episode10〜仲間〜
「……シャドウ」
エイスが動いた。
「また消えた!」
同じ攻撃なのか、エイスの肉体が虚空へと消える。
もうその手は見破っている!
感覚を研ぎ澄ませば居場所は把握できっ――
「がはっ!」
俺が探知を開始した直後、脇腹に重たい衝撃が襲いかかる。
は、速いっ⁉︎
なんだこの衝撃は……やられたのは一箇所だけなはずなのに体全体に揺れる感覚が伝わってくる!
危うく一発で昏倒しそうになるが、歯を食いしばってなんとか意識を繋げる。
「くそっ、どうなってんだ」
「解説する暇は与えませんよ」
「がはっ!」
続け様に、顔面、背中、足に同じ衝撃が与えられる。
や、やばい……このままじゃ。
考えろ、こんな意味不明な攻撃を加えてくるんだ、おそらくエイスも古代秘具を使用しているに違いない!
なら、その能力さえわかれば勝機はある!
「私の古代秘具のネタを探ろうとしても、遅いですよ」
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」
ひときわ重い衝撃が腹部に穿つ。
あまりの衝撃に痛みさえ忘れ、意思が遠くなる。
た、倒れるかっ!
「はぁ……はぁ……」
「あの一撃を喰らってまだ立っていられるとは。その根性は素直に賞賛します」
腹部を押さえ、ふらふらと後退する俺の目の前にエイスが突如として現れる。
まじでなんなんだよこいつの古代秘具は?
「ですが、これで終わりです」
スゥ、とエイスの体が揺らめき、霞みがかって消える。
消えっーーいや、すぐ隣から殺気⁉︎
肌でそれを察知した途端、拳が迫ってくることが予知できた。
逃げようとするが、体が鉛のように重く動いてくれない。
ーー殺られるっ⁉︎
そう覚悟した瞬間、俺の背後から光の弾丸が飛んでくる。
それが地面へと着弾すると、眩い閃光を放ちあたりを白色に染める。
「ちっ」
あまりにも眩しい光にエイスは舌打ちし、すぐさま後退する。
その姿は、いままで見せてきたどのエイスよりも鮮明で、実体を感じさせた。
「まさかっ!」
「こっちよ」
エイスの古代秘具のネタの全貌が見えたタイミングで、俺の手を誰かが握った。
慌てて振り向くと、そこにいたのはーー
◆
「どうしてあんな無茶をしたのか、まずはその理由から聞きましょうか」
火が届いていない建物まで逃げ込んだ俺に、険しい眼差しでシンクが尋ねる。
閃光弾でエイスの目を眩まし、隙を作ってくれたのはシンクで間違いなさそうだ。
「俺は俺の目的のために動く、それだけだ」
「あんた……いったでしょ、あんたの仇である白き死神はもうこっちにはいないって!」
「でも、あのエイスってやつなら居場所を知っているんじゃないか!」
「知っているかもしれないけど、ただでさえボロボロなあなたが敵う相手じゃないわ!」
「それがどうした! この身がどうなろうと俺は進むしかないんだ⁉︎」
もう、紫苑はこの世にいないんだから。
あいつは俺にどんなときでも立ち止まって欲しくないと願っているはずだ。
「あんた……泣いてるの?」
気づけば俺の右頬には暖かいなにかが伝っていた。
涙だ。
俺の右目から流れた涙が頬に落ちていた。
左目は壊れているためそんな感覚はないが、きちんと右目からは暖かいものが伝わってくる。
「くそっ……違う!」
「ぷっ、あはは。なによ顔まで真っ赤にして可愛いわね」
緊迫した雰囲気の最中、シンクが噴き出す。
強張っていた表情は嘘のように柔和になり、肩の力は自然と抜けている。
「ねぇ、どうしていまあんたは泣いてるの?」
「し、知らねぇよ」
「人をやめるにはまだ早いって意味じゃないのかな、それは」
なにをいってやがるんだこいつは?
理解できない。
俺はとっくに人には戻れない体に……。
「だってそれはあんたの大切な恋人を想っての涙でしょ? 殺されて悔しい、憎いのはわかるけど、それ以上に悲しみが大きいんじゃないの?」
「……だけど、俺は復讐者だ」
「頑固なんだから……いい、エイスは皇帝の騎士でもNo.6の座に君臨している深淵なる者という異名を持つ強敵よ」
「……悪い、No.6といわれてもピンとこないんだが」
「あんたの宿敵である白き死神よりもランクが上といったらわかるかしら?」
「単純な話、あいつより強いってことか?」
「そうよ。あたしたちの掴んでいる情報では、所持する古代秘具の名前はシャドウ・フェイクス」
「能力の正体はわかっているのか?」
「そこまではさすがに……あんたの戦いを遠くで観察していたんだけど、ネタは見抜けそうになかったわ」
俺の感じたものも確実性があるわけではない。
なにか仮説が確証に変わる決定的な証拠があれば話は進むのだが……。
「そういえばあんた、どうして何もないところに銃撃ったの? 威嚇射撃にしては的を外しすぎじゃない?」
「はっ?」
的を外す?
俺の記憶では相手を捉えられていない無駄な射撃をした覚えはない。
「……おいっ、それはいつのタイミングだ!」
「いつって、あんたがエイスと戦っていた場所に着いたあとすぐよ」
俺がエイスと対峙したあのときか!
たしかに俺はエイスと対面してすぐに銃を撃ったが、それは決して的を大きく外した一撃ではなかった。
なのに、シンクは俺が無駄撃ちしたと勘違いしている。
「それに、いくら動きが鈍っているからってあんな近くまで接近されて黙って殴られているなんて、馬鹿じゃないの?」
接近されて殴られた?
たしかに俺の体は衝撃を受けていたけど、それはあちらの姿が見えなかったからであって、さすがに目で捉えられる相手の攻撃くらいならどうにか対処できる。
俺とシンクに生じている認識のズレ。
いくら遠くから観察していたからといって、そこまで酷いズレが生じるものだろうか?
いや、待てよ。
もしその認識のどちらかだけが正しいとしたら?
俺の見ている世界とシンクの見ている世界が全く違かったら?
「……そうか! わかったぞやつの古代秘具のネタが⁉︎」
「嘘っ! それほんとなの⁉︎」
「あぁ……まだ確証はないがたしかめてやる」
「それで、どうしてあんたはひとりで行こうしているの?」
エイスの元へと戻ろうとする俺をシンクが遮る。
「これは俺の戦いだ。お前には関係ない」
「残念ながら関係あるわ。あたしたちの目的は、可能であれば深淵なる者及び白き死神の抹殺。あれはあたしたちのターゲットでもあるのよ」
「殺すのが目的なら俺が殺ろうとそっちには支障はないよな? 邪魔をするな」
「悪いけど邪魔させてもらうわ。いまのあんたでは行っても殺されるだけ。あたしは死ぬとわかっている相手をみすみす戦地に送り出すような真似はしないわ」
「……なら、無理矢理にでも押し通る!」
剣を構え、戦意を証明する。
だが、シンクは怯むことなく続ける。
「話は最後まで聞きなさい。あたしは最も成功する確率の高い方法を選択しなさいといっているの! 無闇やたらに突っ込んで被害を拡大させるよりも、確実性の高い道を選ぶ方が得でしょ?」
「確実性の高い道?」
「共闘よ。あたしと連携してエイスを倒す」
「連携ったって、俺たちは今日会ったばかりじゃ……」
「たしかにちょっとやそっと一緒にいるだけじゃ完璧なコンビネーションは生まれない。だけど、あんたは既に連携に必要なものを持っている」
「……なんだよ、それは?」
「いまあんたが流している涙がそれよ。大切な人を想う気持ち、それが連携を生み出すための真核になる!」
人差し指を胸元へと押し当て、シンクが宣言する。
まるで俺の気持ちに直接語りかけているかのようだ。
「連携やコンビネーションというのは、仲間を想い、信頼し、背中を託したときに初めて成立する技なのよ。連携すればひとりでは成せないことも成せるようになる! 勝てない相手にだって勝つことができる‼︎」
「……」
「おそらくいまのあたしたちの力じゃエイスには勝てない。だから協力するの! ひとりで独走するんじゃなくて、きちんと足並みを揃えて強大な敵へと立ち向かうの‼︎」
「あぁ、くそっ……まったくその通りだよ」
シンクに指摘され、いままでの己の行動を振り返り改めて納得する。
「たしかに、俺ひとりじゃあいつには勝てない。それどころか死ぬだけだ」
さっきまでは衝動に突き動かされるままに、命を賭した覚悟で突進するだけで、最悪ここで死んでも構わないとまで思っていた。
だが、冷静になってみるといまここで死んだら紫苑の仇が討てなくなる。
それだけはダメだ!
例え死んでも気持ちが収まりつかない!
「ようやく、己の力量を認めたわね」
ふっ、とニヒルに笑うシンク。
そんなシンクに俺は、
「確証は薄いがやつの古代秘具の能力についてわかったかもしれない。いまからそれを話す」
◆
堂々と道の往来で佇むエイス。
俺とシンクはそんなエイスの様子を建物の陰から見張っていた。
逃げた俺たちを追いかけてこないあたりこちらに関心を失ったのか、それとも必ず攻めてくると確信しているのか。
どちらにせよ、逃げられなかったわけだ。
ここは幸運だと思っておこう。
「作戦は頭に叩き込んだわね」
俺の情報を受け、シンクが戦略を立案した。
「あぁ、完璧に記憶してる」
「そう……なら最後にひとつだけ忠告よ」
「なんだよ?」
「強くなるためにいくら憎しみに、闇に囚われても構わない。だけど、人を想ったあの涙だけは最後まで無くすんじゃないわよ。その気持ちさえあればあんたはまだ人でいられるから」
シンクの緋色の瞳が揺れる。
そのメッセージにどんな想いが込められていたのか、正直俺には理解できなかったが、いまは素直に受け取っておく。
「さぁ、行くわよ!」
「あぁ‼︎」
シンクも加わり、俺は再びエイスとの対決に臨むのだった。




