episode14〜覚悟〜
「お〜い、連理? ねぇ、連理ってば!」
「……んっ?」
ゆさゆさと肩を揺さぶられ微睡みの中にあった意識が徐々に覚醒していく。
目を開けるとそこには、膨れっ面の紫苑とケラケラと笑う宏人の顔があった。
「おはよう、もう授業終わっちゃったよ。連理」
「あ〜……悪い。寝落ちしてた」
「だろうなもう昼休みだ。これで窓際の席が残っていなかったら今日は連理の奢りな」
「じゃあ私日替わりランチね」
「まじかよ……勝手に決めるなよ、ったく」
寝起きの髪をぐしぐしと掻きながら、紫苑と宏人の後を追って学食へと向かう。
なんの変哲もない平和な日常。
そう、これはそんな何気ない日々のたった1ページに過ぎない……。
「っ!」
「連理、どうかしたの?」
な、なんだこの感覚は?
心臓が急に跳ねて……。
唐突に脳裏をよぎる、悪夢のような光景。
平和だった教室が殺戮のショーへと変わり、宏人が、紫苑が殺される。
そんな地獄の光景が突然再生される。
「こ、これは?」
訳も分からず周囲を見回す。
教室には半分くらいのクラスメイトが残り、それぞれお喋りをしながら昼食を楽しんでいる。
違う、俺のクラスは、学校は!
本物の記憶が蘇った瞬間、俺は夢から現実へ醒める。
「ねぇ、どうしたの? 連理、ねぇ連理!」
紫苑の声もだんだんと遠くなり、俺は全身が脱力してしまい立てなくなる。
視界がぼやけ、愛しい紫苑の顔も見えなくなる。
そうだ、みんなは……。
◆
「……ここ、は?」
「これで3度目かしら。あなたがここで目を覚ますのは」
隣に座るシンクの一言で、ここがどこだが自覚する。
「保健室か」
学校の保健室。
俺はまたしてもそこのベッドにいた。
「うっ……体がいてぇ」
指一本と力を入れていないはずなのに、全身の筋肉が悲鳴をあけでいた。
「無理もないわ。あんな無茶に古代秘具の力を解放したんだもの」
「そうか……」
俺はたしか、エイスと戦って。
死にそうになったところで古代秘具に力を求めて……。
必死に記憶を整理して現状を探る。
エイスを撃ち殺したことは覚えている。
その後からはっきりとした記憶がない。
「どうなったんだ? エイスは本当に死んだのか?」
「1つずつ状況を整理していきましょう。まずはエイスについて。エイスは間違いなく死んだわ。あんたが殺した」
「……そうか殺ったのか、俺は」
「問題はその後ですわ」
シャー、とカーテンが開き上品な口調の金髪美少女が登場する。
「おまえは……」
「ユキノ。そこにいるシンクの同僚ですわ」
俺をエイスと遭わせるために兵士を引きつける囮になってくれた二刀剣使いか。
「あなたの身がどうなったか、嘘偽りなくお話ししますわ。エイスを倒した後、あなたは古代秘具に意識を乗っ取られ、わたくしたちに襲いかかりましたわ」
「……意識を乗っ取られた? 俺が」
シンクに真実かどうかの確認を視線で求める。
「えぇ、ユキノの話は本当よ」
「そうか」
これがシンクのいっていたリスクというやつだろう。
セーブをかけずに酷使しすぎると俺の体が奪われるってわけか。
「それで、ここからが本題なんだけど、あたしたちで話し合った結果あんたにはこの世界の真実を教えておこうということになったわ」
「……世界の真実?」
どういうことだ?
いや、いままでスルーしてきたけど、敵対してきたやつやシンクやユキノとの会話を思い出してみるとそれを助長させるようなものがいくつか含まれていた。
「まさか、こっちの世界がどうとか、ってやつか!」
俺の推理が核心を突いていたのか、シンクとユキノが揃って目を見開いた。
「そこまで察しがついているのでしたら話は早いですわ」
「そうよ。あたしたちが伝える真実、それはこの世界と対になるもう一つの世界についてよ」
「対になるもう一つ世界?」
「あたしたちはこの世界とは違った時間軸にあるもう一つの世界からやってきたのよ」
「随分と壮大なスケールの話だな。まるでどっかのファンタジー世界のようだ」
正直ぶっ飛びすぎて度外視してしまいそうになるが、古代秘具の力が本物であった以上、空想に近いこの話題も真実味を帯びている。
「こちらを表世界とし、あたしたちの世界は裏の世界、裏世界と呼ばれているわ」
「本来であればこちらの世界とわたくしたちの住む裏世界は決して交わることのない平行線状に位置していましたが、近年こちらの世界と裏世界を繋ぐ接点ともなる特異点、座標が発見されたのですわ」
「エイスやあんたの追うザンはその座標を通ってこちらの世界に来て、侵略戦争を引き起こしているのよ」
「侵略戦争!」
「この荒れ爛れた街がその証拠ですわ。やつらはここの地区を支配下に置き、邪魔な住民を殲滅させたということですわ」
「そういう、ことかよ。だからエイスはこの街を、俺の学校を襲ったのか」
沸々と怒りが体の奥底から湧き、全身の毛を逆立てる。
グシャ、と前髪を強めに握りなんとか怒りを抑制しようとするが、留まることを知らずに溢れてくる感情の波に逆らうことが難しくなる。
殲滅だと、ふざけるな!
俺の親友を恋人を、支配なんていう理由で無惨に殺していったっていうのか⁉︎
力が一点に収束し、両手にそれが顕現する!
「落ち着きなさい! また古代秘具に呑まれるわよ!」
「はっ!」
シンクに肩を叩かれ、失いかけていた自我が蘇る。
「はぁ……はぁ……悪い」
「随分と憎んでいらっしゃるようですわね」
「当たり前だ! 紫苑を、宏人を殺した相手だ! どんな理由があろうと許すわけにはいかない‼︎」
ユキノの一言に過剰に反応し、噛みつくように彼女の言葉に食いつく。
「知りたいですか? あなたが追う相手がなんなのか?」
威嚇するような眼圧にも怯まず、ユキノはただただ冷静に尋ねる。
「もちろん!」
「あなたやわたくしたちの敵であるあの者たちはすべて大帝国、オラシオンがこちらの世界に寄越した差し金ですわ」
大帝国オラシオン。
いまの時代には存在しないような大規模な統一国家。
そんな雰囲気が名前から感じられる。
王国とかそういうイメージに近いだろう。
「オラシオンの目的は一つ。こちらの世界のすべてを支配し、新たに国の領土を広げること……」
「つまり俺の敵はよくよくは国になるってことか。ザンはその国に仕える駒ってわけだろ」
皮肉めいた単語を使い嘲笑う。
いまここで殺せないことへのせめてもの抵抗だった。
「その辺りの説明はいまは省きますが、簡単にいってしまいますとそういうことですわ」
「なら、俺をいますぐその裏世界って方に案内しろ! いますぐにでも殴り込みに行って俺の世界を滅茶苦茶にした落とし前つけてやる!」
「馬鹿な真似はやめなさい!」
荒ぶる俺をシンクが叫びながら制した。
「たしかにあんたは古代秘具所有者でそれなりに力もあるようだけど、相手は一国家よ! それにあんたを瀕死にまで追い込んだエイスなんかよりも強い相手が潜んでいるのよ⁉︎ そこに策もなしに正面から殴り込みなんて、自殺行為もいいところよ!」
「なら黙って指を咥えていろっていいたいのか?」
俺の眼圧がより一層険しくなる。
その強さは、エイスと敵対していたときの迫力に匹敵する。
「どちらにせよ。あなたを戦いに参戦させるつもりはありませんわ」
「どういう意味だ!」
「あなたの処遇について話し合った結果、あなたの持つ古代秘具を押収。あなたをこことは違う地域に移らせ、安全な暮らしを送ってもらうというのが妥当だという判断を下しましたわ」
「安心しなさい。あんたの身の安全はあたしたちが保証するから。だからあんたはこれ以上この件に関わらず平和に生きてちょうだい……」
「……ざけるな」
「いまなんと仰ったんですの?」
「ふざけるなっていったんだよ! 紫苑が宏人が殺されたこの世界で俺だけのうのうと生きろ、だと! そんなことできるわけがない!」
どうしても感情が溢れて、止められない。
危険に巻き込みたくないというシンクたちの情は理解しているつもりだが、それでも俺の本心は停滞なんて許さない!
「俺はあの野郎を殺すと誓った復讐者だ! 紫苑の遺体にそう誓ったんだ! こんなところで引いて自分だけ安全圏で悠々気楽に暮らすなんて選択肢ははなからねぇんだよ⁉︎」
気力を振り絞ったところで、全身に流れるエネルギーも回復してきた。
すぐさま黒銃を召喚し、その照準をシンクとユキノに合わせる。
「俺を裏世界に連れて行け!」
脅迫にあたる行為なのは重々承知している。
だが、俺はそれでも進むしかないんだ!
「俺はこんなところで諦めるわけにはいかねぇんだ! 必ず紫苑の無念を晴らすんだ‼︎」
右目から涙が溢れ、視界が歪む。
これはなんの涙なんだ?
シンクのいっていた人を想う気持ちからくるものなのか?
それともまた別のなにかなのか?
「後悔はないの、ね?」
「シンク!」
俺の決意にシンクが真剣な眼差しで問いかける。
それを必死に止めようとするユキノの様子があったが、俺は構わず首を縦に振った。
「なら、俺たちについてこい! 雨宮連理」
「誰だっ⁉︎」
俺たち3人の間に割り込む新たな影。
後ろか!
背後に感じる気配を悟ると、急いで振り向き声主の正体を掴む。
「おっと早まるなよ! 俺はお前の敵じゃない」
全開となった窓枠に腰掛けるひとりの青年がちゃらけた様子で俺の行動にタンマを申し立てる。
癖のある茶色の髪に、童心を忘れない悪戯笑みが似合う顔立ち。
格好はシンクたちと同じ漆黒のマントで、頭には特徴的なサングラスがつけられていた。
「俺はシド。そいつらと同じ帝国反逆組織黒き灯火の一員だ」
「帝国反逆組織、だと?」
「そうだ。おまえが敵視する輩の野望を阻止するために設立された組織、それが俺たち黒き灯火だ」
「つまりテメェらについて行けばザンに会えるってわけか……」
「ご明察。っうーわけで目的が同じもの同士協力しようぜ、連理」
パチンッ、と指を鳴らすシド。
馴れ馴れしく軽い口調ではあったが、その瞳の奥には揺るぎないなにかが灯っているようにも感じられる。
「……いいぜ、俺をその組織に加えてくれ」
俺の決意を耳にすると、ニヤリとシドが笑い、どこからともなく彼らの着ているものと同じ黒マントを投げつけてくる。
「歓迎するぜ、雨宮連理。ようこそ、くそったれな世界へ」
俺はこうして、己の目的を達成するため謎の反逆組織と協力関係を結ぶのだった。
皆様お久しぶりです。
作者のゆう@まるです!
10話ぶり、くらいですかね、後書きでコメントを残させて頂きます!
さて、今回を持ちましていよいよ第1章も終幕、続く第2章へと物語は進んでいくわけですけど……。
率直に申し上げますと、文章以外でのキャラクターの個性の重視が難しい⁉︎
連理や他のキャラクターだったりと、ある程度までは行動で個性を描けるのですが、何気ない台詞一つからもそのキャラクターの性格が現れるということを友人から指摘され、自分の中の連理ってどういうキャラだっけ? どんな風にしたら連理らしさが追求できるのかな? なんてことを考えてしまっていますw
とまぁ、そんなことを考えつつ、執筆しているわけですが、絶望トリガーはまだまだ序章、始まったばかりです!
これからもご愛読頂いている方を楽しませられるような作品作りができるよう善処致します。
何卒応援のほどよろしくお願いいたします。
作品へのブクマ、評価、感想等お待ちしておりますのでお気軽にお付けください!
どんなバッドな感想だろうと受け入れる覚悟でございますww
それでは、次章の更新をお待ちください!
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