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理系人間の異世界見聞録  作者: ふりおきよし
第四章 不定期更新編
138/145

138 飢餓遺伝子

 有名なところであれば“飢餓遺伝子”。別名“肥満遺伝子”とも呼ばれ、栄養状態の改善に作用する遺伝子と言われている。

 飢餓状態に陥った──栄養状態が悪いときにスイッチがオンになる遺伝子で、少ない栄養を最大効率で使えるようになり、十分にからだを動かすことが出来るようになる。

 コイツの厄介なところは、スイッチがオンになると、なかなかオフになってくれないこと。

 下手をすると世代を経ないとオフにならない。オンになったらその人は生涯オンになった状態。

 つまりどこかで栄養状態が改善されたら、豊富な栄養を最大効率で扱えるわけだから、余剰分は脂肪となって次に飢餓状態になったときのためにどんどん蓄えられていく。

 “飢餓”状態のときにはたらく遺伝子のせいで“肥満”が引き起こされているわけだ。相反する名前はそこから由来する。


 僕たちは農耕、牧畜、養殖を経て、果ては合成食料なんてものまで扱い、飢餓というものにとんと縁がなくなってしまった。

 では一体どういうときにこの遺伝子がオンになるのかというと、何のことはない、貧栄養状態であればいいだけ。摂取カロリーに対して、消費カロリーを過剰にしてやる。

 1日2日程度じゃダメだけど、それを長期間連続して行えば、栄養価の低い環境にあるとからだは認識し、飢餓遺伝子のスイッチがオンになる。

 だから過剰な食事制限を続けたり、過剰な運動を続けたりして減量することは、飢餓遺伝子のスイッチをオンにする危険性を伴う。

 痩せようと思って、肥りやすいからだを手に入れてしまうわけだね。

 ズルっこの日(チートデイ)といって、栄養状態を通常時に戻す日を挟むことでスイッチの切り替えを避けるのが基本になりつつある。


 摂取カロリーに対して消費カロリーが高ければ痩せる。反対に低ければ肥る。

 この当たり前のことに対して、どう取り組んでいくか。


 例えば、脂質を摂取しないなんてのもある。グラムあたりのカロリーが高いからね。

 だけど脂質が絶たれ続けると摂取した際の代謝・分解能力が落ちてしまう。摂取されないものに対して消化分解酵素を用意しても仕方ないしね。

 結果的に消化されずに素通りで、お腹を下してしまうこともあるだろうし、吸収された場合も細胞内での分解効率が下がってて、なかなか使えなくなってしまう。

 それってからだに貯えた脂肪の分解も落ちちゃうってことなんだよね。一度ついた脂肪がなかなか落ちないからだの出来上がりさ。


 炭水化物を摂取しないなんてのもある。ノンカーボとかローカーボってやつだね。糖質制限なんても言われるかな。

 消化吸収効率が高く、余った分は脂肪として蓄積されるから、炭水化物──穀類を摂らない。

 脳をはたらかせるにはブドウ糖(グルコース)が必要だから、糖質を抑えるなんて頭使うことを拒否してるよね。盲信的。

 すぐ使えるエネルギー源でもあるから、カツカツの状態だと咄嗟の判断・行動が出来なくなる。


 タンパク質はどうか。

 からだを構成するのはタンパク質だから、成長する上でも、細胞の生まれ変わり──新陳代謝を推し進める上でも必要だね。

 タンパク質を摂らずにいられるかというと、食する物が生物由来であれば、少なからずタンパク質は含まれているからまず不可能と思っていい。遺伝情報のある染色体はDNAとタンパク質から構成されているからね。

 量的な問題でタンパク質を制限したとして、からだの材料となる物質が不足することになるから、新陳代謝の停滞・細胞の老化が問題になりやすいだろうね。

 「タンパク質の原料であるアミノ酸を摂取すればいい」とかいう屁理屈はいらないよ。


 当たり前の話だけど、摂取したタンパク質は一度分解して、アミノ酸にしてからタンパク質合成に用いられる。

 馬肉を食べ続けたから馬のように速く走れるわけでも、牛肉を食べ続けたから力強くなるわけでもない。

 その人のもつ遺伝情報に合わせて組み直されるから、結局は“ヒトの壁”の内で行われる。


 栄養素として見たタンパク質は、確かにからだを構成する物質だけれど、ここではエネルギー源として見ているわけだから、分解して(カロリー)を取り出してやらないといけない。

 脂質・炭水化物はC(炭素)H(水素)O(酸素)からなるが、タンパク質はそこにN(窒素)S(硫黄)が加わる。

 C・H・OだけならCO2(二酸化炭素)H2O()が最終産物となるけど、NとSの代謝物はNH3(アンモニア)H2S(硫化水素)H2S2O3(チオ硫酸)あたり。

 S自体の含有量は少ないから、アンモニアが主たるものかな。ニオイの元は。タンパク質の代謝が進むと、尿や汗のニオイが強くなる。タンパク質食──肉食をするものとして強調されてしまう。

 余りにキツいと生存にも生殖にも影響がでるから、通常はCH4N2O(尿素)にする。アンモニアが体内に留まると毒にもなるしね。

 水源が近くて十分に水分が補給されるのであれば、アンモニアの状態で尿から体外に放出されるんだけど、そうでないならある程度の期間体内に貯め置かねばならない。そのときの貯蓄形態が尿素さ。

 鳥類や爬虫類ではさらにC5H4N4O3(尿酸)にまで代謝を進め、毒性を下げている。

 ヒトでは尿酸の代謝がうまく出来ず、蓄積すると関節で析出して痛風になっちゃう。僕はなったことがないから分かんないけど、風が吹くだけで激痛らしいよ。病名の由来だね。


 結局のところ、何事もほどほどにってことだよ。食べ過ぎても、食べなさ過ぎてもダメ。

 つまり「○○だけを食べ続けることで痩せる」ということは、それ単体で栄養素が十全な食事──万能栄養食を用いて、摂取カロリーが消費カロリーより下回る状態を作り出してようやく成立する話。

 しかし生命段階において、必要とされる栄養のバランスや全体量は異なるわけだから、真の万能栄養食など存在し得ない。

 成長期では多くのタンパク質が供給された方が、より大きなからだになれるだろうし、成長期を過ぎても同じタンパク質多めの食事を続けていれば痛風まっしぐら。

 肉体労働を主とする人と、頭脳労働を主とする人とでは必要なカロリー量も栄養の種類も異なる。

 誰かにはうまく合致することはあっても、万人に適用出来るとは限らない。

 多くは一番足りていない要因──限定要因によって栄養段階に制限を受け、欠乏症になる。

 場合によっては、からだの排出限界を超えて余剰となった要因が、過多症を引き起こすこともあるかもしれない。

 欠乏症からエネルギー代謝が阻害されるようなことになってしまえば、栄養状態が悪いと判断されて、飢餓遺伝子のスイッチがオンになることも起こり得る。


 同様に「△△を振りかけて食べると痩せる」とか、「□□と一緒に食べると肥らない」とかいう話は、消化や吸収の阻害効果があると考えられる。

 似たような話として、グレープフルーツと一緒に薬を飲むと効果が失われるなんてことがある。実際に多くの薬で見受けられるって話さ。

 結局のところ魔法の食べ物なんてのは存在しないんだよ。



 そうやってオンになってしまった飢餓遺伝子で一番厄介なのは、オンの状態が卵巣内の未受精卵にも適用されるってこと。

 母体が満足に栄養を摂れて居ないのだから、生まれてくる子どもも貧栄養下で生育することになるのは自明、というふうにね。

 勿論、男性・精子でも同じことがいえるけど、女性の方が減量することが比較的多いからね。

 そして未受精卵が受精し、胎児と成長していく中で、次世代となっていく始原生殖細胞にもオンの状態は引き継がれる。

 だから生まれてきた子が肥りやすい体質の場合、両親だけに留まらず祖父母由来の可能性もある。

 美容と健康のために減量を行った結果として、子孫に肥りやすい体質をプレゼントするって皮肉が効いているだろう?


 余談だけど、“ダイエット(diet)”って元々は“食べ物”という意味合いで、そこから転じて“減食”となっているから、食事制限を少なからず含んでいるものが“ダイエット”と呼ぶに相応しい活動だね。

 食生活は変えずにジョギングなんかで運動量を増やすことを“ダイエット”というのは誤用だよ。

誤字脱字、矛盾点などあれば、ご指摘いただけますと有り難いです。

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