日常
『シェリルちゃん、こっちに酒追加〜』
『こっちは肉野菜追加だ〜!』
辺りが暗くなり、子供達が家に帰る時間。大人たちは自然とこの店に集まる。ここはこの辺で唯一の酒場だからだ。
「は〜い。ちょっと待ってね〜!女将さん!お酒と肉野菜お願い〜!」
ばたばた休む暇もなく働く。時折、宿の外・・・町の中心を眺めながら。
ここはバルーナ王国の王都ルナーレの東端にある庶民の住むエリアだ。
王都の中心にある王宮を囲むように上、中、下の貴族が住んでおり、またその周りを厚い壁を挟み一般庶民が住む。
中でも西と東の端は低階層の人々が住み、治安もあまりよくない。貴族なんかめったに通らないような場所だ。
シェリルはここに生まれてから15年間ずっと住んでいる。
母が死んでからは宿屋兼酒場に住み込みで働かせてもらっている。女将さんたちも優しいし、一人で食べて行くには十分な稼ぎも得られている。それにここには大切な人たちも居る。
『シェリル、そろそろ休憩入れてきな。ほれ、これ食べな!』
少し人が減ったのを見計らい、女将さんが声を掛けてくれた。ついでに残り物でつくった、でもとても美味しいスープも付けて。
「ありがとう!女将さんのこのスープ大好きなの!!」
シェリルはスープを受け取り、裏口から外に出た。そしてキョロキョロとあたりを見回す。
『シェリル!』
声を掛けられたほうへ体を向ける。
声の主はこげ茶の短髪で細目の青年。彼はシェリルの幼馴染。
「ダン!」
一月前からは恋人になったシェリルにとって大切な人の一人でもあった。