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07

 本気で俺を殺しに来るアケミさん……。止められる気はしないな。


「相談なんだけど」

「なにかしら?」

「アケミさんと俺で、同時に大魔法を使う。それこそ、この洞窟ごと吹き飛ぶくらいのを」

「それで、どうするのかしら?」

「そのどさくさで、アケミさんは元の世界に戻れないか……?」

「全員から姿を隠せるほどの魔法、まだヒナタには使えないわよね」

「そうだね」

「そうなると、必然的に私の魔力も消費する」

「帰れないほどに消耗しそうか?」

「帰れないことはないわ」

「なら」

「その代わりね、戻れなくなるの……」


 帰る時、魔力のほとんど半分を消費する。そして戻る時にまた、同じだけの魔力を使う。

 ここで魔法を使ってから帰ることは、魔力を回復させることのできない向こうから戻れなくなることを意味する。


「死ぬくらいなら、そのほうが」

「ヒナタには話してなかったわね……私がここに来た理由を」

「理由?」

「ヒナタは、異世界に行くきっかけと聞いて、どんなことを思い浮かべるかしら?」

「物語でよくあるのは死んで転生したり、召喚されたり……」

「死がきっかけになりやすいことは、共通認識としてよさそうね」

「でもアケミさん、死人ってわけじゃなかったよな……?」


 あのとき俺に声をかけてきたアケミさんは、確かに実体を伴って、周りの人間にも認識される存在だったはずだ。


「そうね。でも、私はもう向こうの世界では死んだも同然なのよ」

「どういうことだ……?」

「自殺未遂、その後、行方不明。それが私の、向こうの世界の状況」

「自殺未遂で行方不明ってどういう……」

「あまりよく考えずに薬を大量に飲んで、意識を失った。朦朧とした意識で目を覚ました時には、この世界にいたの。向こうの世界に帰って確認したら、私は行方不明者として捜索されたのち、死亡判定を受けていたわ」


確かに向こうでは、一定期間行方不明が続けばそういう風に扱われることもあったはずだが。


「海も近い地域だったし、そういう風に解釈されたんじゃないかしら?」


 そこからアケミさんはこの世界に適応していった。

 自分が向こうの世界で死んだのは、ここで何かを為すためだと思いこむことにした。


「そこで魔王を倒し、森の魔物を追い払うという目的を見つけた」


 この目的のために、できることに全力で取り組んだ。このころにはもう、向こうの世界のことなど気にしていなかったが、自分の力と周りの力の差に気付き、元の世界の人間の力を借りることを思いつく。


「この世界の魔法、私が向こうで学んできたことに近かったの」


 魔法は科学の延長だった。俺にはよくわからないが、魔法陣は構造式と呼ばれるものと法則性が似ていたらしい。

 あらゆる魔法を調べあげ、自分のものにし、ついに元の世界と行き来する方法にたどりついた。


「そして、あなたを見つけた」

「初めての割に、余裕たっぷりだったけど」

「こちらに来てから失敗なんてなかったから、少し調子に乗っていたのでしょうね」


 いつもの笑みより、少し照れくさそうな表情を浮かべる。初めて見せてくれる表情だった。


「そういうわけだから、私は向こうから戻ってこられなくなるくらいなら、ここで死にたいの。あの世界は私にとって耐えがたい地獄があった。今となっては大したことではないかもしれないけれど、私はこの世界で最期を迎えたい」


昨日話してくれたアケミさんは、「元の世界で生きていくこともできる」と言っていたが、あれは嘘だった。 アケミさんは向こうで生きていくことを望んでいない。この意思を、覆すことは難しそうだ。

元の世界に戻りたくない気持ちは、俺だって理解できる。

この世界に来て、初めて自分を認めてもらえたように感じた。今更あの生活に戻れと言われるのは、きつい。このままこの世界で、自分ができることをどんどんしていきたいと思う。そのほうが、満たされた人生を送れることは間違いないのだから。


「アケミさんが俺を元の世界に帰して、しばらくしたら迎えに来るって言うのは?」

「あなたはすでにここに来たことがわかっているのだから、今この場で姿を消せば、あなたが魔王だったと説明せざるを得ないわ」


 それも、かなり苦しい説明になるという。どちらにしても俺はもう戻れない。

どうにかする方法はないのか……。アケミさんを殺さずに二人ともこの世界で生きていくための方法は……。


「逆であれば、まだ可能性はあるのだけどね」

「逆?」

「あなたが、私を迎えに来るの」


それはつまり、あの異次元の魔法を俺が使いこなさなければいけないということだ……。


「俺が迎えに行く……」

「この魔法、使える当てがあるのかしら?」


簡単に頷けない。これは、アケミさんの人生をかけた問いかけだ。

死ぬか、生きるかの選択ではない。幸せに生きたと言いきれるか、そうではないかの……。


「何とかする。絶対」


だからこそ、俺は力強く返事をした。


 「そう……。あなたを、信じるわ」


 こちらをまっすぐに見つめるアケミさんの表情は、出会ってから初めて見るものだった。

祈るような、すがるような表情だ。いつも余裕を崩さなかったアケミさんが、いっぱいいっぱいであることがよくわかる。


「絶対に応えないといけないな……」




そこからの動きは早かった。

 二人で使う魔法を相談し、手順を確認する。洞窟ごと吹き飛ばし、光で目をくらまし、誰もに激しい戦闘の末、魔王が消滅したように演出する必要がある。


「ここまで話を詰めていれば万が一にも、演出のほうが失敗することはないわね」

「そう信じたいな」

「こんな連携も出来ない相手を、信じて待つことなんてできないわ」


 いつもの悪戯気な微笑みではない、穏やかな表情だ。


「色々教えてきたけれど、よく見ておいて。直接見られるのは、これが最後」

「しっかり目に焼き付けるよ」


 二人で同時に魔法を発動する。

 後に魔王を一瞬で消滅させた伝説の魔法と言われる、俺一人では絶対に為し得ない大魔法だ。

 洞窟を吹き飛ばし、入り口で待つ騎士団と冒険者の前に姿を現す。同時に光でアケミさんの姿を覆い隠す。その姿を確認できるのは、俺だけだ。

 眩しくてとても見れたものではないが、必死にその姿を、魔法を、目に焼き付ける。

 最期に一瞬、アケミさんがほほ笑んだ気がする。表情が読み取れるほど余裕はない。気のせいかもしれない。

 次の瞬間には光は収束し、そこにはもう、誰も立っていなかった。


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