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episode25〜仲間を救うために〜

 ラゴウの屋敷の裏側。

 闇に濡れるその林はふたりの暗殺者の狩場となっていた。


「冥扇月下ッ‼︎」


 ウェストの鋭い蹴りが炸裂する。

 動きだけ見たらただの回し蹴りなのだが、彼の攻撃の次元は段違いであった。

 直に蹴りに当たるものなら体は弾け、霧散する。

 仮に直撃を避けたとしても、蹴りの風圧だけで弱者は軽々と宙を舞う。


「メア!」


 牽制したウェストが叫ぶ。

 すると、彼の後ろに隠れちょうど死角となる位置にいたメアが聴覚を研ぎ澄ます。

 目を瞑り集中。

 人の体が風に乗る音や巻き上げられた恐怖の悲鳴などを一音一句聴き漏らさずに把握する。


「……8ッ‼︎」


 残存している敵の数を把握すると、一気に加速する。

 素早く刀を抜いて、落下してくる兵の真下にピンポイントで向かい、一閃。

 微塵も無駄のない動きでそれらを8回繰り返す。

 そして、わずか瞬き数回ほどの時間が過ぎた頃にメアは最初にいたポジションへと戻り、ゆっくりと刀を鞘へと収める。

 刹那、次々と落下した兵から血飛沫が上がり、胴体と足に切断されて肉体が地面を転がる。


「ひゅ〜相変わらず凄まじいコンビネーションだね」


 20といた兵をものの数秒で片付けてしまった2人の暗殺者の隣にシドが軽い調子で口笛を吹きながら着地する。


「シドか、どうした? 作戦に支障でも出たのか?」


「おっ、鋭いじゃん。んなわけで端的に状況を伝えるぜ」


 パチン、と正解と称する代わりに指を鳴らすシド。


「シンクが捕まった」


 そしておちゃらけた表情が一転する。

 真剣味を帯びた険しい顔のシドがウェストの前にいた。


「なんだって⁉︎ すぐに助けに行くぞ!」


 なんの躊躇いもなくシンクの救出を選択するウェスト。


「もちろんそのつもりだぜ。彼女はいま地下牢に幽閉されているって話だ」


「わかった。メア、この場は任せたぞ!」


「……うん」


 粗方こちらのルートを警備する護衛兵も始末していたため、ウェストは残りの仕事をメアに託す。

 倒した敵を数えるに、メアひとりでも充分だと判断した結果だ。


「行くぞ、シド!」


「オッケー、こっちだ」


 シドの案内により、ウェストはメアと別れ、林の闇へと消えていった。


 ◆


 屋敷の中庭で金属同士の弾く音が響き渡る。


「ひぃやっは〜中々良い動きじゃねぇか!」


 ふざけた面で吠えながら俺の剣戟を短剣一本でことごとく受け流すデイダラ。

 こいつ!

 俺の剣筋を完璧に見切ってやがる!

 あまり長引かせて護衛の兵が湧いてくる事態だけは避けたい。


 ならっ!


「おっ⁉︎」


 俺は力任せに剣を振り下ろす。

 デイダラはそんな乱暴の攻撃を意図も簡単に捌く。

 威力を流されて重心のバランスが崩れる、だが俺はそのブレを利用して後方に跳躍。

 デイダラとの距離を空ける。


「ひゅ〜すっげぇ」


 口笛を吹き、余裕綽々と構えるデイダラ。

 実力は確かだが、こちらの実力を侮る慢心が垣間見える。

 ならその隙を突いてやる‼︎


 俺は左手のデスペラードを消して、右手に残った剣にすべての集中力を注ぐ。


「なぁ、おまえの仲間がいまどうなっているか知ってるか?」


「……」


 こちらの集中力を削ぐ作戦か?

 そんな魂胆お見通しだ!

 俺は無言を貫き視覚情報をデイダラ一点に集約して、さらに集中力を増大させる。


「んだよ、無視かよ。まぁいいや、とりあえず耳はあんだから聴けよ。おまえの大事な仲間がいまどんな目に遭っているかをな」


 この一撃で決めるッ‼︎

 俺は脚の筋肉を爆発させて瞬時に加速する。

 不敵に笑うデイダラの鼻っ面に切っ先を叩きつける!


「おまえの仲間、いま頃女として死んでるかもなぁ?」


「なにっ!」


 ヒュン、と俺の剣がデイダラの頬スレスレを掠る。

 しまった、いまので手元が狂った!


「あっぶねぇ〜。お仲間のピンチに動揺したか?」


「おいっ、それよりもさっきいっていたことはどういう意味だ?」


「あぁん? あぁ、そうそう。俺の古代秘具アーティファクトセンス・アジェバンドは、人間の感覚を増幅、減退させることができる代物なんだが……おまえのお仲間さん、感度を極限まで増幅させて、あのラゴウってやつに餌として献上してやったよ」


「この下郎があぁぁぁぁぁっ⁉︎」


 たった一言で俺の怒りは臨界点を超えた。

 全身を震わせ、デイダラに肉薄。

 さっきよりも乱暴に剣を振るう!


「いいねぇ、いいねぇ。その狂気に満ちた面。潰し甲斐がある!」


 全体重を載せた剣戟だが、デイダラは先程よりも余裕そうにそれを受け流した。

 さっさとこいつを片付けてシンクを助けに行かないとっ⁉︎

 焦る俺の剣筋はさらに苛烈さを増すも、雑になりどんどんと単純なものになっていく。

 そしてついに、


「あらよっと」


「しまっ⁉︎」


 大きく弾かれ、胴をガラ空きにされる。

 弱点となった胸元をデイダラは銀色の刃で突き貫く。


「全く、あんな言葉1つで取り乱すなど暗殺者失格ですわよ‼︎」


 デイダラの短剣が俺の胸を貫く瞬間、周囲の空気が急激に冷え、2人の戦いの間に厚い氷の壁が出現した。

 乱入者の登場をいち早く察知したデイダラは素早く後退。

 氷の壁から距離を取る。


「ひゅ〜あぶねっ」


 命拾いし人心地つくデイダラ。

 そんな彼の前に、金色が舞い降りた。

 ふわりと舞う金髪。

 格好こそいつものゴスロリと違うが、両手には彼女を象徴する炎と氷の双剣が握られている。


「ユキノ! どうして⁉︎」


 撤退を命令されたはずのユキノがなぜかそこにいた。


「最初にいっておきますが、わたくしたち黒き灯火(ネクタル)に仲間を見捨てるという選択肢はありませんので」


「はぁ⁉︎」


 いきなりの告白に唖然とする。

 ってことは……俺、騙された……のか?


「シドの野郎……」


 名演技を魅せたおちゃらけた仲間に軽い恨みを込める。


「っか、なんで金髪なんだよ。黒く染めていたはずだろ?」


「このような事態に備えて携帯用の脱色剤を用意していましたので」


「いや、戦うのに髪の色は関係ないだろ」


「う、うるさいですわ! わたくしの気分の問題ですわ! あぁ、あと、あなたの戦い方はあまりにも無骨過ぎますわ」


「なっ⁉︎」


 照れ隠しついでに指摘される俺。

 なんか釈なんだが……。


「ですので、わたくしの戦い方をしっかり目に焼き付けてくださいな。殺し屋とはどのような戦い方をするのか、いまから教えて差し上げますわ‼︎」


「かっけぇ! なら俺もそんな美少女さんにご教授願おうかなぁ?」


 ユキノがデイダラと対峙する。

 2人の間にバチバチと火花が散る。

 そして、動いた。


 ◆


「ぐへへ、ほらもっと鳴いてみろ。このわたしの舌遣いはサイコーですって」


 よだれを垂らしながら執拗にシンクの肌を舐め続けるラゴウ。

 既にスカートも脱がされ一糸纏わぬ姿とされてしまったシンクは、あまりの快楽に言葉すら失い、ただラゴウの行為を身を委ねていた。


(もう駄目……気持ちよすぎて意識が)


 あまりに屈辱的な事態に自殺を図ろうとするシンクだが、恍惚感に溺れた体は決していうことを聞かず、それどころか肉体はもっと激しいことを求めるようになっていた。


(あたし……こいつに一生ペットとして飼われるんだ)


 悪い妄想がよぎり、最後の抵抗とばかりに赤い瞳から涙をこぼす。

 希望などない、そう諦めたそのとき、


「朧三日月ッ‼︎」


 ガシャン、と鋼鉄の檻が粉砕した。


「なんだ⁉︎」


 シンクへの責めをやめて叫ぶラゴウ。

 振り返った彼の先にいたのは……。


「よぉ〜す、うちの仲間が随分と世話になったみたいでどうも」


 土煙の中から飄々とした口調でシドはラゴウに話しかける。


「き、貴様らなぜここに⁉︎ 見張りの兵はどうした‼︎」


「悪りぃがそいつらは全部喋りもしない肉片になっているぜ」


「ひぃ⁉︎」


 シドの後ろから顔を覗かせるウェスト。

 シンクの状態を確認し、いつもの威圧的な眼をより一層睨ませたウェストの一瞥に腰を抜かすラゴウ。


「シド……ウェスト……」


 2人の仲間の登場に安堵したのか目に光が戻るシンク。


「それよりも俺の仲間を弄びやがって、覚悟はできてるんだろうな?」


 素手で鉄格子を粉々に粉砕しながらラゴウに迫るウェスト。

 その迫力に気圧されたラゴウは、脱兎のごとく駆けて逃走。

 怒りの頂点に達していたウェストは泳がせるつもりであえてラゴウの背を見送る。


「んじゃ、ラゴウの始末は任せたよ、ウェスト」


 ぽん、と肩を叩きターゲットの討伐を押しつけるシド。

 だが、


「待て。おまえが追えシド」


「なんで⁉︎」


「いまのシンクをおまえと一緒していたらなにをしでかすかわからねぇだろ……」


 気迫がまだ残っているせいか、シドを睨む眼まで鋭いウェスト。


「おいおい、信用ねぇな俺……しゃあない、今日のところは譲ってやりますか! あっ、でも勘違いするなよ⁉︎ 俺の本命はロリロリのサクヤちゃんだけだからなぁ!」


 それだけ伝えると、シドは逃亡したラゴウを追って走り出した。


「相変わらずわけがわからないなあいつ……」


 半眼で後ろ髪を掻くウェスト。

 ちらり、と裸でいるシンクを見遣る。

 すぐに両手が拘束されていることに気づき、慌ててその鎖を破壊する。


「ありがとうウェスト」


「礼はいいから、服を着ろ」


 羽織っていたマントをシンクに差し出すウェスト。


「……うん」


 敵に捕まり、純情を弄ばれたシンクはすっかりと意気消沈としていた。

 そんな彼女を見かねたウェストは、つい口を滑らせる。


「いま連理がひとりで戦っているそうだ」


「……行かなきゃ」


「無茶するな。ただでさえボロボロなんだ、大人しくしてろ」


 強引に体を動かすシンクをウェストは宥める。


「駄目……あいつは七影剣のひとりで、ウェスト、あんたと同じ技を使っていた」


「っ⁉︎」


 シンクの言葉にウェストが驚愕した。

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