episode6〜黒の銃弾と緋色の銃弾〜
閃光で隙をつくり、体育館にまで避難した俺とシンク。
さすがに戦闘状態を維持するのも限界なので一度活性化させた神経を宥めると一気に脱力し壁に背中を預ける形となる。
「はぁ……はぁ……」
「無茶し過ぎよ。少し休みなさい」
「くそっ、いまここで撤退できたとしてもあんな技を使われる限り結果は同じじゃねぇかよ」
休憩を所望するシンクの意を無視して、乱暴に言葉を吐く。
怒りに任せ壁を叩きたいが、そんな力すら残っていない。
「同じじゃないわ」
「どういう意味だ?」
「あんな大技をそう無条件に何度も発動できるはずがない」
「その根拠は?」
「そもそも古代秘具という代物はそう都合の良いものじゃないのよ」
「おいっ、さっきから言っている古代秘具って一体なんなんだ?」
シンクやウィンとの会話に登場していたよくわからない謎単語にようやく疑問を投げつける。
「そうね、時間がないから簡単に説明するけど、古代秘具というのは、強大な力を封印した武器やアイテムのことでそれを所持した者に超常的な力を宿す、またはそれ自体に力が宿っている古代の秘宝の総称よ」
「俺のこの銃、さっきの風の操作に、おまえの形態変化する銃がそれってわけか」
少なくとも俺はこの銃を持った直後からいままでにない力を発揮するようになった。
そういうのがシンクのいう超常的な力なのだろう。
「ただし強力な力には必ず代償が伴う。いまのあんたのように、人に余る力を使い続ければ自然と人の肉体は悲鳴をあげる。それが強力な力になればなるほど肉体に対する負荷は大きくなるのは必然」
「つまりあれだけの大技はそう簡単に連発できない、下手をするとここ数分は発動できない可能性もあるってことか」
「ご明察よ。その可能性が高いとみてまず間違いないわ。問題はあたしたちの武器の相性が最悪ってことね。ただでさえ目に映らないカマイタチを注意しなければならないのに、こちらの攻撃は空中を飛んで避けられるわけだし……」
俺の戦闘を観察していたのか、それらを踏まえて攻略法を考察するシンク。
なにかないのか?
力に代償があるなら、なんでもかんでも都合良く力が構成されているとは考えにくい。
どこかに弱点があってもおかしくない。
……思い出せ、あいつの行動を。
なにか弱点に繋がるヒントがないかーー
狂気に満たされた思考を必死に平常に戻しながら、記憶を頼りに敵を分析する。
「……もしかしたら?」
「なに? なにかわかったの?」
「あぁ……おそらくやつの古代秘具の欠点だ」
◆
「随分堂々と構えているようで、わたしをそこまで誘い出しているのですか?」
体育館の中央で佇むだけの俺にウィンは警戒しながらもこちらにゆっくりとこちらに近づいてくれる。
「さぁ、な⁉︎」
彼の台詞から間髪入れずに弾丸を射出。
「単調な攻撃です」
狙い通り、ウィンは足元に突風を発生させ空中へと舞い上がり、俺の攻撃を避ける。
しかし、俺は追撃することなくその場で静止。
無防備な姿を晒す。
通常の戦闘であれば、こんな絶好の機会を逃す方がおかしい。
しかし、なぜかウィンは浮いた体を一旦地面に降ろすことを選択した。
不自然に生じる空白の間。
その間が俺の仮説を証明する。
「おまえ、なんでいまの機会に攻めてこなかった?」
不敵に笑ってみせる俺に、ウィンが忌々しげに表情を崩した。
どうやらビンゴみたいだ。
「単純な話だ。テメェはひとつの方向にしか風を操縦できない!」
よくよく考えてみればお粗末な点があった。
「最初に俺の攻撃を避けた後すぐ反撃に転じず、おまえはあえて挑発に乗るといって降りてきた! わざわざ地面に降りるなんてリスキーな真似せずあのまま空中から一方的に俺をカマイタチで攻めていた方が有利に戦いを運べていたのになぜそれをやらなかったのか。もしそれがやらなかったんじゃなくて、できなかったとするなら?」
「なるほど。先程わたしを上へ飛ばしたあと仕掛けてこなかったのはその仮説を確かめるためでしたか。どうやらわたしはまんまとあなたの策略に乗ってしまったというわけですか……」
「テメェのネタは暴いた! これでチェックメイトだ⁉︎」
黒銃を突きつけ、死を宣告する。
だが、ウィンはまだ笑っていた。
「くっはっはっはっ! たしかにわたしの古代秘具のネタはすべて見破られてしまいました。だが、所詮はそれだけ! あなたが反撃する暇もない連続攻撃を仕掛ければいいことだっ‼︎」
ウィンが腕を振るう。
早いっ!
こちらが弾を撃つ間も与えず先手を打ってくる。
もうカマイタチは迫ってきている!
さっきまでと同じ要領で感覚を鋭くし、殺気や気配だけで透明な刃を避ける。
連続攻撃と宣言したからには1発では終わらない。
2撃目、3撃目、4撃目、と続け様にカマイタチを飛ばしてくる。
狭い廊下とは違い、広い体育館では走り回るだけで回避ができる。
自然と避けられる攻撃回数も増えるが、動き続けるごとに行動パターンが読まれていき、徐々に狙いが定まってくる。
そうだよな、俺を殺すために集中するよな?
そうなると自然と周囲への注意が散漫となる!
俺は体育館の壁を蹴り、自ら空中へと躍り出てあえて隙を晒す。
ウィンは空中で逃げ場のない俺にカマイタチを放とうと腕を振るう。
こちらをターゲットに捉え、カマイタチが放たれる、そのわずかな間。
行動と行動のつなぎ目のタイミングを計り、二階にいるシンクがロングバレルの銃で頭部を狙い撃つ。
光の弾丸が寸分の狂いなく、わずかな隙を生んだウィンの頭部へと襲いかかる。
「甘いですね。このわたしがあなたの狙撃を警戒していないはずがないでしょ?」
ウィンはカマイタチを放つフリをして、シンクの弾丸を突風で受け流した。
読まれていた⁉︎
この体勢じゃ、照準を定められない⁉︎
万事休すか……。
ウィンはシンクの弾を無力化し、カマイタチを準備する。
くそっ、こんなところで……。
「負けるかあぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
俺の叫びに呼応するように左手に力が灯る。
それは瞬時に具現化し、漆黒の剣が形成される。
「なっ⁉︎」
重力により落下する勢いを利用して、突進。
漆黒の剣を振り下ろし、ウィンの左腕を切り落とした。
「ぐっあっ……き、貴様ァ⁉︎」
左腕を切断されてもなお踏み止まり、着地したばかりで硬直状態の俺を狙い、カマイタチを発生させようとする。
だが、その怒りに任せた端的な判断が致命的な隙となる。
「がはっ!」
シンクへと背を向けたウィンの胸元に風穴が空いた。
「最後まで冷静でいられなかった、テメェの敗因だ」
「く、くそっ……」
心臓を破壊されたウィンの肉体が、力をなくし崩れる。
「……はぁ、はぁ……ちくしょう、あいつの居場所を吐かせるのを……忘れていた、ぜ」
ウィンの死亡を確認すると、途端に視界がぐらぐらと揺れて全身から力が抜けていく。
あっ、やべぇなこれ……。
そのままゆっくりと俺は床へと倒れ、意識を失うのだった。