連理とユキノ④
「どうやら雑魚の次は中ボス、このレセプションを企てた主催者のお出ましのようですわね」
「あら、殺し屋というからにどのようなドブ臭いネズミかと思っていましたが、あなたのように可憐な華をお持ちの方がいますとは、正直驚きました」
「お褒めに預かり光栄ですわ。ですが、殺るからには全力でいかせてもらいーー」
長話に付き合ってやる義理はない。
ユキノの台詞を遮るように俺はデスペラードを構え、やつの胸元を狙い撃つ。
「どうやら相方さんの方は礼儀もなっていないドブ臭いネズミ、みたいですね」
「っ!」
な、なんだいまの反射スピード。
確実に不意はついた。
速度と距離からして弾丸が到達するまでの時間は3秒もないはずが、それをやつは紙一重で避けていた。
「では、そちらの宣戦布告にはお応えするとしましょう」
キリヒメが動いた。
ゆっくりと腰に吊った刀に手を伸ばし……。
「真明流ニノ太刀ーー」
「連理!」
警戒を告げるユキノの声。
頭でそれを理解する頃には既に危険はすぐそばまで迫ってきていた。
「ーー雪華星‼︎」
ヒュン、と一瞬なにかが風を切った。
それに続く形でバリンと俺の心臓近くで氷が割れた。
「あら、私の太刀筋を読むなんてやりますね。いまあなたが守っていなかったら相方さんの体は真っ二つになっていましたのに、残念」
告げられる驚愕の事実。
嘘だろ、あの数秒の攻防に俺の命が賭けられていたっていうのか⁉︎
俺は、キリヒメが攻撃したことも、ユキノが防御したことも認識することができなかった。
「えぇ、あなたも随分と良い太刀筋をお持ちなようで驚きましたわ」
睨み合う両者。
既に俺は蚊帳の外といった感じで、キリヒメの敵意が完全に移ってしまっている。
これもチャンスか?
いや、考えなしに突っ込めばまた反撃を喰らう……慎重になるべきなのか?
などと俺が立ち尽くしている間にユキノは一歩踏み込んだ。
「暗殺剣技ーー氷火」
「真明流三ノ太刀ーー朧鏡!」
得意の剣技で接近したユキノだったが、それが発動するより早くキリヒメの刀が彼女の脇腹を貫いた。
裂かれた布地から迸る鮮血。
「かっ……あっ……」
ふらりと、ユキノがその場に崩れた。
まずい!
そう思い彼女の元へと走ったときには、キリヒメはトドメをさそうと新たなフォームに刀を構え直していた。
「真明流四ノ太刀ーー」
「デスペラード!」
気づけば俺は握り締める銃の名前を叫んでいた。
銃身が黒く光る。
そのときからだった。
俺の視界に映るすべての光景が機械によって操作されたかのように鈍速となり、相手の指の動きやわずかな体重のブレなどが手に取るようにわかる。
そこから相手の太刀筋を見抜き、逆手に持った剣をその軌道に合わせる。
キリヒメの刀と俺のデスペラードが衝突して火花を散らす。
「へぇ〜いまの一撃に反応しますか」
ギチギチとせめぎ合いながらキリヒメが感嘆の息を漏らす。
いままで俺の戦ってきた敵と違い彼女は俺が予想外に刀を防いだとしても動揺しない。
それどころかそれすらも受容し、より強大な力で俺を押し返そうとする。
お、重い……。
油断すればこっいの手が折れる!
メアから貰った攻撃と似ている。
いや、背がキリヒメの方が高い分重さも増している!
このままじゃいずれ押し負ける。
なんとか堪えようと踏ん張っていると、周囲の空気が唐突に冷たくなるのを肌で感じた。
「氷の巨壁ッ‼︎」
倒れていたはずのユキノが叫喚したかと思うと、突如として俺とキリヒメの間に分厚い氷の壁が出現し、2人を引き裂いたのだった。
◆
「……うっ」
「おいっ、大丈夫か?」
氷の壁で時間を稼ぎ、なんとか廃ビルの下層まで逃げてきた俺たち。
ユキノは酷い出血で走ったためかなり辛そうだ。
「だいぶ血を失いましたが動けなくなるほどではありませんわ」
脇腹を裂かれ、多量に出血しているはずなのに、ユキノはだいぶ余裕そうだった。
「そんな心配そうな表情をしなくても、わたくしにはこれがありますわ」
出血している部位にユキノが左手をかざす。
そしてそこを固有スキルで一気に凍結させて氷性の血栓を作り出す。
「これで止血は終わりましたのでもう大丈夫ですわ」
そういいつつも壁に寄りかかりながら立ち上がる姿は明らかに無事ではなかった。
いくら傷口を塞ごうとダメージまではなかったことにできないということらしい。
「それにしても厄介な相手とぶつかりましたわね……七影剣、しかも真明流剣術を極めていますなんて」
「その七影剣? っていうのは何者なんだ?」
「そういえばあなたはご存知ありませんでしたわね。七影剣というのは、ここ最近話題になっている皇帝の騎士No.5が人選した特殊部隊ですわ」
「つまり、相当な手練れの集まりってことだな」
「えぇ。構成員は7名、うちどれもが古代秘具所有者または真明流剣術や戦闘術を身につけており、所有者同等の実力を有しているという話ですわ」
「真明流剣術……あいつが使っていたあの技のことか」
「真明流は、かつてオラシオンに名を爆ぜた伝説の流派で、その技ひとつひとつがどれも瞬斬と呼ばれる剣技を応用していて、常人の目では剣筋を捉えることすら不可能ですわ」
あのデタラメなまでに速すぎる太刀筋はたしかに厄介だ。
一度はデスペラードの力で動体視力を強化して対処できたが、そう長くは続かないだろう。
「メアやウェストも同様の流派を仰いでいますので、目は慣れていると思い油断しましたわ……まさかあそこまで高速の斬撃を見せつけられるなんて」
一生の不覚とばかりに慢心していた己を叱咤するユキノ。
「というよりメアやウェストも同じ技を使えるのか⁉︎」
「知らなかったのですか? メアは剣術、ウェストは戦闘術の免許皆伝ですわよ。ウェストに関しましては、自身の技術を織り交ぜた暗殺拳術として使用していますが……」
そもそもあの2人の戦闘を観察することのなかった俺にとっては衝撃的な事実だ。
どうして敵が使っていたのと同じ流派をメアやウェストは仰いでいたのか、気になるところではあるがいまはそれどころではない。
負傷したユキノを戦闘に参加させるのは危険だ。
だが、敵は熟練な剣士。
2人も揃って逃してくれるほど甘い相手ではないだろう……なら、俺の取るべき選択は、
「さて、お喋りもこの辺にしていい加減レセプションの主格犯を倒す方法を考えませんと」
「その必要はない……あとは俺がやる」
「なっ⁉︎」
俺の突然な発言にユキノは驚愕した。




