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絶望トリガー 〜絶望の弾丸と漆黒の反逆者〜  作者: ゆう@まる
第1章〜絶望の復讐者編〜
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episode1〜失われたもの〜

  世界は一瞬にして絶望へと塗り変わった。

  ほんの数十分前までは普通に授業が行われていた教室は多数の肉塊と夥しい量の血液が放つ酷い悪臭で満たされている。


  どうして、どうしてこうなった?


  自問自答するも答えを返してくれる者はここには誰もいない。

  俺の手には血で汚れているはずなのに、錆びつく気配のない漆黒の銃が握られており、足元にできた血の池には先ほどまで平和な日々を送っていたクラスメイトたちの死体が無数に転がっている。


「……紫苑しおん


  そして俺の傍に転がるひとつの死体。

  胴体を巨大な刃で切り裂かれ、重く閉じた瞼は二度と開く気配のない少女の遺体。

  この死体は俺の最もよく知る人物であり、最愛の恋人の魂が宿っていた肉体だ。

  そんなわずかな温もりさえも消えた女の手を握り締め、俺は決意する。


「俺誓うよ……おまえを、クラスメイトを殺したあいつを――俺がこの手で必ず殺すと!」


 ◆


  俺、雨宮連理(あめみやれんり)はいつもと変わらない朝を迎えていた。

  学校へ行くための通学路。

  その途中にあるバス停で立ち止まり、待つこと数分、こちらに手を振りながら無邪気な笑顔を振りまくひとりの少女が走ってくるのが見えた。


「連理、お待たせ!」


  彼女は姫川紫苑ひめかわしおん

  俺の高校でのクラスメイトであり、恋人だ。

  長い桜色の髪に透き通った瞳。

  誰にでも優しく、表裏のない活発な美少女でありクラスの男子女子問わず人気が高い。

  正直自分では不釣り合いなのでは、と思うレベルの出来すぎた彼女だ。


「いや、俺もいま来たところだから大丈夫だ」


「ふ〜ん……いま来たねぇ?」


「な、なんだよ?」


  訝しむような視線が紫苑から送られてくる。


「別に連理は連理のままでいいのに」


「どういう意味だよ?」


「彼女の前だからってデキル男を演じずに、素のままでいいってことだよ。連理は女の子相手に気を使ったりしないし、デリカシーに欠けるところがある、馬鹿正直な性格なんだから」


「なんかさり気なくディスられてないか、俺?」


「連理は連理のままで十分カッコイイってことだよ!」


  ニヘラ、と笑い上目遣いで俺を覗いてくる紫苑。

  こういう不意打ちが得意なところが可愛くて、ついドギマギさせられるんだよな。


「だから、待ったなら素直に待ったっていっていいよ。連理いつも待ち合わせより早く来るから退屈でしょ?」


「……俺は別に退屈だとは思ってねぇよ」


「そうなの? それなら今度は私が連理の来る時間ぴったりにここにいれるようにするね! それなら待っている時間なしでいられるからね」


「なんだよそれ」


  ちょっと、独特な雰囲気こそあるものの一緒にいて楽しい。

  こういうところが紫苑の一番の魅力なのかもしれない。

  ほんと、俺には勿体ない彼女だよ。


「ふぅ、朝っぱらからお熱いねぇ、お二人とも」


「わっ! 宏人くん⁉︎」


  不意に背後から声をかけられた紫苑が驚き飛び跳ねる。

  紫苑を脅かしたのは、俺と同じ制服を着た茶髪の青年。


「おまえなぁ、いきなり現れるなよ」


「わりぃ、わりぃ。連理たちがあんまり良い雰囲気醸し出してくれちゃっているものだからつい、な」


  こいつの名前は、新橋宏人しんばしひろと

  俺や紫苑と同じ天の丘高校に通う同級生でクラスメイト。

  チャラい見た目の割に根は真面目で友達想いの俺の親友だ。

  実は紫苑と付き合うようになったきっかけもこいつが作ってくれたものだったりする。


「にしても日を増すごとに熱を帯びていくよなぁおまえらは。まっ、連理さんに至っては相変わらずの無愛想っぷりですけど」


「うるせぇ」


  無愛想な自覚もあるし、感情表出もうまくない。

  目つきも悪いため怒っていると勘違いされてしまうことも多々ある。

  そんな俺だが、宏人や紫苑だけは避けずに接してくれている。


「んっ、どした連理?」


「嬉しそうな表情だね」


「うそっ、こいつのこれのどこが嬉しそうな表情なの⁉︎」


「わかるよ。連理のこといつも見ているんだから。些細な感情の変化だって見逃さない自信あるもんね」


「うわぁ、そこまで想ってもらえる連理マジで羨ましいわ〜。んで、当の本人さんは何をお考えなんですか?」


「いや、なんとなく……いまこの時間がずっと続いたらいいなって思って」


  俺の臭い台詞に二人が少しの間固まる。

  だが、すぐに宏人が噴き出した。


「ぶっ、ははは。なにメルヘンチックになってんだよおまえ」


「あはは、連理ったらそんな心配しなくても大丈夫なのにね」


「なんだよ紫苑まで笑うのか!」


「ごめんごめん、だって……」


「俺たちはずっと仲良しだろ? それはこの先も変わらない、だろ?」


  宏人が俺の肩に腕を回してくる。

  紫苑が俺の腕をそっと抱きしめてくる。

  やっぱり俺は幸運なのだと改めて自覚する。


「あぁ、そうだな」


  だって、こんなにもかけがえのない友達、彼女に恵まれているんだから。

  そのまま変なテンションではあるが、俺たち三人は学校まで適当な話をしながら向かうのだった。


 ◆


  楽しい時間は終わり退屈な授業時間。

  真面目な現国の先生が板書する黒板をひたすらノートに写すだけの退屈な授業を適当に受けながら、俺は昼休みを待つ。

  早くお昼にならないかな……。

  そうすれば紫苑と話せるのに。


  席運というものには巡り合わせがなかったせいか俺と紫苑の席は離れており、授業中に会話できる距離ではない。


「はぁ〜……」


  ついため息が漏れる。

  そんな時。


  ピンポンパンポーン!


  校内放送を告げるチャイムが鳴った。

  ……なんだ? 授業中に放送とか緊急連絡かなにかか?

  そう思い意識を適当なところに持っていこうとした直後だった。

  予想だにしない事態が起こったのは。


『ハロハロ〜この学び舎に通う生徒諸君!』


  聞こえてきたのはふざけた口調の若い男性の声。

  先生や生徒といった様子の感じられない声音だった。


『俺様はザン。大帝国オラシオン皇帝の騎士(ラウンズ)のNo.7にして、白き死神(ホワイト・ハーデス)っていう異名を持つ執行人さ』


  内容も理解できない放送にクラス中がざわめく。

  誰かの悪戯?

  というか教師はなにやっているんだ?

  ヒソヒソと周囲からそんは声が耳に入る中、放送中の男はさらにテンションをハイにして続ける。


『大変勝手ながらいまからこの学園は……俺様の戦場となりま〜す‼︎』


  その直後ヒュンと、細いなにかが空気を切る音がする。

  それに続く形でべチャリ、という肉が落ちる音が聞こえてくる。


『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎』


  遅れて流れてくる人の断末魔。

  あまりに生々しいその悲鳴にクラス中が戦慄する。

  そんな状況に拍車をかけるようにべチャリという血が撒き散らされる音が放送器具を介して伝わってくる。


  それはあまりに凄惨で生々しく、俺たちに得体の知れない恐怖を与えるには十分すぎる材料であった。


「……君たちはそこにいなさい。私が確認に行ってくる」


  突然の異常事態に顔を青ざめる先生だが、すぐに状況を把握すべく教室の扉を開ける。

  しかし、それが間違いであった。

  今度は放送器具を介してではない、すぐ近くで肉を切り裂く刃物の音が聞こえてくる。

  あまりに一瞬すぎる出来事でクラス中の思考が停止するが、教室を出て行こうとした先生の胴体が真っ二つに斬られているという事実だけは理解することができた。


「きゃあぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」


  噴き出す赤黒い鮮血。

  同級生の女の子の口から出る悲鳴。

  それを合図に世界が一変した。

  さっきまで平和でなにもないはずの教室が地獄と化したのだ。


  胴体を切り離された先生の遺体を押しのけ、教室へと侵入してきたのは黒い兵服を着た長身の男。

  手には西洋風な剣が握られており、その刀身には先ほど切った先生の血がべっとりと付着していた。


「な、なんなんだよおまえは!」


  ひとりの男子生徒が叫んだ。

  だが、それは最悪を呼ぶ引き金となる。

  その声を合図に男が動いた。

  教室の扉から一番近くの席の生徒に向けて剣を薙ぎ払う。


「えっ?」


  胴体が飛び、鮮血を散らすクラスメイト。

  今度は悲鳴を上げる暇すら与えてくれない。

  とにかく片っ端から、近くにいる生徒を、男女関係なく男は剣で切り裂いていく。


  なんなんだこれ、悪夢か?


  抵抗する間もなく無残に体を裂かれていくクラスメイトたち。

  俺はそんな殺戮光景を目の当たりにしながらなにもできずに立ち尽くしてしまう。

  そして殺戮の刃はついに俺をターゲットに選ぶ。

  神速の刃は俺を殺そうと迫る――

 

「連理!」


  己の命を諦めた直後、誰かに背中を押された。

  宏人だった。

  宏人は、恐怖に慄きながらも必死に足を動かし俺に体当たりをしていた。

  もちろん剣は狙いを外し、代わりに俺のいた場所にいる宏人の体を切り裂いた。


「ひ、宏人っ⁉︎」


  真っ二つになる親友の体。

  必死に手を伸ばすも、その手は決して握られずに空を掴む。


「……テメェ」


  宏人の死が突きつけられると同時に俺の心に黒いなにかが芽生えた。

  すると、いままで恐怖で動かなかった体が嘘のように軽くなり、いまさっき親友を殺した男を睨みつけていた。

 俺はこのとき、初めて人を殺してやりたいと思った。

 それでもまだ人の情が残っているせいか、はたまた相手に得物があり不利だと悟っているせいか、無謀に殴りかかるなんて真似はしない。


「お前らは一体何者なんだ!」


 目的不明な上に大量虐殺。

 普通じゃないのはわかっているが、それでも叫ばずにはいられなかった。


「……」


  男はなにも語らず、無言で剣を構える。

  殺される⁉︎

  はっきりとそう理解したそのとき、


「待て」


  何者かが一言制した瞬間、男の動きがピタリと止まった。

  まるでリモコンで操縦されているロボットのようだ。


「せっかく良い目をしているやつを俺様抜きに勝手に殺そうとしているんじゃねぇよ」


  みると、教室の入り口に白いパーカーに巨大な鎌を携えた男が立っていた。

  白いパーカー男は、ゆっくりと死体と鮮血の海をかけわけながら俺の元まで歩み寄るとニヤリ、と笑いかけてきた。


「なぁ、おまえいまどんな気持ちだ? 大事なお仲間たちが次々と惨殺され、挙句の果てにはお友達に命を救われ、いまをのうのうと生きるている」

 

  なにをいっているんだ、こいつは?


「なぁ、教えてくれよ。自分がいま生き残った気分は? 自分がいまから俺様に殺される気分はどんなものかよぉ‼︎」


「あぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」


  次の瞬間には、俺は悲鳴をあげていた。

  左目に鋭い痛みが走る。

  悲鳴をあげたあたりから左目からの光景がすべて黒一色に塗り潰される。

  き、切られたのか?

  左目を……‼︎


  慌てて痛みを感じる左目を手で押さえると、掌越しにヌルッとした感覚が伝わってくる。

  血だ、俺の左目から血が出てる!


「うわあぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」


「そうだよ、その悲鳴だよ! 俺はテメェのその声が聞きたかったんだよ‼︎」


  首元に鎌を押しつけながら、パーカー男が笑う。

  心底楽しそうに笑っている。

  く、狂ってやがるこいつ。


「んじゃあ、これは良い声を聞かせてくれた礼だ。ありがたく受け取んな」


  男が携えた鎌を振り上げた。

  逃げられない!

  そう悟った俺は咄嗟に目を瞑り、死を覚悟したが……。


  鎌が人を切り裂く音が近くから聞こえてきた。

  だけどそれは俺の体ではない。

  痛むのは左目だけで、切り裂かれたはずの体からはなにも感じない。


「ちっ、こいつ!」


  はっ、と右目を開けるとそこにはーー。

  俺を庇い男の鎌で切り裂かれる紫苑の姿があった。


「紫苑⁉︎」


  飛び散る紫苑の鮮血。

  床に落ちた紫苑は一言も話すことなく沈黙する。


「紫苑、おいっ、紫苑!」


  必死に揺さぶるも返事はない。

  脱力しきっており、肌は徐々に冷たくなっていく。

  即死だった……。

 

  死んだ?

  紫苑が死んだ。

  俺の彼女が死んだ……殺された?


「し、紫苑―――っ⁉︎ うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」


  みっともなく泣きながら絶叫する。

  紫苑が死んだ、紫苑が死んだ、紫苑が死んだ!

  俺の大切だった人の命が、奪われた。

  そう事実を了知した途端、自分の中の理性のようなものがバリンと弾け飛んだ。

  いままで理性で抑えていた真っ黒な感情が段々と俺を侵食していき、やがて黒一色に染め上げる。

  心が狂気で満たされていき、人間に備わっている情が消えていく。


「くっ、はっはっはっ⁉︎ まさか二度もお友達に助けられるとはな! つくづく幸運なやつだテメェは」


  男は鎌を下ろし、高笑いする。

  こいつ……楽しんでやがる。

  虐殺を、人殺しを……心の底から。


  人の欠片もないやつの態度が怒りを呼び覚まし、それはやがて真っ黒な炎となり俺の心に灯る。

  それはメラメラと揺れながら、大きくなっていき、やがて俺の心全体を支配する。

  手が激しく震え、唇が痙攣でも起こしたかのようにパクパクと不規則な動きをする。


  ――殺してやる。

  殺してやりたい、俺の大切な親友を恋人を殺したこいつを俺がこの手で殺してやりたい!


 そうはっきりと己の渇望を自覚すると何者かが俺に語りかけてきたような気がした。


 ーーやつを殺したければ人を捨てろ……いままでの自分を捨てて、己の欲望だけを追及しろ。


 それはまるで悪魔の囁きだった。

 それが己の憎悪が生み出した幻聴だったのか。

 正直俺にはわからなかった。

 だが、俺は藁にもすがる思いでそんな悪魔の誘惑に乗っかった。


 ほんの数秒間だけ冷静になる。

 その隙に俺は必要な感情とそうでない感情を分け、邪魔だと判断したものを真っ先に消去する。


ーー刹那、世界が闇色に染まる。


  全身がモヤモヤとした黒いなにかに侵されていき、わずかに残った情を貪り食う。

  体内を巡る血液すべてが沸騰したかのように熱くなり、何者かに操られるように思考回路が勝手に切り替わっていく。

  俺の感情から恐怖、情などといった邪魔ものはすべて切り捨てられ、怒りや殺意といったあいつを殺すために必要なものだけが残し、それにすべてを委ねることで外道へと成り下がっあ。


  残った右目がやつを捉える。

  刹那、俺を侵食していた闇が具現化する。

  力を引き抜き、己の欲望を満たす糧とするべく降臨する。


「…………ころ、して……やる」


「あぁん?」


  油断しきった面を見せるパーカー男。

  だが、その表情は静寂に響くひとつの銃声により険しく歪む。


「なっ⁉︎」


  男の右腕が飛んだ。

  みると前腕の付け根から先が消失している。

  地面に流れ落ちるおびただしい量の血液。

  やつの赤い血はすぐにクラスメイトの血と混ざり誰の者であるか判別がつかなくなる。

  まだだ、まだ足りない!

  こいつらの流した血の量はこんなもんじゃない!


「て、テメェ……その銃は一体」


  負傷した右腕を庇いながら、パーカー男が睨み据える。

  こちらを射抜くような鋭い視線。

  それはたしかに俺を敵意として認識するものであった。


  俺の手には一丁の黒銃があり、その弾丸が男の右腕を消滅させていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

初めまして、作者のゆう@まるです。

戦闘ものの物語を衝動的に書きたくなり、勢い任せに書いた小説ですので、拙い文章ではありますが、少しでも面白いと思ったら感想や評価、今後の応援の程をよろしくお願いいたします!


追記:

毎日投稿実施中です。

投稿時間は22時頃です!


小説家になろう勝手にランキングに登録中です。

潔き一票をお待ちしております!

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