episode21〜潜入〜
「さぁて、どうやら事態は俺の推測通りに運んでくれたみたいだぜ」
ラゴウの屋敷襲撃から3日経った昼下がり、会議室へと招集させられた俺、ユキノ、ウェスト、メアの4人にシドが告げる。
「シドの予想した通り、ラゴウは至急護衛兵の補充を行ったわ。その証拠に街中にこんなビラが配られていたわ」
「ちょっ、サクヤちゃん俺の台詞取らないでくださいよ!」
ボスから渡されたビラに4人が一斉に注目する。
そこには簡素な文字で、『急募、屋敷を守る護衛兵募集⁉︎ 報酬は確約します! また、腕っ節に自信のある方も大歓迎です』と書かれている。
「ユキノ、連理は直ちに変装して応募した兵士に扮して屋敷に潜入! 今宵の警護で屋敷内の構造や護衛兵の数を把握。その情報を速やかに伝達。明日の夜ラゴウ暗殺を決行する!」
凛としたボスの声が会議室内に響き渡る。
「「はいっ!」」
下された命令に応じるように俺とユキノは返事。
「ウェスト、メア、シドの3人は明日の夜、屋敷の外から襲撃を仕掛ける奇襲部隊よ。明日に備えて準備を整えておくように」
「ちょっと待った⁉︎」
作戦も纏まり、各々が行動を開始した矢先、甲高い声が会議室を制した。
重たい扉が開かれ、そこから現れたのは……。
「シンクっ⁉︎」
真紅のツインテールをなびかせながら悠然とボスの元まで歩いて行くのは、紛いもなくシンク本人だった。
「療養中の身じゃないのか、おまえ」
思わずそう尋ねるも、シンクは答えない。
無言のままボスの前へと歩み寄り、
「あたしもその作戦に加えてください!」
とんでもないことをお願いしたのだった。
◆
「本当にこんな変装で大丈夫なのか?」
ラゴウの屋敷へと続く林道。
並んで歩くユキノに念のため意見を仰ぐ。
俺の格好はユキノに貰った服装からオラシオンの街ではよく見かける私服にチェンジし、伊達メガネをしただけの簡素な変装だった。
ちなみに隻眼なのは、医療用の眼帯をつけて、ものもらいということで誤魔化すつもりだ。
「この前の襲撃の際きちんとフードを被っていたのならバレることはないでしょうから問題はないでしょう。それよりも、わたくしは髪まで染める必要ありました?」
ユキノは豪奢な金色の髪をスプレーで真っ黒に染めており、格好もお気に入りのロリータドレスから地味な私服へと変更していた。
「いや、金髪じゃ目立ちすぎるだろ」
「うぅ……髪が痛むのであまりスプレーは使いたくないのですわよね」
変装に対して不満を漏らすユキノ。
そんな風に2人して話しているといつの間にかお屋敷の玄関口まで着いていた。
「止まれ! おまえたち何者だ⁉︎」
勿論玄関には護衛の兵士が槍を携え警備しており、正面から突入しようと試みる俺たちを検問にかける。
「わたく……わたしたちはこのビラを見てラゴウ様にお仕えようと来た者なのですが…
…」
「ほほう……わたしの屋敷に仕えたいと」
「ラゴウ様⁉︎」
ラゴウッ⁉︎
いつからか、見張りの兵士の隣にラゴウが現れた。
敬礼する兵士を横目に、俺とユキノを品定めするかのように視察するラゴウ。
本当ならいますぐにでもこいつの首を刎ねてやりたいが、きちんと練った作戦を台無しにするわけにもいかないのでぐっと堪える。
「ふむっ、女の方は中々の上物だな」
「あはは、ありがとうございます」
シドの情報通り。
ラゴウは若い女性を好み気に入られれば戦闘の経験がなくともお供として側に置く。
だからこそ演技もでき、可愛いユキノが今回の潜入役として抜擢された。
上々に流れればすぐに屋敷の中枢まで侵入でき、情報を奪取できるからだ。
ユキノも愛想笑いを浮かべながらキモいおっさんの執拗な視線に耐えている。
一方俺はというと……。
「それで、そこの男。おまえは本当に腕っ節に自信があるのか? 見た所ただ若いだけのガキだが?」
男性には厳しく、実力をきちんと証明しなければ認められないとの情報も入手済みだ。
「えぇ、それはもう……」
「なっ⁉︎」
軽く力を解放。
一気に戦闘モードへと己を切り替え、油断した兵士の襟首を掴み、投げ飛ばす。
唖然とする兵士とラゴウ。
移動から攻撃までがほんの数秒で起こればそんな反応になるだろう。
「どうですか、ラゴウ様。このわたしの腕前は? きっとあなた様を狙う俗物からわたしがお守り致します」
「いいだろう。2人とも採用だ」
どうやら第1関門は無事に突破したようだ。
◆
採用された俺とユキノは早速別々にされた。
ラゴウはお気に入りであるユキノを独占しようと個室へと連れて行き、俺は護衛兵が集まる部屋へと案内される。
そこには30名ほどの兵士がおり、前触れもなく新参者として現れた俺を興味深そうに見つめていた。
「今日からラゴウ様の護衛に加わる者だ! 早速自己紹介をしてもらおう」
お付きの兵士がこの場を指揮し、俺に役目を与える。
今日明日限りの付き合いにはなるが、当たり障りのない紹介はしておこう。
「レンです。よろしくお願いします」
丁寧なキャラで採用を貰っているため、腰を折って挨拶をする。
もちろん本名を無闇に晒すような真似はしないので偽名を通す。
むしろこっちの世界の苗字のある本名を名乗るより警戒されにくいだろう。
一応は歓迎されたのかまばらながら拍手が送られる。
「早速レンも交えた警備の配置確認を行う。おまえも適当に席につけ」
「わかりました」
促されるまま席について作戦会議を受ける。
こちらもシドが予測したように、警備の配置図が各々に配られ、簡単に巡回の経路を把握することができた。
あとは、これを夜の巡回のときに隙をみてシドに報告するだけだな。
……そういえばユキノは大丈夫なのか?
古代秘具も装備しているようだし、いざとなれば自力でなんとかするだろうけど……。
ラゴウの野郎がいかがわしいやつであると間違いないので少しばかり心配になる。
これが杞憂に終わればいいんだけどな……。
◆
一方で、ラゴウの自室へと連れて行かれたユキノは……。
「あの、ラゴウ様。そういったスキンシップは困るのですが」
べったりと体を密着させられるユキノは、体の至る所を弄られていた。
「いいじゃないか、わたしは国でも有名な資産家だぞ? わたしの物になれば一生裕福な暮らしが送れるんだぜ?」
「それは有難い申し出ですが、いきなりはまだ心の準備が……」
(って、どうしてわたくしがこんな気色悪い親父に変態されているんですの⁉︎ 作戦なんて関係なしにぶっ殺してやりたいですわ! 本当に⁉︎)
内心に宿す激しい怒りを制御しながら必死に逃げ道を探すユキノ。
しかし、ラゴウのセクハラは止まることを知らずついにスカートの中の太ももにまで手が伸びてきた。
「ひゃあ⁉︎」
突然敏感な部分を触られ、官能的な悲鳴をあげるユキノ。
嫌悪感から鳥肌が立つユキノだが、ここで殴ればすべてが水の泡になると我慢する。
「おぉ、随分色っぽい悲鳴をあげるじゃないか。もっとその声聞かせろよ……」
ラゴウはさらに太ももから上へ。
ユキノの大切な箇所へと汚い指を這わせる。
「ひゃっ……やめっ」
「ラゴウ様、来客がお見えになりました」
と、そんなラゴウの横暴をひとりのメイドが破る。
「そうか。残念だけど続きはまた今度だ。あーそこの君、この子に似合うメイド服をすぐさま手配してくれ」
「かしこまりました」
ラゴウはそれだけ伝言すると、退散する。
執拗なまでのセクハラから逃れたユキノは内心ホッと胸を撫で下ろす。
(た、助かりましたわ……まったく潜入というのも楽ではありませんわね)
己の運の悪さを呪いながら、早く明日の作戦決行まで時間が進めと祈るユキノであった。




