スライムと魔王
『スライム』
それは誰しも知っている雑魚モンスター
弱い個体だと子供でも倒せるレベルである。
『……♪』
スライムはそこらへんをポヨンポヨンしながらこちらの様子を伺っている
別に倒してしまっても構わないのだが、スライムは駆け出し冒険者の貴重な経験値なので
闇雲に狩ってはいけない
俺は無視して、薬草採取に戻ったのだが……
『ポヨン』
……なんだこいつ
スライムは俺の周りをポヨンポヨン跳ねている。
するとスライムは、跳ねるのを止めて、近くにあった雑草にのしかかり、雑草を覆うように取り込んで、そのまま雑草は溶けてしまった。
「……こいつなんでも食うのかな?」
俺は近くにあった小石をスライムの側に投げた。
するとスライムは匂いを嗅ぐように小石を見つめた。鼻ないのに
そして、そのまま小石を取り込んで消化した
調子に乗った俺は、その他にも小石や葉っぱ
ましてや薬草までもスライムに与えた。
それに応えるように、スライムも次々と消化していった。
「……なんか面白いな」
このスライムに情が芽生えた俺は、触って見たくなってしまった。
プニプニしてそうだし。
俺は薬草採取そっちのけで、スライムに触るべく近くに寄り手を伸ばした。
『……ぺっ』
スライムは自身の一部分を、まるで唾でも吐くかのように俺の顔面に飛ばした。
べチョリと俺の顔一面にゲル状の物が垂れる
だが聖母のように優しい俺は怒らない。
こいつなりの愛情表現なのだろう。
……ん? 熱いな、なんだろ……って!!
「あっつ!! なんだこれ!」
スライムが飛ばしたゲル状の物が『じゅわり』と音をたてた後、俺の顔を焼くように
熱くなった。
俺はすぐに顔についていた物を剥がした
すげぇヒリヒリする。
普通の人は『いきなり何すんだコノヤロー』
とか『恩を仇で返しやがってー!』とか叫ぶことだが俺は違う。
「こ……この俺が……雑魚スライム如きに……ダメージを……貰った?」
その時、俺の頭は真っ白になった
大げさだと思うが、俺は魔王だ。
魔王が雑魚モンスターに出し抜かれるなどあってはならないことだ……
「……ふっ、なるほど」
そうか……そういうことか……なんでこんな初歩的なことに気づかなかったのだろう
通常魔王である俺がスライム|《雑魚モンスター》如きに俺がダメージを喰らうわけない
そう……こいつは『転生スライム』だ!
そうだ……こいつは神々から能力を貰った
転生者なのだろう!
そうだ! そうに決まってる!
俺は間違っていない! 間違ってるとすれば世界の方だ!
どうせこいつも頭の中では
『転生したらスラ○ムだった件ww』とか思ってるに違いない
なぁに、この俺が苦しまぬように一瞬であの世に逝かせてやる。
この転生スライムは俺のプライドをズタズタにしやがった。
動機はそれで十分だ。
俺は両手に魔力を込める
「ふふふ……くたばれクソスライム! 死ねやあああ――」
「ちょちょちょ、ストーーップ! 何やってるんですかガルディアさん!」
するとソフィアが俺とスライムの間に、割って入る
「どけ! 今俺がこの悪質な転生スライムを葬り去ってやる!」
「何言ってるんですか? どう見たってスライムでしょう」
「違う! こいつは魔王であるこの俺にダメージを与えやがった! だから特別な力を持った転生者だ!」
「スライムという強敵が相手だったら喰らっちゃう時だってありますよ! それに森を消し炭にされては、私達もひとたまりもありませんよ!」
「なにおう……お前今なんて言った?」
「え? ……森を消し炭にされては?」
「いや、もっと前」
「……スライムという強敵が相手――」
「そこだ! ……スライムが強敵だと? お前は何言ってるんだ」
ソフィアは首を傾げて
「ガルディアさんこそ何言ってるんですか。スライムは物理攻撃がほとんど効きませんし、魔法の耐性も高いんですよ。中堅冒険者が束になってようやく勝てるぐらいで……」
……なん……だと? スライムが雑魚じゃない……だと?
そして、スライムら森の奥へと戻っていった
◇
ああ、俺はなにをやっているんだ
薬草採取のクエストをやっているようじゃ
全然ダメだ
あーあ、ちょうど近くにどこかの王女様が殺されてない程度で、モンスターに襲われててくれればどれほど楽か……まぁそんな都合の良い事起きるわけねえか。
薬草を取っていると、スカーレットがこちらに駆け足で寄ってきた。
「なあガルディアよ」
「ん? なんだ? また毒キノコでも見つけたのか?」
「違うのだ。なんか奥の方で洞窟を見つけたのだ。しかも魔力がビンビン伝わってくるのだ」
「……なんだと?」
俺はスカーレットにその洞窟に案内してもらった。
そして、着いた先にはその名の通り洞窟があった。
しかもただの洞窟ではなく、スカーレットの言った通り魔力がここから放たれている
「ガルディアよ。これはなんなのだ?」
「これは……間違いねえ」
「“ダンジョン”だ」