episode11〜影と虚実〜
「ようやく戻ってきましたか」
「まるで俺が戻ってくることがわかっていた口振りだな」
シンクを混じえ、エイスと対峙する。
減らず口を叩く必要もないので、俺はすぐさま両手に剣を召喚し猛進する。
同時にシンクは後退し、エイスから一定の距離を空ける。
「単細胞が」
予想に反することなく俺の先制攻撃をくらったエイスの体は霞がかり消失する。
「私にそんな攻撃が通じると、でも?」
「さぁな、それはどうだろうな?」
「なに?」
バンッ、と不敵に笑う俺とそれを訝しむエイスの間に一筋の光が凄まじい速度で通過する。
シンクの弾丸だ。
シンクが後方から的確にエイスを狙い撃ちしていた。
「ちっ、まさか!」
危機的察知能力でも働いたのか紙一重でシンクの弾丸を避けると、忌々しそうに舌打ちをするエイス。
「ならば、先に狙撃者であるあなたから始末するだけの話だ!」
エイスはターンをすると中距離用の両手銃を持つシンクにターゲットとする。
そうくるよなっ!
俺はエイスが駆け出すのを見ると、その背中から遠ざかるように後退。
その間、接近するエイスに銃を撃ち続けるシンクだが、残念ながらその弾丸は着弾することなくやつの体をすり抜けていく。
しかし、俺がある程度離れたところでその光景は一変する。
シンクはすべて的外れな方向へと銃を乱射しており、エイスはまるで盲点にでもいるのか最短ルートで彼女の元まで走り寄っていた。
ビンゴだ!
そして、いまの俺からはテメェの位置がはっきりとわかるぜ、エイスッ‼︎
俺は、剣から銃へとモードチェンジし、無防備なエイスの背中を狙い撃つ。
「しまっ!」
さすがのエイスもシンクを警戒していたためかわずかだが反応が遅れる。
数発と撃ち続けた俺の弾丸がエイスの肩、脚を掠め細い血の線を飛ばした。
「テメェの古代秘具は一定範囲内の人間の幻を見せる、幻覚系の能力だろ? 違うか?」
シンクとサンドイッチする形で俺はエイスに喋りかける。
「ふっ、ははは。正しくは虚実を現実にする能力だが、一応は正解にしておいてやろう」
古代秘具のネタを見破られたというのに、余裕綽々と笑うエイス。
やはりこいつまだ隠し持っていやがるな。
「たしかに私の古代秘具、シャドウ・フェイクスの効果は一定範囲内にしか及ばず、離れた相手からは私の姿がはっきりと映ってしまうという致命的な弱点がある」
さすがにそんなことは重々承知済みか。
どう出る?
「ですが、私がその対策を講じないとでも? シャドウ」
またしてもエイスの姿が消失する。
今度は俺とシンク両方の視界からエイスが消えたようだ。
シンクも俺同様にエイスを見失い、キョロキョロと周囲を警戒していた。
だが、
「シンクっ‼︎」
そのネタもあらかた正体は掴んでいる!
シンクに合図を送ると、彼女は銃を空へと掲げ射出。
作戦通り閃光弾を放つ。
打ち上げられた閃光弾は上空で破裂。
あたりが眩い光で満たされ、影すらも透明に照らす。
「光は影を照らす、そうだろ? エイス」
エイスの古代秘具の能力、それは自身を影と同化させること!
「貴様っ!」
ほんの数秒だが、影が白に染まったその瞬間、消えたはずのエイスの体が実体を持ち現れる。
すぐさま左の銃を破棄、右手の銃を剣へと変換し、エイスに斬りかかる。
カキンッ、と金属と金属が互いに火花を散らしぶつかり合う。
「仕込みナイフまで持っているとはな」
体重が分散しないようにと右手の剣に絞った攻撃が逆に仇となる。
エイスはほんの数センチとしかない刃渡りのナイフで俺の古代秘具を受け止めていた。
「まさか、あなたごときに私の古代秘具の能力をすべて見破られるなんて思ってもいなかったですよ」
ギリギリ、と重なった刃と刃がせめぎ合う中でエイスの口から台詞が漏れる。
「ですが!」
キンッ、と俺の刃が弾かれる。
「なっ!」
突然の怪力に、俺はほんの数瞬だが無防備となる。
そのがら空きの腹にエイスの脚が刺さり、俺は蹴られた勢いに任せて地面を転がる。
こいつ、古代秘具だけじゃなく対人用のスキルまで……。
「連理⁉︎」
シンクが声を上げながら援護射撃をする。
だが、エイスは目で追うことのできない速さの弾丸を易々と回避してしまう。
「大丈夫?」
「あぁ……問題ない」
シンクに支えられながらなんとか態勢を整え、再度正面で対峙することとなったエイスを睨む。
「エイス……」
「不本意ですが、能力が知られた以上私も本気を出さないといけないようですね」
睥睨する俺に応えるように、エイスも眼鏡の奥の瞳孔を鋭くする。
本気、という単語に自然と身構えるシンク。
「連理、気を引き締めなさい!」
「……あぁ」
俺が武器を握り直すと、エイスがついに動いた。
己の影に手を置き、力を解放する。
「固有スキル解放‼︎」
エイスが叫ぶと、あたりの影が意思を持ったかのように自由に踊り出す。
「なんなんだよ、あれ……影、なのか?」
「これで終わりだ」
エイスが冷たく宣告すると、ぐねぐねと海藻のように揺らめいていた影たちが一斉に俺たち目掛けて襲いかかってきた。
影の性質なのか、自由自在に形を変えられるらしく、全身を尖らせそれをチェーンソーのように回転させた影が迫ってくる。
「くそっ!」
咄嗟に剣の腹を盾にして回転する影の刃を制する。
ギィィーン、と音と火花を散らしながら影のチェーンソーが俺の剣をへし折ろうと奮闘する。
「連理!」
手を離せない状況的にある俺をサポートしようとシンクがチェーンソーに狙いを定める。
だが、そんな彼女の元に影の槍が飛来する。
「きゃあっ⁉︎」
瞬時に銃を下げて、回避に専念するシンク。
あまりにギリギリなタイミングであったため完璧には躱しきれず、槍の矛がマントの端っこをビリリ、と破いた。
皮膚まで貫通したのか、漆黒のマントからは赤黒い液体が滲んでいた。
「シンクっ‼︎」
「仲間の心配をしている場合ですか?」
「しまっ――」
俺がシンクに注意を向けたわずかな隙を突いて、エイスが背後に回り込んでいた。
俺から生える影が伸びる。
それは細長い針に形を変えて、勢いよく俺へと射出される。
勿論チェーンソーを支えている俺に避ける術はない。
散開した影の針が俺の身体のいくつもの箇所を貫いてくる。
「がはっ!」
口から鮮血が溢れ、すぐに口内が鉄の味で満たされる。
「連理ぃ‼︎」
「次はあなたです!」
声を荒げるシンクの背後にもエイスが迫る。
次の瞬間、シンクの足元からも影針が出現し俺と同じように針刺しにされる。
血を流し、倒れ臥す俺とシンク。
既にボロボロで満身創痍であるが、エイスはそんな俺たちを見逃すほど甘いやつではない。
生きていることを確認すると、すぐに別の影で追撃してくる。
ハンマー状の影が地面を穿ち、強制的に宙へと舞わされる俺の体。
重力に従い道路へと落下し、2、3度バウンドする。
落下の際頭を強く打ちつけたのか、軽い脳震盪が起こり視界がぐわぐわと歪む。
ちく、しょう……なんて強さなんだ。
己の無能さを知らしめられ、悔しさのあまり握り締めた拳が震える。
「所詮はこの程度、ですか」
「エ、イ、ス……」
仰向けになる俺を見下ろしながらエイスが嘆息する。
「消えなさい。私の前から」
その一言を最後に、頭上から無数の影が降り注ぎ俺の全身を貫いた。




