episode26〜刺し違え〜
先手を打ったのはユキノだった。
毅然と佇むデイダラに素早く肉薄。
左手の氷剣を振るった。
「暗殺剣技ーー氷魔七連舞ッ‼︎」
連続で繰り出される氷の7乱舞。
それらすべてがデイダラの肉体を襲う、が。
「っと、あっぶね」
視覚で捉えるのもやっとな瞬足の剣戟を最小限の動きで躱すデイダラ。
「一発でももらったら体が氷漬けになっていたぜ」
連舞が終了すると、余裕をみせつけるかの如く解説を挟むデイダラ。
そんな奴の気位につけ込むようにユキノ右手の炎剣を振りかざす。
「暗殺剣技ーー業炎旋火ッ‼︎」
炎の竜巻が発生。
広範囲の攻撃でデイダラの退路を断とうと試みるが、それすらも奴は読んでいた。
するり、と竜巻を抜けて鋭い蹴りをユキノの腹部にお見舞いする。
「っう⁉︎」
数瞬の攻防だったが、ユキノもその速度に反応。
デイダラの足蹴りを左腕でガードし、直撃を避ける。
地面をブーツの底で削りながら俺の隣にまで後退することを余儀なくされるユキノ。
「ひゅ〜いまのカウンターを防御するなんてやるじゃん」
「中々やりますわね、あなた」
強がっているものの、足蹴りを防いだ左腕は赤く腫れ上がり、見るからに痛々しかった。
「どうやらわたくしも少し本気を出さないといけませんわね」
って、本気じゃなかったのかよ……。
それがハッタリなのか、ユキノの実力を知らない俺には判断できないが、彼女の瞳はまだ燃えている。
「んじゃあ、おまえさんの本気俺に見せてくれ、よっ⁉︎」
ユキノは既に動いていた。
なにも構えず、宣言せず。
無言無心でデイダラの眼前まで迫っていた。
完璧に意表を突かれたデイダラはユキノの瞬斬を避ける術などない。
ギリギリ回避し致命傷こそ避けたものの、体のあちこちを刃で切り裂かれる。
「ぐっ……」
口元から血を滴らせ、痛みに耐えるデイダラ。
初めて与えられた有効打。
「あら、油断大敵ですわよ」
勝ち誇ったかのように笑みを漏らすユキノ。
しかし、異変は起こった。
「がはっ⁉︎」
な、なんだこれ……。
突然体全体に焼けるような痛みが走り、俺は口内に広がる鉄の味を外にぶちまけた。
「なっ、連理! どういうことですの⁉︎」
熱傷だけではなく、凍傷のようなチリチリとした痛みもある。
見ると俺の首元には謎の紋様が刻まれており、デイダラの腕にも同じ紋様があった。
「固有スキル、感覚リンク。俺とそいつの感覚はいま繋がっている。俺を傷つければおまえの大事なお仲間まで一緒に傷つけることになるが、どうする?」
形勢逆転とばかりに、ニヤリと頬を吊り上げるデイダラ。
ユキノの手は完全に止まっていた。
具体的に感覚がリンクしているだけで、死まで共有されるかは定かではないが、それでもリスクを恐れるあまりユキノは攻撃することを躊躇していた。
「さぁ、どうする? さっきみたいに俺をやってみるか?」
一撃貰ったせいか、態度に棘が出てくるデイダラ。
まずい、このままじゃジリ貧になる!
「さぁさぁ、もっと攻めてこいよ! さぁ……がはっ⁉︎」
「連理、あなたなにをやっていますの⁉︎」
「どうやらそっちからのダメージだけが俺に伝線する都合の良いものじゃなくて、安心したぞ……」
「き、貴様……」
デイダラの表情から慢心が消える。
俺はデスペラードの剣で自分の脇腹を貫いた。
どくどくと体内の血が外へと溢れ、視界がチカチカと点滅する。
それでも俺は意識をギリギリのところで保ち自身の痛みをデイダラと共有していた。
「どうした? さっきまでの余裕そうな顔はどこにいったんだよ?」
今度はこっちから挑発してやる。
「ぐっ……七影剣を舐めるなぁ⁉︎」
怒りに身を任せ、突進してくるデイダラ。
させるか‼︎
すぐさま俺は脇腹に刺さった剣をぐりぐりと揺する。
気絶しそうな激痛が傷口から伝わってくる。
それは相手も同じで、デイダラは痛みで崩れ落ち、俺が刺し貫いている箇所を両手で押さえ蹲る。
「ぐっ、あぁぁぁぁっ⁉︎」
悶絶するデイダラ。
慢心が消えた奴の顔にははっきりとした怒気が宿っており、俺を忌々しそうに睨みつけていた。
「さぁ、どうする? 俺と一緒に死ぬか?」
「はぁはぁ、随分と面白い冗談じゃねぇか。やれるものならやってみーー」
「そいつはテメェの目で確かめろや」
左手にもう一本の剣を召喚し、そいつを掲げる。
「連理!」
心配そうに叫ぶユキノだが、それを無視して俺は勢いよくそれを心臓へ向けて突き刺す。
剣が胸元に到達する数秒前、スゥと俺の首元の紋様が消滅する。
そのタイミングに合わせて俺もデスペラードの形態を剣から銃へと変更。
刃を失ったデスペラードは俺の胸を貫通することなく止まった。
「いまだ、ユキノッ⁉︎」
チキンレースは俺の勝利みたいだ。
相手が能力を解除したのを確認すると、すぐさまユキノは走り出した。
「しまっーー」
俺の作戦に気づいたのか、動揺するデイダラ。
しかし、遅い!
「暗殺剣技ーー烈火氷乱舞ッ‼︎」
一瞬にして肉薄したユキノの双剣が炎と氷の剣筋を生み出す。
乱暴に舞う炎と氷の剣戟が終了すると、デイダラの肉体は細切れとなり、血の雨が降り注いでいた。
「あとは、ラゴウの抹殺だけ、だな……」
多量の血を失ったせいか、急に脱力してしまい、俺はそのまま意識を失ってしまった。
くっそ、まだ任務は終わってねぇのに……。
◆
「はぁ……はぁ……」
夜闇に濡れた廊下を駆けるラゴウ。
普段の運動不足のせいかすぐに足は重くなり息が上がる。
それでも殺されまいと必死に逃走するのだが、
「はぁい、追いかけっこはここまで」
トンッ、とラゴウの目の前にシドが着地する。
「誰かぁ! 誰かいないのか⁉︎」
必死に助けを求めるがその声は決して届かない。
「いやぁ、ごめんね。このお屋敷の兵隊さんはみんな倒しちゃったみたいで」
「き、貴様は、いい、一体何者なんだ⁉︎」
生まれたての子鹿のように膝を震わせて尻餅をつくラゴウ。
そんな彼の質問に答えるかのように月明かりが差し、暗くてよく確認できなかったシドの顔が鮮明に映し出される。
「俺たちか? 俺たちはこの世界の闇を滅するためのーー」
「き、貴様はっ⁉︎ な、なぜ貴様が国に反逆する! ナイトジョーーっ⁉︎」
「おっと、それ以上はお喋り厳禁だぜ」
ラゴウの首が飛んだ。
彼がなんの事実を知っていたのか、これで闇に葬られてしまう。
「んっ、任務終了。それじゃあシンクちゃんも心配だし戻るか」
赤く汚れた廊下を避けて、シドは仲間の元へと合流したのだった。




