魔王城(仮)
魔王がいるところを案内された俺だが……
「……マジかよ。」
「マジです。」
連れてこられた場所は、はっきり言ってボロ屋だった。
木材を適当に組み立てて、そこに屋根をかぶせた程度の出来で、住めないことは、ないと思うが……
「魔王様ー! ただいま帰りましたよ……ってきゃあああ!!」
「どうした!?」
ソフィアが悲鳴をあげたので、小屋の中を覗いてみると、赤髪の女の子がぐったりと倒れていた。
「魔王様! お気を確かに!」
「うぅ……ソフィアか……我はもうダメじゃ……」
「魔王様ー! 私を一人にしないでくださーい! それにあなたを死なせてしまったらあの世で先代魔王様と合わせる顔がありませんよーー!!」
「ふっ……我もここまでか……ソフィア、お前と会えて、楽しかった……」
「魔王様ーーーー!!!!」
…………ナニコレ
え? 魔王死ぬの? 話してすらもいない魔王死ぬの? てかあのガキが魔王かよ。
悲しいムードの中
『ぐぅ〜〜』
急に誰かの腹の虫が泣いた。
かなりでかい音量で……
「……お前ら腹……減ってるのか?」
「はい。 ここ数ヶ月ロクな物食べてなかったので。」
「なんだ、そんなことなら早く言えよ。ビビらせやがって」
「食いもんがあるのか!?」
先程まで謎の茶番をしていた赤髪の女の子が
復活して、俺をキラキラした瞳で見つめる
「ああ、えーと確か……」
俺は腰にあったポーチを手に取って、その中に手を入れた。
このポーチは見た目は小さいが、ストックが満タンになるまで、入れられるという魔法の ポーチだ。
幸い前世から持ち物は引き継がれていたので、腰にあったポーチもそのままだ
確か非常用の食料があったはず……
「あったあった。」
俺がポーチの中にしまっていた非常用のコッペパンを取り出すと
「「グギャアアアアーーー!!!」」
「ふんぎゃ!」
突如として、豹変したソフィアと赤髪の子が そのコッペパンを見たと同時に襲いかかってきた。
「クイモノ……クイモノ……」
「ヨコセ……クイモノ……」
「分かった! 分かったから離れろ!!」
俺はのしかかっていた二人に正義のげんこつをお見舞いした。
それで、正気が戻ったのか二人共頭に実ったたんこぶを抑える
「いきなり殴るなんて酷いのだ!」
「こっちのセリフじゃあ! いきなり襲いかかりやがって! 普段何食ってんだよ!」
すると、赤髪の子が指を数えだして
「えーと、昨日はオガクズで、一昨日はスケルトン達の骨を使っただし汁を飲んで――」
「いや、もういい。もういいんだ、俺が悪かったからそれ以上はやめてくれ。」
こいつらの過酷すぎる食環境を知って、俺は心底同情する。
そして、俺はテーブルクロスの上に次々とポーチから食料を置いていった。
「うおおおおおお! 食い物がたくさん出てきたのだ!」
「食べてもいいんですか!?」
「ああ、この際気の済むまで食ってくれ。
そのほうが俺も救われる。」
そう言うと、二人共バクバクと食い始めた。
赤髪の子は、リスみたいに食べ物を頬張っておりソフィアなんかポロポロと涙を流しながら食べていた。
うん……なんか……いやなんでもないです。
そして、あっという間に出してあった食料を
食べてしまった。
まぁ本人達も満足のことだし別にいいか。
◇
「あ〜、食った食ったのだー!」
少し膨れた腹をポンポンと叩きながら声を上げる赤髪の子。
ソフィアも満足そうな顔をしていて、何よりである。
「おっ、そういえば自己紹介がまだだったのだ」
赤髪の子がそう言うと、立ち上がり
『我が名はスカーレット! この世界の魔王である!』
と、なんかの決めポーズをしながら叫んだ。
魔王城の最深部の玉座でやれば、締まるのだが、ここは木でできたボロ屋。
イマイチ格好がつかないのが現実である。
ソフィアも苦笑しながらパチパチと拍手してる時点で虚しいと思わされる。
そんな俺達の憐れみの視線に気づいたのかスカーレットは、顔を赤くしながら
「そ、そんな目で見るな! 我だって好きでこんなところで、してる訳じゃないんだからな! なのだ。」
ギャーギャー騒いでいるスカーレットをよそに、俺も自己紹介を始める。
「俺はガルディア。この腐れきった魔界を変えるためにやってきた異世界の魔王だ。」
何気なく言ってみた。
深い意味もないし、すべて事実だし……
案の定スカーレットは口を開けたままポカンとしている。
うん、まぁいきなり言われても信じられないのが当然か、そこはぼちぼち信頼を取り戻す――
「異世界の魔王だと!? すごい! すごいのだ! ソフィアもそう思うじゃろ!?」
「はい! 異世界の魔王だなんて滅多にお目にかかりませんからね! あっ、後でサイン貰おうかしら。」
なんだコイツラ
簡単に信じちゃってますやん。
でも、俺としちゃあそのほうが都合が良い
「ようやくこの魔界にも救世主が来たのだ!」
「そうですね! これで、理不尽なクソ強勇者に怯えずに済むんですね!」
二人は、手を組み合ってダンスをしている。
浮かれすぎだろ。
見方を変えれば、魔王とアンデッドの王であるノーライフキングが一緒にダンスをしているというちょっとした珍光景になっていた。