーを訪れた。

ドレスに関しては全くの門外漢なので、家政の神様エミールの出番だ。


皇女は切り替えが早く、エミールと彼が伴ったグレース共々、楽し気にドレスについて語らっていた。

そこで何着か注文されたドレスは、後日、東の国へ送られるだろう。


日程を終え、帰国するための馬車に乗り込むときには、皇女からたいへん丁寧なお礼の言葉を受けた。

来た時に比べてずいぶんと、私の扱いが良くなったと思った。

しかし直後、全日程の警護を仕切ったジャンヌには、更に心のこもった言葉がかけられた。

わかりやすく、はっきりした態度だけは好もしいと思えなくもない。

いや、けして悔しくはない。


夕方、ジャンヌに声をかけられた。

警護の打ち上げに参加しないか、と。


会場は街の酒場だが、今夜は騎士団の貸し切り。

酒場の親父は自警団の顔役だし、詰所もすぐそこだ。

護衛は断って、騎士団の連中と出かけた。


城では食べられない下町の味が、安酒に合って最高だ。

安い、といっても酒もつまみも、使える材料をとことん工夫して作られたものだ。

安いものには安いもののいいところがある。


「残念だったな」

ジャンヌに話しかけられた。

「なんのことだ?」

「ミウラン皇女様だ。お可愛らしい方だった」

「そうだな」

たしかに可愛らしかった、と思う。

「まさか、お前が振られるとはな」

「あ?」

「結構本気の、見合いだったんじゃないのか?」


ジャンヌは勘違いしている。

そりゃ、私は未だに婚約者がいないが、別に崖っぷちというほどではない。

外務大臣あたりの意向は知らない。

だが、少なくとも本人は何も気にしてない。


「飲もう、ほら、パトリック、飲め飲め!」

「いや、お前、悪い飲み方してるぞ。ジャンヌ?」

反応が鈍い。

こんなに酒に弱いやつだったか?

眉間にシワを寄せて、気分の悪そうな顔をしている。

少し休ませたほうがよさそうだ。


「親父、寝かせる場所、借りられるか?」

「ああ、殿下、2階使ってくださいよ」

追加のつまみを持ってきた店主に、確認をとった。


ジャンヌを抱き上げると、周りからどよめきが起こる。

「殿下、意外と力持ちですね」

「副団長、筋肉質で見た目より重いだろうに…」

いや、さすがに女性だ。

思ったより軽いくらいだった。


団員の一人が一緒に階段を上り、扉を開けてくれた。

上着と靴を脱がせ、ベッドに横たえた。

女将さんが水と濡れタオルを持ってきてくれる。

濡れタオルを顔に当ててやると、少し楽になったのか表情が緩む。



初めてジャンヌと会ったのは、本当に幼いころ。

私と同じくらいの年頃の貴族令息が集められ、側近を選考している時だった。

私も交えて、全員で剣の使い方を習っていたのだが、飛びぬけて強いやつがいた。

それがジャンヌだ。

さっぱりとした気性で行動が早く、一緒に遊んでいても楽しい。

一番気の合うやつだと思ったが、女の子であることは知らなかった。

当然、最終選考に彼女は残らず、不審に思った私が確かめて真相を知った。


その時の、剣の師匠が彼女の父親だった。

それで、何気ない顔で男の子に混じって遊んでいたのだ。

キツネにつままれた顔の私に、ジャンヌはペロッと舌を出して見せた。


それからも騎士団の予備訓練に参加するようになったジャンヌを、王宮内でよく見かけた。


大人になってからは警護対象と騎士としても、よく顔を合わせる。

だが、時間があれば幼馴染として、悪友、親友として馬鹿話をする仲だ。


今回の皇女との見合いの話に乗り気になれなかったのは、ジャンヌのせいだ。

いつも側にいてくれるなら、こういう飾り気のない女性がいい。

だが、今までの関係を壊すのが怖くて、つい言い淀んでしまう。

彼女も何かを察して、はぐらかすような行動に出ることもあった。

行動が素早い彼女を捕まえるのは、とんでもなく難しい。


「う~ん?」

「気分はどうだ?」

「ん? ここは?」

「酒場の2階だ。悪酔いしたようだから運んだ」

「…パトリックが?」

「ああ」

「重かっただろう…」

「いや、意外と軽いな」

「…ありがとう。傷心のお前に気を遣わせて済まない」

「…傷心ってなんだ? なんか誤解してないか?」

「お似合いだったじゃないか。ミウラン皇女殿下と。

3日間警護していて、絵になる二人だと感心していた」


「何を言っている? ミウラン皇女の好みはエミールだ。

会った直後に振られたぞ」

「では、傷心をかかえて、その後の日程をこなしていたのか!

すごいな」


なんだか変だ。こんなに思い込みの激しいやつではなかったはず。


「ミウラン皇女との見合いについて、誰かに何か言われたか?」

「ああ、王太子殿下が、パトリックが今度の見合いに懸けているから、しっかり見守ってやってくれと」


王太子になった兄上は、そもそも第二王子。

第一王子の失態で王太子位についたが、当然のようにストレスを抱えている。

弟の私で、ストレス解消を図ったな…


「誤解だ。兄上のいたずらだ」

「しかし」

ジャンヌは納得しない。

ん? 今、チャンスじゃないか? ジャンヌが弱っている。

すぐに逃げてはいかないだろう。


男らしさの欠片もない思考をして、私は切り出した。

「そもそも、結婚するならジャンヌのような女性がいいんだ」

「…は?」

「この先、王家に残るにしろ公爵になるにしろ、国のために働かねばならん。

王太子になった兄上ほどではなくても、難題もストレスも避けて通れん」

「そうだな」

「なら、一緒にいるのは、小突きあって、励ましあって、何かあっても一緒に笑い飛ばせる女性がいい」

「…」

「ジャンヌ、お前はどうだ? 私との結婚は考えられないか?」

「私は剣の腕ぐらいしか、取り柄が無いんだ」

「あるだけマシだろう。私には取り柄などない」


「な、なにを言ってる?

お前は一緒にいて最高に気持ちいいやつだ。

一生付き合いたい」

「それが答えでいいか?」

「!?」


たぶん、経験したことのない状況に、どうしていいかわからないのだろう。

困っている顔が、最高に可愛い。

「キスしていいか?」

「え??」

最初で最後のチャンスかもしれない。

私はジャンヌに顔を寄せた。


その時、部屋の扉が開けられる。

「副団長~! お加減どうで… え? わ、わッ!!」

様子を覗いた若い騎士が、驚愕に満ちた表情をしたかと思うと、階段を駆け下りていった。


「ふ、副団長が第三王子殿下を襲ってるー!!」

階下から叫び声がした。


「な!!」

「ひどい誤解だな。何を見てるんだ? 襲ってるのは私のほうだろう」

「お?」


私はジャンヌの頬にキスをした。

彼女はすっかりのぼせて真っ赤だ。

「まだ調子が悪そうだ。もう少し寝ていろ」

きっと頭の中は真っ白だろう。

大人しく従っている。


大騒ぎしている階下に戻るのも面倒なので、扉を閉め、椅子に座りなおした。

次に気付いたら夜が白み始めていた。

椅子に座ったまま寝るとは、我ながら案外器用だ。

だが身体が固まってしまう。伸びをした。


「パトリック?」

「起きたか?」

「ずっと一緒にいてくれたのか?」

「まあ、下に降りそびれて寝てしまっただけだ」

「そうか…だが、結婚前の男女が密室で一晩はまずいよな」

「まあ、そうかもしれんな」

「責任取って結婚…かな?」

「待て、ジャンヌ。責任取るなら私のほうだろう?」

「そういうものか?」

「そういうものだ」

なんだろう、この可愛いポンコツ令嬢は。


「パトリック、その…よろしく頼む」

「こちらこそ、よろしく、ジャンヌ」

額にキスでもすれば甘い雰囲気になれたのかもしれないが、

ジャンヌが右手を差し出してきたので、なぜか固い握手を交わした。


その後、ベッドから起きだしたジャンヌは身支度を整え、ストレッチを始めた。

すっかり元気になって、階段を降りていく。


今回のことは、兄上とミウラン皇女に感謝すべきだろう。

あくまでも心の中で、だが。


そんなことを考えていたら、階下から若い騎士の悲鳴が聞こえてきた。

昨夜の、襲ってる発言をちゃんと覚えていたらしい。


次回はちゃんと、見間違えられないように襲おう。

私は男らしいんだか、らしくないんだかわからない決心をした。




このお話の続き『働き者の第三王子はゴールインして安心したい』を投稿しました。併せてお読みいただけると幸いです。

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[一言] やるな、王子!! いざという時踏み込めるの、すごいですね。
[一言] ジャンヌの相手はパトリックしかおりませんわー!(笑)
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