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理系人間の異世界見聞録  作者: ふりおきよし
第四章 不定期更新編
145/145

145 首無し騎士

「やはり全滅はさせないおつもりで?」

「ゴブリンや人獣(コボルト)みたいな寄生性単為生殖なら問答無用なんだけどね。雌雄の別があり、遺伝学的個性が認められる。魔核喰いの習性から積極的に狩猟を行う攻撃性の高さがある。この森で半人半馬(ケンタウロス)が担っていた役割が完全に抜けてしまうと、どんな悪影響が出るか分からないからね。悔しさは勿論ある。だが、それだけで進んでいいときではないと判断した。無為に間引くことはするな」


 ジョシュアへ今一度海エルフたちの規律を正すよう命じる。


「同族殺しで明確に強化される種がどうやって生きてきて、どう進んでいくのか気になる」


 熊人(ヒューベア)(シルフィ)が不穏なことを口にするが、その興味は確かにある。


「ルゥナ! 手伝おうか!?」


 走り回る半人半馬と斬り結んでいた只人の娘へ声を掛ける。


「大っ丈ー夫!」


 刀身に左手を添えショートソードを跳ね上げ、半人半馬の長剣を弾く。

 ショートソードの柄に仕込んだ【火魔法】を発動させ、火炎を浴びせる。

 鎧袖一触。火の粉を振り払うごとく横薙ぎの刃が襲いかかり、ショートソードを構え直して身を浮かせて受ける。

 軽い身体を活かして受けた勢いをそのままに距離を取った。


「フワッと着地!」


 【風魔法】を駆使して着地の衝撃を和らげる。


「ルゥナ、上ッ!」

「わかってる!」


 高く跳躍した半人半馬が中肢の蹄から圧し潰しにかかる。

 ミアに応えたルゥナは【風魔法】の密度を上げて暴風の障壁を展開した。


「ハァーッ!!」


 落下地点を目前に逸らし、着地の瞬間を狙って気を吐く。

 マナを纏わせた刀身が蒼白く輝き鮮血を巻き上げた。


「コレで決める!」


 身を護る暴風障壁を半人半馬を拘束する渦に変化させる。

 【収納】を開きショートソードから長剣に得物を持ち替えた。

 右足を前にして大きく足を広げる。長剣の切っ先を半人半馬へ向け、腰撓めに両手持ちで構える。

 【身体強化】に加え、マナを発気させ威圧していく。


 半人半馬の纏う高密度なマナに、ルゥナも大量のマナを発することを求められる。

 只人の額に浮かぶ汗に反して、半人半馬の中肢の切創は徐々に塞がり始めていく。


「──あああああああッ!」


 駄目押しの発気でマナの密度を上げ、長剣は蒼く輝きを増す。

 半人半馬に向かって渦を巻いた風が吹き、背中側からも相対する風を起こす。

 丁度半人半馬のいる位置でぶつかり合い、身体を巻き上げる気流へと変わり、四肢を浮かせ自由を奪う。

 風の密度を更に上げ、半人半馬は身動ぎさえ満足にできなくなる。


 頬を伝う汗の雫が風に乗って霧散する。


 強化された踏み込みは地に小さな足形を残し、背に追い風を受けて接近速度を上昇させる。

 縮地もかくやという速度で距離を詰め、すれ違いざま振り抜いた剣で首を刎ねた。


 沈黙。

 唾を飲むことさえ憚られるような静寂。


【風魔法】が止み、長剣を杖代わりに疲労困憊のルゥナが親指を立ててみせる。


 どよめき、喝采。

 半人半馬たちの嘶きが遠く聴こえる。

 

「いけない」


 皆が浮き足立って見せる中、膝をつくルゥナに駆け寄ったのは首のない半人半馬。

 太い首を泣き別れにした手応えからか、弛緩しきった娘には周囲の声は届かない。

 高く掲げられた長剣が、自らの首と同じ処遇を与えようと、無防備な背中へと振り下ろされた。


「「ルゥナ!」」

「──あー、ゴメン。助かった」


 駆け抜けた黒い風。

 咄嗟に錬られたマナはすぐに散乱し、嵐のような暴風が砂埃を巻き上げた。


 熊手に長剣を受け止められた半人半馬は距離を取り、得物を只人の娘へと投擲する。

 熊人の娘がそれを熊手で打ち落とせば、刀身は呆気なく砕けた。


 一拍をつくった半人半馬が向かったのは同胞の亡骸。

 その傍らに打ち捨てられていた浮上都市(ラヴィアンローズ)製のナイフが穂先に束ねられた槍。


 先般斬られた中肢の回復は進み、熊人が介入出来る隙は傷口とともに塞がっていく。

 噴水の如く血を噴き出すはずの頸動脈は高密度のマナが覆い、目を見開いたまま戦場に横たわる首とのパスは健在だった。


「ミアッ!」

「分かってる!!」


 スザンナの呼にミアが応じる。


 シルフィを追い越しルゥナを狙う刃に、スザンナの矢が間を穿ち、ミアが双曲刀で打ち払ってみせる。


 疲労困憊で身動きのとれないルゥナを守るように、シルフィとミアが受け手に回り、スザンナは目一杯弓を引く。


 縦横無尽に駆け回る半人半馬はいつしか首を小脇に抱え、重騎兵の如く脅威を振りまく。

 圧倒的な質量の差、膂力の差は確実に体力を奪い、娘たちの顔には疲労の色が濃く滲む。


「まるでデュラハンだねぇ」

「──それは?」

「首無しの騎士で死の象徴。首無しの馬が曳く戦車や馬車に乗り、標的に死を齎すと言われている」

「首を斬り落とされて動くなんてそんなことが…」

「目の前の事象が証明だからねぇ。以前エリオットたちと遭遇したゴーストなんかは、マナによる思考回路の再現として説明がついた。今回は強固なマナのパスによる頸部の再現と見ていいんじゃないかな?」


 すっかり観客と化したジョシュアに現在の事象を解説する。


「マナを散らせればァッ!」


 渾身のマナを矢にのせて樹上のスザンナが弓を引き絞る。

 マナの高まりに呼応するようにシルフィが暴風の回廊を形成する。

 が、半人半馬の動きを止めるには敵わず、華奢な森エルフの娘へ目掛けて蹄の暴威が牙を剥いた。


「一発必中! ストームアローッ!!」


 砲弾宜しく迫りくる巨影に矢を放つ。

 最早狙わずとも真っ直ぐに胸元へと吸い込まれていく渾身の矢は、半人半馬へと突き立つことなく呆気なく打ち落とされてしまう。


 矢を落とした槍が突撃態勢に構えられ、スザンナへと狙いが定められる。

 半人半馬が樹上へと駆ける。

 お返しとばかりに自らが狙われた場所──胸元へと刃が向かう。

 身を翻す暇を与えず胸当を兼ねた胸甲に刃が突き刺さる。

 そのまま背中へと突き抜けるかに思われた槍は空を裂き、スザンナを抱えたジョシュアの周りに真綿の雪を降らせた。


囮役(オツトメ)ご苦労様」

「トモオ様!?」


 普段は連装の銃手甲(ガントレット)は口径の大きな単装の銃身が据え付けられ、そこへ装填されたのは魔鋼製の杭。

 魔鋼杭が銃口から大きく伸びた銃手甲には、把手とともに手首を固定する附帯機器(アタッチメント)が取り付けられ、銃身の延長として杭の挙動を補助する。

 銃身の変更にあわせて大きく肉厚の物に換装された薬室は、より大きな爆発・燃焼に耐える。

 肩まで延長された装甲には手首と同様の固定具が散見された。


樹上(スザンナ)を狙うのを待っていたよ」


 樹上へ駆けた半人半馬を追い、露わになった馬体胴体に向け銃手甲を繰り出す。

 魔鋼杭はマナの壁に阻まれ、皮膚に突き立つことさえ許されない。

 空中での姿勢を崩すまで至らない体当たりに、半人半馬が嘲笑うように口角を上げたようだった。


 深呼吸ひとつ。


「──銃手甲(ガントレット)魔鋼杭(ステーク)起動」


 把手を握り込みマナを流す。

 左腕の異形な銃手甲がバチンバチンと小気味良い音を立て真っ直ぐに固定されていく。

 肩からシュッと排気音が鳴り、鎧下の人熊(ウェアベア)の革が腕に密着する。


 魔鋼杭に刻まれた一際太い魔導回路が朱い光を放ち、尖端から周囲のマナを猿猴取月、取り込んでいく。

 半人半馬の防壁となっているマナも例外ではなく、寧ろ尖端の接するマナとして優先的に取り込み、マナを失った空間に吸い込まれるように魔鋼杭は進む。

 朱から蒼へと魔導回路が輝きを変え、外皮に届いた魔鋼杭は紅い染みを拡げながら飲み込まれていく。

 そして白く強い輝きを放つとともに引金の安全装置が解除された。


「──撃ち貫け(ぶちぬけ)


 引金を握り込む。

 魔鋼杭全体から光が溢れ、轟音とともに銃手甲から射出される。

 防壁の抵抗を受ける魔鋼杭は半人半馬を上空へと打ち上げ、対して身体は射出の反動で地表へ飛ばされた。

 【風魔法】を駆使して着地し見上げれば、マナを奪い尽くした魔鋼杭が馬体を割り、新たな星へと至るところだった。 

誤字脱字、矛盾点などあれば、ご指摘いただけますと有り難いです。

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