episode16〜黒き灯火《ネクタル》〜
第2章開幕記念のゲリラ投稿です!
「さて、まずはこの世界の情勢、大帝国オラシオンの現状から語るとしましょうか」
議長席に腰を据えたボス。
そんな彼女の口から最初に語られたのは、あの悪夢を指示した国についてだった。
「単刀直入にいうと、いまのオラシオンの政治は腐敗している」
「腐敗している? どういう意味だ?」
「偽りの名目を掲げた悪徳国家という意味よ」
「オラシオンは、表向きはすべての民に平等な暮らしを分け与えるという名目のもと国の政治は統制されているが、実際は非合法的な行いすら厭わない残虐国家てことだ」
ボスに続く形でシドが補足に入る。
残虐国家……ザンの行いを見ていればその言葉が意味することは大体想像がつく。
「具体的には裕福な暮らしをしている層はほんの一握りで、それ以外は国の保護すらされず、挙句には富豪の玩具のように扱われているなんて事例は山のように聞く」
「それじゃあいつか民衆の怒りが爆発するんじゃ……」
「ところが国もそんな馬鹿じゃない。表向きは平等な法律が設けられているものの、裏では名声のある者にのみ合法的に迷惑な輩を抹殺してもよいという違法行為を唆し、それを黙認する」
「そんな理不尽によって国の意向に逆らう者は次々と抹消され、それが反乱する住民に噂として拡散され、ものの見事に反乱を抑える抑止力として働いたってわけだ」
「つまりこの国で力のない者が生きていくためには否が応でもこの国の意向を支援するしかないというわけか」
「あら、察しがいいわね」
そんな風に上層部の者が一方的な支配権を持っていたら、すぐに権力に溺れやつらは天狗になっていく。
それが積み重なり厳しい支配体制が完成する。
憎たらしいまでに合理的で華麗な筋書きだ。
最初にこれを企てたやつはどこまで策士なんだ……。
「権力を得た富豪供はどんどんと肥えていき、逆に力なくして勇敢にも国に宣戦布告した連中はどんどんと飢えていき、やがて国へと反逆する勢力は弱まっていった結果がいまのオラシオンだ」
「だけど、オラシオンの真の目的は国を己の色に染め上げ腐敗させることとは別にあったのよ」
「っう⁉︎」
ここまでの事象をすべて覆すようなとんでもない事実に思わず息を詰まらせてしまう。
いや……冷静になれ。
よくよく考えてみればその目的というものが俺もよく知るたったひとつの事象に絞られてくるじゃないか!
「それこそが連理、あなたの巻き込まれた侵略戦争よ」
やはり、それか!
「オラシオンは、表世界がこちらの世界を支配しようと企てているという偽の情報を国に流し、民衆たちから資金を集め、軍を表世界へと派遣しているのよ」
ギリッ、と奥歯を噛み締める。
非合法な手段で民衆を弾圧し、挙句の果てに騙しなんの力も持たない平和だった俺の世界を好き勝手に蹂躙した。
その事実式が脳内で組み立てられた瞬間、沸点が一気に上昇。
怒りというマグマに感情が支配され、殺戮衝動のようなものに身が侵されていく。
「くそがっ!」
あまりの衝動に感情の自制を失っていくのを自覚した俺はすぐに怒りを爆発させ、テーブルを殴った。
噴火寸前だった感情の嵐は、捌け口ができたことでそちらへと逃げていき、ギリギリのところで平静を保つことに成功する。
「はぁはぁ……」
「随分と取り乱したみたいだけど無事かしら?」
いきなり机を殴ったにも関わらず冷静さを欠く素振りのないボスとシド。
「驚かない、のか?」
「どうして? あなたの境遇を鑑みればあんな事実を知った時点で怒りを堪えられなくなるのは当然でしょ? むしろよくその怒りをうまく吐き出して冷静さを取り戻したわね」
「そうか……悪い、話の邪魔をして。続けてくれ」
突然の肯定にどう反応したらいいのかわからず、とりあえず中断してしまった会話を流す。
「そうやって帝国はどんどんと表世界へと侵略戦争を仕掛けていき、既に6つの地区を壊滅に追い込んだわ」
「6つ! 俺の住んでいた街以外にも5つも襲われているのか‼︎ そんな馬鹿な! あんな派手に街ひとつが焼き払うような大惨事になっているのにニュース報道人が世間帯に公表していないなんておかしいだろ⁉︎」
「なにもおかしいことじゃないわ。古代秘具の力を使えばそういった事実を無効にすることだって可能なのよ」
「……嘘だろ」
にわかには信じられないが、なにもないところに銃を召喚したり、人に嘘の事実を与えたり、と古代秘具の持つ力は次元ひとつ超えている。
それはもう身を持って体感したことであり、ボスの語ることに現実味を帯びさせている。
「調査班からの情報によると、壊滅させられた地区からそう遠く離れていない地区の住民はみな口を揃えて、壊滅させられた地区など存在しないと語っていたそうよ」
「それって……」
「記憶からの抹消されているとみてまず間違いないでしょうね。聞いた話では、オラシオンが派遣した軍の中には人間の記憶を操作する古代秘具所有者がいて、そいつが騒動を抑制するために支配した地区の情報を抹消しているのではないかと私たちは推測しているわ」
たしかにその理屈だと、ニュースとかで報道されない訳に説明がつく……。
「それじゃあ俺の世界はなにも知らないまま次々に蹂躙され、支配されていくってことか?」
「えぇ、その通りよ」
「ふざけるな!」
相手違いなのは重々承知しているが、怒りを堪えきれずについボスへと叫んでしまった。
「あなたのいう通りよ。たとえどんな理由があろうと無力な人を殺しその土地を支配するなんてあってはならないこと」
「あぁ……」
ボスが冷静でいてくれるおかげなのか、またしてもすぐに矛を収めることができた。
冷えた頭で考え、一番重要な論点を導く。
「なぁ、この計画を指揮しているやつは一体誰なんだ?」
すべての元凶。
そいつを叩くことがあの地獄を繰り返させない一番の近道だと俺は悟る。
「皇帝様だよ」
シドが答えた。
「皇帝?」
「丘の上から馬鹿でかいお城が見えただろ? あそこの玉座に踏ん反り返っているお偉いさんがこの事態を作った元凶さ」
「皇帝、つまり王様だろ……独裁政治ってやつか」
「まぁ、そんなとこだな。すべては皇帝様の御心のまま、人の闇を肥えらせ、内部分裂を誘発。逆らう民主は始末し、反乱の意を削ぐ。そして最終的には民主の支持を集めた後に悪を成敗するという名目で堂々と他世界を侵略する。できた筋書きだろ?」
「随分と用意周到だな。あまりに精巧すぎてわざと破壊してやりたくなるな」
「おっ、いい心掛けじゃん!」
「私たちの目的もいまのあなたの発言と同じく、用心深く練られたシナリオをぶっ壊すことにあるのよ」
俺の一言に賛同の意思を示すボスとシド。
「民衆を弾圧する肥えた富豪やそんな違法を嬉々として許す帝国軍を裏で処理しつつ、なおかつ表世界へと侵略したあいつらをあちらの世界で始末する」
「闇の中で闇を裁く! それが私たち黒き灯火の真髄よ。皇帝への不満はいまピークに達しようとしている。この期に乗じて私たちはクーデターを起こす!」
「クーデターだと……」
「民衆の不満は爆発寸前だ。俺たちがそれを抑圧するやつらさえ始末しちまえば、自ずとクーデターは発生するというわけだ」
「いまはまだ、軍の勢力が強くて民衆の反乱なんて力で鎮圧できるでしょうけど、私たちが軍の主力を裏でどんどんと削いでいったらどうなるかしら?」
「いずれは軍の力が民衆に劣る!」
「ご名答! そして既にその戦いの幕は切って落とされているのよ」
「どういう意味だ?」
「既に軍の主戦力のひとりを殺ったって意味だ」
「なっ、一体誰がそんなことを……」
「あなたよ」
驚く俺にボスが指を突き示した。
「お、俺がっ⁉︎」
「あなたがあちらの世界で殺した深淵なる者、エイスこそ皇帝の所有する最大兵力、皇帝の騎士のひとりなのよ」
そういえば、エイスも自分のことを皇帝の騎士と名乗っていたような……。
「皇帝の騎士とは、オラシオンの皇帝が認めた12人の古代秘具所有者で構成される、特殊組織で、その一人一人が軍一個並みの戦力を有しているとまで謳われている化け物揃いな集団だ」
「おいっ、ちょっと待て。まさか紫苑の仇のザンも……」
「あぁ、あいつも皇帝の騎士のひとりで、序列はNo.7だぜ」
好都合だ。
組織で狙っているターゲットに復讐の相手がいるなら、戦いを重ねていけば自然とあいつと討ち合う日がくるってことだ。
「そんな化け物集団のNo.6であるエイスをあなたは倒した。これは大いな進展よ」
あの勝利にあそこまで大きな意味合いがあるとは思いもしてなかった。
結果的には敵の主戦力を刺激し、よりあいつが動きやすい状況を作ったってわけだ。
「詳しい内容は追々説明していくとして、ここまで駆け足ではあるけど現状を説明したけど、どうかしら? 戦う決心は鈍らなかったかしら?」
おそらく、いまここで引き返せば俺の命は保証される。
きっとそんな意味合いでボスは俺にそう尋ねてきたんだろう。
だけど、俺には既に迷いはない!
どう転んだとしても、この先どんな地獄が待ち構えていようと、突き進む!
たとえ刺し違えてでもあいつを殺す‼︎
「俺は必ずあいつを殺す! それだけは揺るぐことはない‼︎」
俺の宣言にボスの唇の端が吊りあがる。
「良い返事ね。ようこそ、地獄の入り口へ。歓迎するわ雨宮連理!」
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