episode15〜もう一つの世界〜
未だ痛みの抜けない体に鞭を打ちながらシンクたちと同じ黒マントを羽織り、シドに案内されるまま校舎の屋上へと移動する。
重傷を負っているのかシンクはユキノに支えられながら歩いている。
「おいっ、いまから裏世界に案内してくれるんじゃないのか?」
謎に屋上へと案内するシドを半ば睨みながら詰問する。
「まぁまぁ、慌てなさんなって。いまからきちんと連れてってやりますから」
俺の厳しい視線にも怯むことなく、シドは不敵に笑っていた。
こいつ、どこか読めないな……。
「……随分と早いお帰りですね、シド」
「誰だっ!」
突然、背中から声がかかる。
気配もなく背後から忍び寄ってきたのか!
俺はすぐさま戦闘モードへと思考を切り替えようとしたするが、それを無視してシドが一歩前に出た。
「今回はイレギュラーが多発してな。早速で悪りぃけどゲートを開いてくれないか?」
シドと会話するのは彼と同じマントに素顔を覆い隠した小柄な女性だった。
「彼女はマヤ。見ての通り正体はトップシークレットだが、黒き灯火と協力関係を結んだ立派な仲間だ」
「……よろしく」
「あぁ……」
フードで素顔を隠しているため年齢や性別といった情報は予想もできないが、紹介にあったとおり女性であることは間違いないだろう。
「彼女の持つ古代秘具には空間を移動する力があって、特異点さえ見つければこっちの世界と裏世界を行き来することができる優れものなんだぜ」
「……それで、あなたは?」
マヤの注意がシドから俺へと変わる。
ちゃんと顔を見れているのか、フードを外さないまま俺に身を寄せて観察する。
「雨宮連理だ」
「今日から俺たちの仲間になる予定だからそこんとこよろしく」
無愛想な俺のフォローなのか、シドが肩に腕を回しながらマヤに補足する。
「っ……⁉︎」
親しみの込めたシドの行為だったが、不幸にも俺の今朝の記憶を呼び覚ますきっかけとなってしまった。
今朝宏人が行ったこととまったく同じ行為。
もう2度と戻ってこないあの日常。
例え俺の中に芽生えたこの黒い感情を解消しようとも、あの日常をもう一度送るなんてことはできない。
「……あなた。泣いてるの?」
マヤに指摘され、俺は目元が暖かくなっているのを自覚した。
またかよ。
俺はまた泣いているのかよ。
「おい、連理。大丈夫か?」
「……悪い、ちょっと目にゴミが入った」
ゴシゴシと目元を拭い、必死に涙を隠す。
「連理……」
ぽつり、とユキノに支えられるシンクがなにかいいたげに呟いたのを俺は感じた。
だが、いまはそこに触れる必要もないと判断しすぐさまシドとマヤに向き直る。
「それよりも早く裏世界に案内してくれ」
「……わかった。みんな私の周りに」
マヤの指示通り、俺たちは彼女の近くに寄せ集まる。
一定の位置についたところで、マヤは手首に装着されたブレスレットをかざす。
刹那、眩い光が俺たちを包み込み、世界が一瞬にして変わる。
「ここは?」
「お待ちかねの裏世界だぜ」
視界が晴れ、目を開けるとそこには校舎の屋上とは似ても似つかない、まったく別の世界が広がっていた。
広大な森林が一望できる高台。
その先には一際明るく光る巨大な都市があった。
「ここが、もう一つの世界」
感慨深い光景に無意識に言葉が漏れる。
遠巻きからでもわかる俺の住んでいた世界とはまったく異なる街並み。
街の構造や建物の素材、そのすべてが俺のいた時代の文化に当てはまらない。
都市の中央には巨大なお城が聳え立っており圧倒的な存在感を放っている。
「ここに、あいつがいる!」
グッと拳を強く握る。
そう理解した途端自分の体の制御が効かなくなっていくのを感じた。
いますぐにでもやつを殺したい。
殺して紫苑の仇を討ちたい!
そんな欲望だけに思考が支配されていく。
「おいおい、街をうろつくのはちょっと待ってくれねぇか。先に俺たちのアジトを案内しておかねぇと帰ることができなくなるぜ」
「アジト? あそこにある街にあるんじゃないのか?」
「ばぁか、俺たちはあそこの街に反乱を企てる組織だぞ。そう易々と敵の本拠地に拠点を構えられるかよ」
そういって、シドは街のある方角とは反対の方向を指差す。
そのまま示した方角にある森を進んでいく。
「いきますわよ」
ユキノもそれに続き森に入る。
「……あぁ」
俺もとりあえずは黙って従う。
そういえばこっちにきてからマヤの姿が見えなくなったな。
どこにいったんだ?
そんな素朴な疑問を感じつつ、俺は森林を抜けるのだった。
◆
転移した場所よりもさらに高度な位置にその建物はあった。
長い木を利用し、下降にある都市からちょうど死角となるところに設置された屋敷のような風貌をした建物。
あまり縁のなかった建造物に興味が湧き、ついつい我先にとシドを押し退け入口の扉に手をかけてしまう。
だが、俺が手をかけようとした途端、ガラガラとひとりでに扉が開き、中から小柄な影が現れた。
「ようこそ、私たち黒き灯火のアジトへ」
出迎えてくれたのは、小さな女の子だった。
長い黒髪を頭のてっぺんの高さで結ってツインテールとし、ゴシック調のロリータドレスコスチュームの可愛らしい幼子がアジトから登場した。
一瞬なぜ、子供がここに?
などという疑問がよぎったが、すぐにそれは掻き消される。
小柄な体格の割にどこか大人びた雰囲気を持っており、それどころか全身から溢れるオーラのようなものがここにいる誰よりも強力で禍々しく、とてもじゃないが普通の子供には思えなかった。
「全員無事、というわけではないようね。シンクが負傷かしら」
「すみません」
「気に病むことではないわ。命を失わなかっただけでも上出来よ」
ロリ少女はシンクを叱責することなく、むしろ生きていることを褒める。
「サクヤちゃ〜ん、ただいまぁ⁉︎」
「えっ?」
「ごふっ!」
一瞬、なにが起こったかわからなかった。
突然俺の後ろからシドがいままでに見せたこともないおかしなテンションでロリ少女に抱きつこうとして、拳一つで迎撃され沈黙させられた。
「あなたはほんと懲りないわね」
嘆息するロリ少女。
マジで何者なんだこの子。
「それで、そこのあなたが雨宮連理くんね。先に戻ったウェストから話は聞いてるわ。私はサクヤ、この黒き灯火の組織を纏めるボスよ。よろしく」
「……あぁ、こちらこそ」
オーラこそあるものの懐疑的になった心は拭えず、若干戸惑い気味な返事をしてしまう。
「心中はお察ししているわ。外で立ち話もなんだから積もる話はまた改めて中でしましょう。ユキノ、あなたはシンクの看病をお願い。そこで寝ている阿保は私と一緒にきなさい」
「わかりましたわ」
「了解っと」
復活したっ⁉︎
何事もなかったかのようにケロッとしているシド。
「まったく手厳しいなぁサクヤちゃんは。ちょっとしたスキンシップじゃないか」
「あら、あわよくばお持ち帰りして食べてしまおうなどというやましい考えの孕んだ抱擁のどこがちょっとしたスキンシップなのかしら? 説明してもらえるかしらロリコンさん」
「ちょっ、新入りにあんまり変な印象植え付けるのやめてもらえませんか」
「自業自得ですわね」
「ユキノちゃんも容赦ないなぁ」
ただの談笑をしているのか?
普通の友達みたいな感覚のふざけた会話を。
俺が宏人とやっていたあれを……。
「連理、あんた」
ふとシンクがなにかを察したのか赤い瞳を揺らしながら俺を呼ぶ。
「……ごめん」
しかし、それ以上はなにも語らず、言葉を飲んでしまった。
俺もそれについて追求するような真似をせずにただただ時間の流れに身を委ねるのだった。
◆
シンクとユキノと別れ、シドと一緒にボスに案内されるまま広い通路を歩く。
しばらくして、会議室とプレートのかかった大広間に通され、その中心に設置された会議用の長テーブルの司会者席にボスは腰掛ける。
シドも特に指示されるわけではなく、自然とテーブルに備えられた椅子に腰を下ろす。
俺もそれに習い、シドの隣の椅子に腰を据えた。
「改めて、黒き灯火を指揮するサクヤよ、よろしく」
「こちらこそ」
「もうあなたのいた世界になにが起こったか粗方説明は受けているわよね?」
黙って頷き肯定を表明する。
「なら私の口からはこっちの裏世界と呼ばれる世界の素性である、大帝国オラシオンとそれに対抗する私たち黒き灯火について話をさせてもらうわね」
◆
アジトの二階。
ここは基本的に黒き灯火のメンバーひとりひとりの寝室が設けられているいわば寄宿スペースである。
シンクはユキノに体を労わられながらなんとか自室へと戻りそのベッドに腰掛け人心地ついた。
「ふぅ……助かったわユキノ。ありがとう」
「例には及びませんわ。それよりもあなたさっきからずっと暗い顔していますけどなにかありまして?」
ユキノは気づいていた、いやきっとシドやマヤもシンクの感情の変化を察知していただろう。
連理がエイスを倒し、彼の処遇をどのようなものにするか、あの場にいたメンバー全員で考えていたあたりからずっとシンクの表情は浮かなかった。
「まさかあなた、あのことを気にしていますの?」
それは、シンクの過去。
彼女がまだ黒き灯火に加入してすぐに直面した事件を意味していた。
「いっておきますが、わたくしたちには人を殺める力はあっても救う力はない。あちらの世界のことだって結果的に人を守っているだけであって本質はあくまで人助けにあらず。それはあなただって重々承知しているはずですわ」
励ましとは到底思えない不器用なエール。
要約すると気にするな、ということなのだろうがシンクの胸に刺さる棘はそんな簡単には抜けなかった。
「あたしだってわかっているわよ……でも、あたしの到着がもう少し早かったら連理、あいつの恋人の命を繋げられていたかもしれない……」
戦いの時は、連理の命もかかっていることがあって後悔を忘れられていたが、いざ戦場から降りると自責の念に駆られてしまう。
「あなたも大概ですわね……とりあえずいまはその体を完治させるために療養なさい。話は満足に動けるようになってからいくらでも聞いて差し上げますわ」
そういってユキノは部屋を後にする。
残されたシンクは、ぐっと拳を握り締めながら横になり、作ったばかりの拳を天井に掲げてみせる。
「例えあたしたちは殺すことしかできなくても、救う方法はある……あの時の約束、必ず守ってみせるから」
洋服の襟元から落ちる銀色のペンダント。
シンクはこのペンダントに誓った。
必ず……すべての人々を守ってみせる、と。
あんな悲劇を二度と繰り返させない、と。
昨日ぶりです!
作者のゆう@まるです
今回も絶望トリガーをお読みいただき誠にありがとうございます!
等々わたくしの作品にも感想がつきました!
無茶苦茶嬉しいです!
そんな感激に浸っている間についに開始されました第2章!
いよいよ世界が変わり、連理の戦いも本格的に動き出してきます!
そんな第2章ですが、投稿ペースも変わらずにいきたいと思いますので皆様お付き合いください。
最後になりましたが面白ければブクマ、評価、感想等よろしくお願い致します!
小説家になろう勝手にランキングにも登録しています、潔き一票をよろしくお願い致します




