48 中華風オムライスは天津飯
場所は中央部と呼ばれる領域。
リナの故郷である町に辿り着いた。
追放された身であるため、親の死に際にも会いに行くこと叶わず、姉や親類縁者がどうなっているかは手紙頼りだったらしい。
それもリナの死が伝えられたところまでは想像が付くが、そこから先の6年分はリタの親戚付き合いの範疇となるため、知りようがない。
「リィナママどうしたの?」
「早く行こうよ!」
「お腹空いた…」
「うぅ……」
高い塀に囲まれ、煉瓦造りの家屋の屋根が少し顔を覗かせる。この世界では初めての複数階ある建物が、中央に一際大きな姿を見せていた。
50年振りに見る故郷の姿に圧されたか、歩が進まないリィナを子どもたちが追い立てる。
「このままでは日が暮れてしまいます。少し様子を見るだけではないですか。のんびりし過ぎると、生家に泊まることになるかもしれませんよ?」
「そ、それはいかんのじゃ! とっとと行って、さっさと終わらすのじゃ!」
決意を新たに町の入り口へ進む。
町の塀は煉瓦造りで厚さは5m。入り口は、幅3m、高さ4m程の間口に、落とし格子が塀の前後に備えられていた。
「町には何の用だ?」
「ドワーフの里を目指しておりまして、その中継に2~3日滞在するだけです」
「そうか、コッチはもうすぐ議会の選挙があるからな。変なヤツが投票場に紛れ込まれたら困るから、普段見かけない奴はチェックをしているんだ。気を悪くせんでくれよ」
門では守衛に呼び止められ、入った先の守衛小屋でリーダー格の男に2、3質問された。
「家族かい? 念の為フードを取って顔を見せてくれるか?」
全員旅装で外套を羽織っていたが、リィナ、ミア、シルフィはフードを被ったままだった。
「仕方ありませんね、フードをはずして下さい」
3人がフードをはずす。壁の人相書きと色違いの女と、只人とは異なる耳を持った少女が顔を出す。
「! ──驚いた。獣人の娘か。猫人と熊人か? 売りに来たのか? 好事家は喜ぶぞ。──そっちの嬢ちゃんは普通の娘っ子のようだな」
「こっちはただの日焼け防止です。ソバカスが出来やすいからって気にしているんです。黒髪のは3人とも正真正銘私の娘です。いくら積まれても売ることはあり得ませんよ」
娘たちを庇うように背中に隠す。
「す、すまん。最近はそういう目的で入ってくる奴も多いんだ。──ここだけの話、選挙の立候補者に格安で譲って、当選後の見返りを狙う奴がいるんだ。立候補者もそれを賄賂として有力者に納めていくって寸法だ」
「我々は純粋に旅の中継地として寄っただけですよ」
「そうか、変な目で見て悪かったな。町の中では耳と尻尾は隠した方がいいな。人買いに攫われちまうかもしれねぇ。フードを被っていてもいいが、巻布くらいにしてやってもいいんじゃねぇか?」
「ご忠告ありがとうございます。では、これで町に入っても宜しいですか?」
「いや──、ああいいか。そこの人相書きに特徴が似ているが、なんせ50年も前の話だ。髪の色も白く変わっているだろうし、年の頃も違いすぎてらぁ。行っていいぞ」
壁に貼られた人相書きを示しながら、守衛の男が許可を出した。
「その人たちが何かしたんですか?」
念のために現在の扱いを確認しておく。
「俺も生まれる前の出来事だから詳しくはわかんねぇが、町の南の方に森があるんだが、そこに【火魔法】をぶっ放して消し炭にしちまったらしい」
まだまだ風化していないようだ。正しく伝わっている。
「今となっちゃ森もかつての繁栄を取り戻しているが、暫くは大変だったそうだ。親父世代は食うに困ることも少なくなかったらしい。俺が小さい頃でも焦げた地面を確認できたから、その苦労は推して知るべしってな」
いつもより頭一つ小さくなっていますね。挙動不審もバレない程度にして下さい。
「まぁ、その出来事があったから、この町にバンドウッヅって名前が付いたんだけどな。──破壊からの再生、困難にも立ち向かう象徴として笑い話くらいにはなっているよ」
「では、あの人相書きも剥がしていいのでは?」
「それがな、ラピスラズリって酒場の婆さんが生きている内は剥がすなって言われてんだ。身内から出た恥だから、目の黒い内は一歩も入れんなだとさ」
震えている、震えている。いい加減怪しまれるぞ。
「相当恨まれているようですね。それでは行きます。お勤めご苦労様です」
「おう、特に何があるってわけでもねぇが、楽しんでいってくれ。またな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「リィナママって悪い人だったの?」
フードを被り直したミアが訊ねる。
「うぐ、ワシが悪いわけじゃないんじゃ。一緒にいた奴が飛びっきりに悪い奴じゃったんじゃ。──主に頭の方がな…」
子どもの純真な目から顔を背け、ボソボソと言い訳する。
実際、異世界転移者に巻き込まれた被害者だ。50年の時を経て寿命チートを手に入れた第二の主人公だ。
「フーン、これからリィナママの生まれた家に行くんでしょ? どんなとこかな?」
「「お腹空いた~」」
「いy「この道の先に看板を出している酒場兼宿屋らしいですよ」
「何で知っとるんじゃ?!」
「リタさんから聞きました。渡して欲しいと、手紙も預かってきております」
「ぐぬぬ…」
逃げ道をしっかり潰して連行する。
「いらっしゃい! 5人かい? そっちのテーブルでいいか?」
目的の店に到着し、女性店員の案内でテーブル席に着く。
「注文はどうすんだい?」
「お子様ランチを3つにオムライスを2つ。オムライスの1つはピーマン抜きじゃ。麦酒2つに、果汁を3つ。なければミルクを3つじゃ」
「あと、これを」
リィナがオススメ料理を注文し、リタから預かった手紙を手渡す。
「あいよ。──あんたらリタの縁者かい?」
「ええ。一時期大変お世話になりまして、この町に行くならと預かってきました。オススメメニューもそのときに」
「そうかい。出来上がるまでちょっと掛かるから辛抱してくれよ?」
素面じゃやっていられないと言う嫁を今日だけは大目に見てやり、着いた料理を口に運ぶ。
何の変哲もないオムライスだったが、それが凄い。元の世界で外食するのと同じレベルの料理が異世界で出てくる。
チキンライスの上に載せられたオムレツを切り開く物でもなく、半熟のふわふわ卵が載っているわけでもない。オーソドックスな卵シートでライスを包んだだけ。
ソースもデミグラスやホワイトソースなどではなく、ケチャップでハートが描かれていた。流石に萌え萌えキュンはなかったが。
それでも母親が作ってくれたものとは一線を画した味わい。
ライスがベチャっとしていることもなく、鶏肉がボソボソになっているわけでもない。
学生時代に通った喫茶店の味を思い出し、懐かしさに涙腺が緩む──。
「女将を呼べッ!!」
「え、ちょ、おまッ?!」
「「「パパ??」」」
「どうしたんだい? 母さんは引退して、今はアタイが女将をやらせてもらっているけど、口に合わなかったかい?」
先程の女性店員が駆けつけてきた。リィナは目を白黒させている。
「逆です。非常に美味しい」
「そりゃよかった。わざわざ呼ぶんだから、よっぽどの事かと焦るじゃないか」
「大声を出して申し訳ございません。このオムライス、お米を使っていますね?」
「そりゃライスって言うくらいだからねぇ」
フンと鼻を鳴らしながら、さも当然というように答える。
ところが此方にとっては死活問題だ。米があるではないか。そんな話は聞いていない。手引書の一行目に書くべき内容だ。
「作っている農家を教えていただけませんか?」
「そりゃ構わないけど、訪ねるなら明日にしなよ? この時間じゃ寝ているだろうし」
「勿論です。私も畑仕事をするので、朝と夜の早さは知っています」
翌日、早朝から農家を訪ね、種籾を分けて貰い、育て方のレクチャーを受けた。
この時点をもって、今回の旅はロスタイムを迎えた。
誤字脱字、矛盾点などあれば、ご指摘いただけますと有り難いです。




