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episode22〜乱入者〜

 アジトの会議室。

 そこでは、現在潜入中の連理、ユキノ、そして用事があり不在のサヤカを除いた全メンバーが集合していた。


「これが連理から送られてきた護衛兵の巡回構図だ」


 詳細に記されたメモをシドが全員が見やすい角度に提示する。


「俺たちの襲撃予定時刻だと、ここと、ここ。あとはここのポイントに穴がある」


「……その穴を狙って侵入するの?」


「あぁ、予定では巡回中の連理と合流し次第直ちに屋敷にいるラゴウをシンクが狙撃。奇襲部隊である俺とウェスト、メアが確実持ち場で兵士を撃破する、という流れなんだが……」


 ちらり、と会議に参加するシンクを見遣るシド。

 本来であれば全治1ヶ月の怪我を負っているはずのシンクだが、無理を承知でサクヤへと頼み込んで今回の作戦へと参加している。

 誰から見てもいまのシンクの表情を苦痛に歪んでいるのだが、


「なぁ、シンク。やっぱり今回の作戦からは外れた方が……」


「問題ない! それに今回の暗殺ではあたしの遠距離狙撃があった方が有利に進められるわ」


 シドの言葉を遮り、ぴしゃりとシンクが場を制する。

 シンクの語ることは最も正論でこそあるのだが、それでも仲間に死の危険が高い道を歩ませたくないという想いはここにいる誰しもが考えていることである。


(ったく、なんでうちの連中はこうも頑ななのかねぇ)


 強引なシンクにただただ嘆息するシドであった。


 ◆


 漆黒の闇に覆われる雑木林。

 俺は適当な兵士とペアを組まされ、敷地内の巡回を行なっていた。

 指示されたルートだとある程度林の奥まで進まされるので、そこらでこっちも行動を開始する予定である。


「よしっ、異常なしだな」


「そうですね」


 適当に返答しつつ辺りを漂う気配を察知。

 すぐ近く、上かっ!

 視線を頭上に聳える枝に移す。

 すると、木に登るシドが作戦開始の合図を送っていた。


「それじゃあ屋敷に戻るとしよっーーえっ?」


 任務も終わり、踵を返す兵士の首が飛んだ。

 ペアとなる兵士を殺し、周囲に他の兵士の気配がないことを悟ると、俺はすぐさまシドのいる樹木を駆け登る。


「うっし、これで第1段階はクリアだ。おまえはすぐに狙撃ポイントまで移動してシンクの援護を頼むぜ」


 シドが俺用のマントを渡してくれる。


「わかった。遺体の処理は任せた」


 作戦の指揮をするシドの指示を仰ぐと、すぐさまシンクのいるポイントまで急ぐ。

 ちなみに俺の班が襲われたと判明し、片方しか遺体がないと怪しまれるため、シドに遺体の処理をお願いする。


 枝を渡り最短距離でシンクの元へと向かう途中で、俺はマントを羽織り、メガネを外し綿製の眼帯からいつもの布製へと付け替える。


「シンク」


 そしてラゴウの寝室からちょうど真正面の位置にある高台で待機するシンクと落ち合った。


「無事に抜けられたみたいね」


「あぁ。それよりラゴウの様子は?」


 この時間帯。

 作戦ではユキノがラゴウを寝室へと誘導する手筈となっている。

 そうしてのこのこと寝室へとやってきたラゴウの眉間をシンクが撃ち抜き任務完了。

 そういう筋書きとなっている。


「まだよ」


 ゴーグル型の双眼鏡を装着したシンクが、寝室を監視しながら返事をする。

 横顔を伺うだけでわかる。

 無理をしているな、こいつ……。

 歯を必死に食いしばり痛みに耐え、姿勢は常に脊柱を垂直に保つように意識している。


「いまからでも俺が単体で屋敷に潜入する方法に切り替えるべきじゃ……」


「駄目よ! あんたはあたしの側にいなさい。じゃないと、今度はーー」


「みぃつけたぁ⁉︎」


「なっ⁉︎」


 それはいきなりだった。

 気配すら感知させずに忍び寄ってきた男が突然背後から声をかけてきた。

 すぐに俺とシンクはその場を飛んで距離を取る。


「っう!」


 体制を崩したせいかシンクの表情が歪む。


「シンク!」


「あたしの心配はいいから、構えなさい!」


 中距離戦闘用のハンドガンを右手に、シンクが叫ぶ。

 彼女に触発され、すぐに俺は敵を注視する。


「あぎゃぎゃぎゃ、やはり俺の予想は正しかったみたいだな!」


「随分おかしな笑い方をするやつね」


 派手な衣装が特徴的な男は、顎が外れんばかりの勢いで笑っていた。


「先日の護衛部隊襲撃はラゴウ暗殺のための布石。おそらくは警備部隊の補充に便乗して構成員を紛れ込ませて暗殺を狙うって魂胆だろ?」


 俺たちの作戦が読まれているっ⁉︎

 ペラペラと口数多く語るお喋り野郎だが、推理力だけはたしかなものだ。


「俺は、皇帝の騎士(ラウンズ)No.5の専属部隊に所属するデイダラだぁ。おまえたちの野望を砕くために推参致しましたぁ!」


「あんた、古代秘具アーティファクト所有者ね」


「おいおい、俺の華麗な推理アッピルはスルーかよ! っかよぉく俺が古代秘具アーティファクト所有者だってわかったな?」


 ハッタリではなさそうだ。

 シンクは負傷中。

 選択肢はひとつしかない!


「シンク、おまえはここから離れろ! 俺がこいつの相手をしている間にラゴウを……えっ?」


 トンッ、と俺の体が何者かに押された。

 重心の傾いた体は、重みに流されるまま地面のない空中へと放り出される。

 襲いかかる浮遊感。

 すぐに察した。

 シンクが俺を突き飛ばしたのだと。


「やっぱり無理にでも参加して正解だったわね。悪いけどその役目はあんたに任せるわ!」


 シンクの真意を確認する暇も与えられず、俺は緩やかな傾斜を転がりながら下っていく。


 い、一体どういうつもりなんだよあいつ⁉︎


 ◆


「おいおいどういうつもりだぁ? まさか俺相手に味方は邪魔ってか?」


 連理を突き落としたシンクの前で、デイダラが舌を出しながら挑発する。


「あんたごときあたしひとりで充分って意味よ!」


 ガチャリ、とハンドガンを構え、照準定めるシンク。

 2人の距離はおよそ5メートル弱。

 外しようがない。


(一瞬で決着をつける!)


 緊張が走るシンク。

 背中の痛みも酷くなりつつあるため早急に勝敗を決めたいところである。

 だが、


「あ〜あ……しらけちまったな」


 緊迫するシンクとは対照的にデイダラは、ため息を吐き捨てた。

 さっきまでの扇動的な態度とは打って変わり意気消沈とした落ち着いた物言いとなる。


「せっかくあんたを人質にして、あの眼帯野郎を痛めつけてやろうと思っていたのによぉ!」


 ニヤリ、と不敵に笑うデイダラ。

 気味の悪いくらいにほくそ笑むデイダラにさすがのシンクも後退りしてしまう。


「ど、どういう意味よ?」


「でもまぁ、あんたの行動はある意味正解だぜ。犠牲者がおまえひとりに収まったんだからよぉ!」


「っ!」


 刹那、どくんとシンクの心臓が跳ねた。


(なっ、なに?)


 突然の体の異常にわけもわからず立ち尽くすシンク。

 しかし、その異変はやがて肉体を蝕む毒へと変化する。


「なぜならぁ、おめぇはもう俺に負けているんだからよぉ!」


 パチン、と勢いよくデイダラが指を弾く。

 するとみるみるうちにシンクの体が熱を帯びていき、全身に謎の紋様が刻まれ、それが光を放つ。


「なっ、なによこれっ⁉︎」


 叫ぶシンク。

 だが、彼女はすぐにこの刻印の恐ろしさを知ることになる。


「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」


 ビリビリと痺れるような衝撃が全身を穿ち悲鳴をあげるシンク。


(なっ、なにこれ、全身が痛い⁉︎ まるで背中の痛みが体全体に乗り移ったような……)


「あぎゃぎゃぎゃ、俺の古代秘具アーティファクトセンス・アジェバンドはこの手で触れた相手の感覚を支配して増強したり減退させたりすることができるんだぜぇ!」


「なっ、なによその古代秘具アーティファクト⁉︎」


「ちなみにいまのはおめぇの痛覚を何倍にも鋭敏にして、傷口の痛みを全身で感じさせてやったんだが、気に入ったかぁ?」


「心底サイテーな体験だったわよ!」


 感覚が操作され、痛みに敏感になったシンクは全身から冷や汗を流しながら毒吐く。


(いまあたしの体は何倍も痛みを感じやすくなっている……あいつの攻撃を食らった瞬間おそらく昏倒する……ならっ、あいつが動く前に仕留める⁉︎)


 状況からデイダラを速攻で始末しないとまずいと悟り銃を構えるシンク。

 だが、彼女の目に映ったのは予想だにしない光景であった。


「なっ⁉︎」


 腰を落とし構えるデイダラ。

 それは、いままで何十発と近くで見てきたウェストの拳術をそのものであった。

 目を疑うような事態に遭遇し、わずかだが反応に遅れが生じてしまうシンク。

 それが命取りとなった。


「朧三日月ッ‼︎」


 今度は悲鳴すらあげられなかった。

 打ちつけられた箇所から痛みという感覚が荒波のように広がっていき、わずか数瞬にしてすべての感覚がそれに支配される。


「ど、どうして……あんたがその技を……」


 想像を絶する痛みに、目眩すら覚えるシンク。

 ギリギリ意識を保とうと努力するも、人間の限界には逆らえず、そのまま気絶してしまった。


「一応殺さない程度の威力で打ったけど、こいつどうすっかなぁ? そうだ、ここの主人さんはたしか無類の女好きだったなぁ」


 ペロリ、と卑しい舌舐めずりをするデイダラ。

 殺すよりも彼女を傷つける方法を考えついたらしく、唇が大きくニヤつく。

 デイダラは意識を失ったシンクを殺そうとはせず、抱え上げ屋敷の方角へと歩き始める。

 これからシンクが待つであろう地獄を妄想しながら、期待に胸を膨らませていた。

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