episode2〜絶望と覚醒〜
「ちっ……テメェ」
腕を吹っ飛ばされたと同時に武器である鎌も落としてしまったため、パーカー男は無防備な状態となる。
多量の血を失っているため立つことさえも危ういのか、窓を壁にしてようやく身を起こしている。
いまのうちに、殺す!
俺は照準をやつの胸元へと合わせると躊躇なくトリガーを――
殺気⁉︎
紙一重で背後から斬りつけてくる剣を避ける。
こいつ、さっき宏人を殺したやつか!
すぐさまパーカー男の排除を断念してターゲットを兵服の男に変更する。
照準を定め引き金を引く。
俺の放った弾丸は軌道が読まれていたのか剣の腹でガードされてしまう。
が、俺の弾丸はその厚い剣腹を意図もたやすく貫通し、男の胸元を穿った。
これで邪魔な護衛は片付いた……。
「次はテメェの番だ」
宏人の仇を討ったところで、紫苑を殺したパーカー野郎に銃口を向ける。
その距離ほんの数メートル。
避けられる距離ではない。
「へっ、おもしれぇ……おもしれぇ状況になってきたじゃねぇか!」
「この状況でも随分と余裕そうだな」
「あぁ、俺はただ一方的な殺戮ゲームだけじゃ飽きてきていたころでよぉ。こういう命の賭け引きをした勝負ってやつをずっとしたかったんだ」
「ちっ、狂ってやがるなテメェ」
「テメェもな。いまの自分の面をよぉく見てみろよ。俺様を殺したいという欲望が滲み出ていて良い具合に真っ黒に染まってやがるぜ」
追い詰められているはずなのに、なおも挑発的な態度を改めないパーカー男。
関係ない。
俺はこいつさえ殺せればそれでいい。
「紫苑、いますぐおまえの仇を討つからな」
ゆっくりと、定めた照準がブレないように俺は――
「困りますね。皇帝の騎士ともあろうあなたがこんな一般人に殺されるだ、なんて」
「誰だっ、ぐっ、がぁっ!」
突如何者かの声が聞こえたかと思うと、振り返る暇もなく凄まじい衝撃が体を襲い教室の隅まで吹き飛ばされてしまう。
な、なんだいまのは!
痛みに顔を歪めながら俺はさっきまで自分のいた場所に視線を移す。
するとそこには、一際目立つ豪奢な軍服を着た長身の男が立っていた。
首元には変な飾りをしたネックレスが下げられており、両手は真っ白な手袋で覆われている。
男は心底不機嫌そうにメガネのズレを直す。
「わたしは皇帝の騎士No.6のエイスと申します。以後お見知り置きを」
丁寧に腰を折って執事のような挨拶をするエイス。
「邪魔するんじゃねぇ。俺はテメェの後ろにいるクソ野郎に用があるんだ!」
全身が痛むが、それでも無理を承知で吠え逆らう。
俺はエイスに照準を定め銃を構える。
「撃つぞ」
鋭く睨むも、エイスは狼狽える様子はない。
こいつ……殺さないとマズイな。
さっき殺した男とはオーラが違う……強敵だ。
俺の直感がそう語る。
「やれるものならどうぞご自由に。あなたではわたしを決して殺せはしませんから」
口調こそ冷ややかであったが、こちらを挑発するエイス。
俺はその発言に乗っかるように黒銃の引き金を引いた。
銃口から放たれる光の弾丸は一直線にエイスの胸元目掛けて突き進む。
だが、
「なっ!」
一瞬、メガネの奥にある瞳が淡く輝いたかと思うと、俺の放った弾丸は彼からほんの数センチだけズレた位置に着弾していた。
は、外した⁉
どういうことだ……。
エイスが弾丸を躱す素振りは一切なかった。
俺も狙いが外れた様子はない。
なのに攻撃は命中していない。
「言ったはずです。あなたにわたしは殺せないと!」
「ぐあっ⁉︎」
またしても体に衝撃が襲いかかってきた。
くそっ、一体全体なにが起こっているんだよ!
今度は教室の壁を破壊し、廊下まで吹っ飛ばされてしまう。
一体なんなんだあいつの攻撃は⁉︎
一歩も動かずに俺を攻撃している……。
「それに、チェックメイトです」
「ちっ……」
すぐさま態勢を立て直しエイスに突進、しようと思ったら矢先に俺の体は止まる。
「いつの間に……」
俺は武装した兵服の男に取り囲まれ、身動きが取れない状態になっていた。
あの一撃で罠に誘導したってことか?
「ふぅ、あとは部下に任せておけば大丈夫でしょう。ほら、とっととそれを持って帰りなさい」
エイスは俺の動きを封じたことを確認すると、落ちていた鎌を拾い上げてそれをパーカー男に投げつける。
「その腕ではもうこの地区の制圧は難しいでしょう。あとはわたしの方で終わらせますので、あなたは上に報告でもしてきてください」
「あぁん? 誰に生意気な口聞いてっと思ってんだテメェ」
パーカー男がエイスを胸倉を掴む。
だが、エイスはそんな威嚇にも怯むことなく冷静に言葉を続ける。
「適切な状況判断の結果です。それに、あなたよりもわたしの実力の方が上ですから」
「ちっ、今回ばかりは譲ってやるよ」
あの野郎、逃げるつもりか⁉︎
「待ちやがれ‼︎」
素早く包囲する集団の様子を伺う。
全員視線こそ俺を捉えているものの注意は負傷したパーカー男へと向いている。
そう脳が判断を下した瞬間、筋肉を一気に爆発させる。
俺を包囲する男たちの足を刈り取り、比較的遠くにいる者を銃で撃ち殺す。
包囲体制が崩れたところで、地面を蹴りパーカー男へ向かって疾走する。
「おいっ、テメェ。俺様は皇帝の騎士No.7の白き死神ザンだ! この俺様の右腕を吹っ飛ばした借りはいずれ返してやるから覚悟しておけよ。じゃあな!」
残った左腕で鎌を突きつけながら、ザンが宣言する。
「逃すかぁ⁉︎」
窓から飛び降りようとするザンの胸元に照準を合わせる。
ある程度照準が定まったところですぐさま発砲。
だが、結果は――
「物分かりの悪い人ですね。わたしがいる限りあなたに自由はありません」
「ぐあっ!」
銃が火を噴くほんの数秒前、またしても目で見えない衝撃が腹部に襲い攻撃が途中で遮断されてしまう。
「それではわたしは制圧に向かいますので、その者の処理は任せましたよ」
やられた痛みに怯んでいるうちに再び俺は武装集団に包囲されてしまう。
「くそっ、テメェら! 待てっ‼︎」
俺の言葉も虚しく、ザンに続きエイスも窓から飛び降りてしまう。
気配が完全に消える。
逃げられた。
そんな事実を理解するのに数秒と要さなかった。
「追いかけなきゃ……」
邪魔させやしない。
俺はこいつらをすべてぶっ殺してでも、あのニヤけたパーカー野郎を追いかけてやる!
兵服の男の刃が襲いかかる。
だが、俺は酷く冷静にその状況を分析し、最初の一撃を銃で受け止める。
「なにっ⁉︎」
「俺は、あいつを殺すんだよ……紫苑を殺したあいつを殺すんだよ」
他の男が槍を持って刺しにかかる。
それを気配だけで回避すると、勢い余って突進した男は槍を味方に突き刺してしまう。
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
兵服の男の叫びが教室に響く。
死ねるかよ……。
銃で受け止めた剣を弾き、ガラ空きの胴体に一発撃ち込む。
これで2人片付いた。
だが、集団で俺を取り囲む連中は一旦距離を置いて、こちらの様子を伺い出す。
ざっと見た感じ、敵の数は20人ほど。
普通に考えれば殺されるのは明白。
だが、俺はたったひとつの目的が柱となりこの状況でも諦めるという選択肢を生まない。
白き死神を殺す!
俺は復讐者だ。
「こんなところで死ねねぇんだよ!」
俺は黒銃を構えて、敵の集団に突撃した。
◇
天の丘高校の屋上。
昼間の太陽の明るさからは悪目立ちする漆黒のマントに身を包んだ少女の赤い瞳が、エイスらしき影が校舎から飛び降りる様を見下ろしていた。
「……」
風になびく赤いツインテール。
少女はなにも語らず、ただ敵の行く末を見守っている。
その両手には簡素なデザインの銃が握られている。
「面倒なことになったわね……情報では皇帝の騎士のNo.7のみが来るって言ってたけど、まさかNo.6までも参戦しているなんて」
言葉を発した少女の目は、忌々しい現実を直視していた。
「これは、応援を呼んだ方がいいわね」
素早く状況を判断し、後退する少女。
しかし、あることに気がつくとその足を止めた。
「建物内が騒がしいわね……兵隊がまだいるようね。それにまだ誰かが逃げている。ここの生徒が追われているのなら助けないと」
少女は校舎内を走る微かな足音も少女は聞き漏らさず、神経を研ぎ澄まし臨戦態勢を整える。
屋上の出入り口を蹴破り、校舎内に侵入。
兵隊に追われている生徒の救出を目標として動き出したのだった。