03最強で最高の相棒
暗い穴を落ちて行った後、徐々に体の感覚が戻って来た。
小鳥のさえずり、柔らかいベッドの感覚。
どうやら夢では無かったらしい…
体を起こして外を見ると、夕日が城壁と、その中の都市を赤々と照らしているのが見える。
日本では絶対に見えない景色だった。
「ここは…」
「ここは私室だよ、風月さん」
声がする方向を見るとそこには彼が居た。
勇者に選ばれたあの中で最強の存在。
「城崎和也…」
「前は和也君って呼んでくれてたのに…」
小さな声で呟くと彼は少し悲しそうにそう言う。
別に和也君に恨みがある訳ではないが、レベル上限の差があるのだ。
才能の差、私は1なのに150も和也君にはある。
正直、嫉妬してしまう。
『私が居るんだぞ?
たかがその程度覆せるさ』
エルの声がする、よかった。
もしエルが夢だったとしたら…
「んむ…」
立ち上がろうとするが、腕が動かない。
面白い動きでもしてたのか彼はそれを見て笑った。
「何笑ってんのさ」
「あー…ごめんね?」
私は少し急かして和也を部屋から追い出した。
『あいつが来ていたのもあったから起こしたんだがな』
「起こさなくてよかったんだけどね。
そのまま寝させてくれたらよかったのに」
『なら、少し面白い物を見せてやろう。神眼』
溜息を付きながらそう言うと、エルが指を鳴らして言った。
『風月十花・1/100・女・適合者
攻撃2・防御1・俊敏3・魔法5
スキル・魔力操作Lv1.混乱耐性Lv3.恐怖耐性Lv7.終末完全無効.
権能・先導者.転生者.ラプラス.神眼.運命繋ぐは赤い糸.悪魔召喚Lv1.魔の渇望Lv1.魔界Lv0
封印・指導者Lv100.監督者Lv100.先導者Lv100.創設者Lv100.断罪.代行者.短剣神Lv10.メイドLv10.火炎魔術Lv10.雷鳴魔導Lv10.解析Lv10.断罪Lv10.魔力回復Lv10.黒影Lv10.吸血Lv10.操血Lv10.暴風魔術Lv10.竜翼Lv10.操影Lv10.操糸Lv10.
称号・転生者.適合者.吸血妃.』
このステータスは…一体?
技能やスキルが増え、少しステータスが上昇している。
何より、このおびただしい数のスキルは…封印?
『白き王、【解放者】だ』
リベレーター?
白き王?
『私と対を成す力だ、世界は均衡を保つ。
強大な力が顕現すればそれと対を成す物が生成される。
今は子種に過ぎぬが、いつかは世界を変える程の事象を操るようになる。
そんな才能の欠片だ』
なるほど、つまり強いってこと?
『…まぁ、その認識でいいだろう。
悲観する貴様にこれだけは見せておきたかったんだ、今日は寝ておけ』
エルがそう言って指を鳴らすと急に眠くなり、私は眠ってしまった。
そして今日という日は幕を閉じ、また明日に目覚める事となった。
― ― ― ― ―
sideエルディア
ふむ、あいつらの反応はあるな。
南側の近い所に一体、これは…道化師か?
道化師を確保するのを直近の目標としよう。
二人ばかり知らない奴がいた、やつらもどうにかして揃えないと…
我が目的のためにも
― ― ― ― ―
『起きろ、十花』
「あと十分ー…」
エルの声で私は目覚めたが、眠いから二度寝をしようと努力をする。
『それは努力じゃないからな?』
うるさいな…
そう思いながらも目を開けた。
閉まったカーテンから太陽の光が漏れ、その光が私の手に当たる。
今、何時だろう…
学校に行かなきゃ…
『今は五時だ。ほら、行くぞ』
そうベッド脇に立っている白色の少年が言って手を伸ばす。
私はその手を掴もうとし、ベッドから転げ落ちた。
「痛てっ」
『ん…?見えてるのか?私は掴めん、すまなかったな』
絶対わざとでしょ…
どこへ行くの?
そう聞くとエルは答えた。
『あの姫の所か城下町、または中庭だ』
エルがそう言った事を私は思案する。
城下町に私らが勝手に出ていいのか、姫の部屋はどこなのか。
「まぁ、答えは一つだよね」
中庭以外ありえない。
私は部屋を出て、広い廊下を歩く。
「それで、何をするの?」
『中庭で走り込みだ』
エルがそう言って移動の間は雑談を楽しむ事にした。
エルはこの世界の事をどれくらい知ってるんだろう?
聞いてみるとアテにはならんだろうが一応世界のほぼすべてを知っていると言われた。
なんでアテにならないのかと言うと、数えきれない程昔の事だかららしい。
ちなみに体感6000年程前の事だそうだ。
「その時のこの世界ってどんなのだったの?」
『スキルなんて持ってる奴は世界に百人も居なかったし、魔獣なんてのも居なかったはずだ。
人工的なのはいたし、スキルを持ってる奴は相当強かったな』
そのスキルを持ってる人物って誰?
そう聞くとエルはとても声のトーンを落として名を挙げ始めた。
『私、悪魔王エルディアと天使長フォルトゥナ。
千刃のルウ、暴虐のキトラ、大盾のユグドラ、黒死のメフィスト。
大罪の悪魔、ナンバース達、セフィラ達、パペットコープス。
こんな奴等だな…』
どうしてそんなに悲しそうなの?
聞いてはいけないと分かっているけど、聞いてしまった。
『なら聞くなよ…
恋人、親友、敵も居たが皆死なすには、殺すには惜しい奴等だったな』
…なんだか、ちょっと変な気分になる。
少しの間、私達は一言も喋らず中庭へと歩いて行った。
中庭に着き、私はエルに何をすればいいのか尋ねる。
『あぁ、全速力で走れ』
そう言われ、私は走り始めた。
疲れても走り続けさせられて時間が経つ。
そしたら2回、謎の声が聞こえた。
(スキル【瞬発Lv1】を獲得しました)
(スキル【耐久Lv1】を獲得しました)
「はぁ…はぁ…はぁ…」
その後も私は息切れするほど走り続けた。
『走り続けろ、極限状態でスキルはよく獲得出来るようになるからな。
限界に達したら私が止めるんだから安心しろ』
エルがそう言うからずっと走っているのだ。
「十花ちゃん!顔真っ青だよ!大丈夫なの!?」
そう言ってクラスの天使と呼ばれている神原 時雨が話しかけてくる。
大丈夫だと言おうとするが声が出ない…
『天使…ねぇ』
時雨が叫ぶ中、私はまだ走り続けた。
『よし、終わっていいぞ』
その数分後、エルがそう言って私は倒れ込む。
地面に手を付き、呼吸を整える。
苦しくて、深く息を吸えない…
でもおかげで、耐久はLv5に、瞬発はLv3になった。